ダイトーボイス DS-16ⅢFのこと | Whistle Stop Cafe Ⅱ

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Les Aventuriers Deuxième étape


ロクハンと呼ばれる半世紀前の骨董的16㎝スピーカーが、
中古市場ではバブリーなプライスで取引されているようだ。
何も50年前の極度に経年劣化しヘロヘロとなった個体を
転売屋からわざわざ高い金を出してまで、買わなくとも良いのにと、
老婆心ながら同情することしきり。

確かに国産は少なくなったとはいえ、
市場からロクハンが完全に消えたわけではない。(海外製は今でも元気である。)

 

そんな中最近、友人がこれ良いよと紹介してくれたのがダイトーボイスのDS-16ⅢF。

 


昔から名前は知っているが、本品以外でも基本的に老化した

中古には手は出したくないし・・。
ところが今でも新品で普通に買える(それも安い)という。

 

何でもⅢとつく位だから、ヴァージョンアップしているという。

調べてみれば、あの巨大サイトでも、お値打ちで販売中されている。

なので、試しに巨大サイト以外(へそ曲がりなので)のところで、1セットを注文してみた。
お値打ち販売価格からして仕方ないだろうが、届いた梱包の箱にはメーカーのロゴや商品名など
一切記されていない、ただの素っ気ない箱。

 

業務納品用のようなパッケージングは、
箱に化粧を施すなら、その分コストを抑えてという
実にヨーロッパ企業のような割り切った考え方だ。
本来が大量発注向け業務用だろう。

 

これは潔くて実に好ましい。

 


中身だってどうってことはない、素朴でスローライフを体現するような実直そうな製品。
EVでお馴染みのウイザード・コーンは、好みの分かれるところだが、口径が小さいため気にもならない。

 


写真で見た感じの第一印象を言えば、薄そうなコーン紙のエンボス処理した

漉き具合が。パリッとしてそうで反応が良さそうである。
飾り気のない、鉄製フレームと、小さなマグネット、持つと軽い!

 

ダンプ剤を塗布したスムースに動きそうな二つ山クロス・エッジ、
どちかといえば、古典的な風合いを醸し出す。
音のイメージはこの見た目や触った感覚で大体わかってしまう。
たぶんかつて聴いた事のある、あんな音が出るだろう。

それで良いのだ。

これのユーザーの大半は、若い頃ロクハンで散々楽しんで来た中高老年オーディオファンが
今、半分懐古的としても、新しいフルレンジのスピーカーを手にして遊ぶ。
そうした購買層が主なんだろうと思う。

ただししつこく言うが、私はセリフや声が自然に聴こえてくれれば
それでよい。
16㎝にはそうした使い方を求める。
これで低域を伸ばそうと大きな箱へ入れるなど、欲張った妄想はしないに限る。

もちろん、ツイーターも要らない。

 

結局。品物はそのまま箱に戻した。
裸で結線し音も出してはいない。

ただ現物を実際にみれば音は想像できた。
直感的には悪くない製品だと思う。

入れる箱の事は全く何も考えていない。
いつもなら、ちゃちゃっと作るのだが、
どうも気持ちが乗ってこない。

寒いせいもあるが、最近はエイヤ!と動けない。

人もエージングが進むのは避けられないようだ。

 

そして、もう1セット求めて、ツインドライブも悪くないと思うが、
たぶん、来年桜の咲く頃になって、
ぼちぼちと動き出すような気がする。
いわゆる啓蟄の頃までは冬眠を決め込むのだ。

ロクハンのユニットとは、そんなスローな(怠惰な)、
生き様に寄り添う機械のようだ。

 

 

 

 

 

ロクハンが威力を発揮するのが、芸能のCDやラジオ音声のローファイ再生。

昔、パイオニアのPIM16KTを、音声用に使っていた経験からすれば・・

 

古典落語を自然に聴くなら16㎝のサイズがベスト。

トランスを介してモノラル合成し、スピーカー1本と向かい合わせで超接近して聴くと

末廣亭のかぶりつきで志ん生師匠が眼前にいるようで、ご機嫌なのである。

 

 

他に歌物の音楽ソフトを聴くならば、昭和のシングル盤だ。

電蓄=ポータブル・プレイヤー(死語である)、

マジックアイ内臓の当然バリコンチューナーのラジオに、

ラジカセとあの昭和の家電の思い出が昨日のように再現される。

特に女性の歌物を聴くなら、17㎝のシングル盤と

ロクハンの相性は相思相愛で、こうしたローファイ路線こそ

昭和歌謡をして、今に蘇えさせ得る魔法の音響家電なのである。