
カサヴェテスを知ったのは最近である。今話題の濱口竜介の最も敬愛する監督がカサヴェテスと知ったからだ。私が濱口監督に注目したのは、今年になって新文芸座で「親密さ」という10年前の彼の作品を見たからである🎬瑞々しい言葉の中に五時間に及ぶ彼の作品の中に観客を引き込んでいく。その力量は凄い。その濱口にしてのカサヴェテス、見るしかない。カサヴェテス全集、その他初期作品を見まくる🎬その中の一本がこわれゆく女である。エクセレント🎬カサヴェテスの映画の進行は言い過ぎだが、私の脚本にも重なる。つまり自分自身の中からストーリーが持ち出されてゆく。頭で考え抜いたストーリーではなく、作家本人が確信しているストーリーが点在しているため、観客は読めない🎬現代人が及びもつかないリアルな経験を彼の放蕩の中で既に持ち合わせているのだ。濱口はそれに嫉妬している。
さてこわれゆく女だ🎬
「今夜家族と過ごしたい。女房とだよ」
滑落事故が起る。会社が徹夜作業を要求する。夫はコロンボことピーターホーク。女房はカサヴェテスの実妻、名女優ジーナローランズ🎬
微妙な仕草や台詞回しは天才的であり、他の女優を差別する。少しおかしく、少しハイな感じ。少し神経症な感じ…少しの微妙な演技に圧倒される。彼女が演じるメイベルは映像の中で浮遊する…🎬何を仕出かすかわからないけど女。彼女はその夜街に出る。そこで一人の男と出会う。メイベルはロックウイスキーを一気に飲み干す🍺男を誘う。一筋縄ではいかない女。彼女の本能はストレートであり、歪であり、激しい。じゃじゃ馬の方がまだましだ。厭な予感がする。徹夜明けの仲間を連れてニックが帰って来る。メイベルは皆にスパゲッティーを振る舞う。メイベルは人の名前を覚えられないようだ。そんなパーソナルは聞いたことがある。二枚目さんを見つける。それ程二枚目でもないが、メイベルは気に入る。メイベルの様子が少し変だ。ニックは怒鳴る。朝食が一変する。
独りブツブツ言い出すメイベル。
怒り頂点🔥
こうなると誰も触れない😱不安定な女は沢山いる。不安定だらけだ。男は皆不安だ。何とか役目を果たそうとするニック。メイベルを抱きしめる。安定を取り戻すメイベル。彼女は愛されたいのだ。突然子供たちが帰って来る。最悪のタイミング。タイミングとはこういうものだ。
計算されて進んで行かないストーリーがカサヴェテスだ。彼の日常が映画の中にある。それは彼にしかわからない🎬不安定が可愛いい場合もある。彼女は微妙でちょっとしたことにマイナスに反応する、ヤバイナイフだ。人は彼女を病気という。メイベルはいつもスレスレの神経の上にいる。そこら辺、ジーナの演技は絶妙だヤバイ大人の少女なのだ。「ママは繊細だ」
庭で子供たちと白鳥の湖を踊る。ジーナは精神を演じる。しかもナチュラルだ。
「貴方の振る舞いは少し変だ」
裸で子供たちが家の中を走り回っている。
ニックは切れてメイベルの顔を叩く。ヤバイ。
メイベルがいかれたと叫んでいる。君がわからん。こうなると泥沼だ。私も知っている。ストーリーが構成的でないのがカサヴェテスだ🎬
精神科医も来た。アルコール中毒でもある。
メイベルがどんどん過敏になってゆく。悪魔が乗り移る。存在が演技を超える。
彼女はしらふだ。神経が疲れてしまった。
目線すら定まらない。
「君のためなら死ねる。傷つけたなら謝るよ。正気にもどれ。目を覚ませ」
幸せな家庭こそがニックの望みだった。
全てが破れた。ニックは唯、一生懸命働いて家族の為に生きている。その愛する妻のメイベルが壊れてしまった。皆がメイベルを心配する。
現場でも苛つくニック。メキシコ人の友人が滑落する。ニックは元の生活に戻そうと必死だ。メイベルが居なくても海に行く。自分がやっと作った場所を守ろうとする。押しつける。子供達も従わない。メイベルがいたこそのバランスが必要。半年後メイベルが帰って来る。
ニックが浮かれている。皆で祝いたがる。
ニックは自分の感情を優先する。ニックは形式しか知らない男だ。母親に似たようだ。ニックの殻は母親なのだ。メイベルが帰ってくる。
精神の病気を治すには時間が必要だ。人は病む動物だ。メイベルはまだ定かでない。何とか安定を保とうとしている。メイベルはまるで生まれたての猫のようだ。抵抗力がない。
「大丈夫よ。もう興奮しない」
カサヴェテスの濡れたような演出が進む。
メイベルには形式がない。思想が自由なのだ。
ニックがメイベルと二人になりたいという。
寝たいという。君だけでいい。メイベルは繊細だ。抵抗力がないのだ。そして立てなくなった。子供達はメイベルの弱さを知る。それは子供のような弱さだから。子供達が彼女を守る。日常が戻ろうとしている。家族が再生される瞬間。メイベルとニックが微笑み合う。部屋が片付けられてゆく。二人が修正されてゆく。
また明日が始まる🎬👍👍👍