サルガンの自在な世界 | 音快計画-ヴァイオリン弾きのお仕事とはッ?!-

サルガンの自在な世界

 オラシオ・サルガン。
 そら恐ろしい腕前の、ピアニストでありアレンジャーであり、もうほぼ皆無となってしまった存命するタンゴの巨匠です。
 例えば、ギターのウバルト・デ・リオとのデュオ。音楽の自在さは、それはもう、ため息しか出ないほどです。少なくとも、ピアノは譜面を弾いているのだけれど、聴いていてそれを忘れてしまう。緻密、知的なアレンジでありながら、官能的でもある、と僕は思っています。

 この方、若いころ、ものすごく色々な音楽を演奏していたようです。
 14歳で仕事を始めたときは、映画館の伴奏ピアニスト(まだ無声映画を上映している所もあった)。タンゴを演奏する機会が来るのはその後です。やがて亡くなった母を悼んで教会のオルガン奏者を勤めたあと、ラジオ局で、ブラジル系、キューバ系、ジャズ、フォルクローレなど、何でも弾いたといいます。彼のアレンジには、それまで触れてきた様々な音楽の要素が凝縮しているということなのでしょう。

 これは、その演奏の一つ。デリオとのデュオです。

 この、日曜の午後2時?みたいな感じ、大好きです。
 この音楽には、濃厚で強烈、夜の音楽、という印象が、僕にはない。ロマンティック、エレガントという、タンゴのあまり喧伝されない部分がクローズアップされていると感じます。

 3月9日のライブでは、サルガンのコピーを元にしたものを、トリオで数曲取り上げます。もっとも、サルガンのアレンジした曲にも色々なタイプがありまして、これほどまでに午後2時感のある曲は一つの極端な例です

 人間は決して分かり合えない。そう僕は思っていますが、悲観的なわけではありません。分かり合えないからこそ、心が通じ合った瞬間を大切に思い、そこに幸せを感じ、音楽や、音楽を共有する時間が素晴らしいと思える気がするのです。
 サルガンの録音を聴いていると、ふと、そんなことを感じている時があります。