第十三弾「悩むアルゼンチン」
これまで楽しそうなことばかり書いてきたわけですが、それは故意に暗部を描いていないからです。
でも、少しは書いておかないといけない気がします。
以下は、主に書籍その他の情報を基に、若干の体験を加えて書いています。知らないことも多くあることをご承知ください。そして、より詳しくご存知の方、どうぞ色々教えてください。
まず貧困の諸相。
街のいたるところにホームレスがいるのですが、彼らは小銭をくださいと言っている。それは、小銭を持っていくと、銭の額より少し高く引き取ってくれる場所があるからなのだそうです。家族連れや子供だけ、というホームレスが結構います。
20年前まで、中産階級の国といわれていたアルゼンチン。今や激しい格差社会になっているそうです。
地下鉄に乗ると、座っている人には、本や雑貨やお菓子を配る人たちがいます。これは試供品とかではなく、後で欲しい人がお金を出して、買わない人からは回収されます。一度だけ座ったので、体験したのですが、ドキドキしました。
それにしても、これでどうやって生活するのか、皆目見当がつかない……1日の儲けは何ペソなんだろう?
前に、ゴミの分別の話を書きましたが、あれも正規の業者その他ではありません。カルトネーロスと呼ばれる、違法リサイクル屋です。ゴミ袋からお金になりそうなものを勝手に回収して、生きているのです。
アルゼンチンでは2007年度後半には人口に占める貧困層が30.4%に達したそうです。
具体的な数字に置き換えると、アルゼンチンでは現在1000万人以上の人が最低限の日用品購入に必要な収入さえ得ることが出来ていない、という計算になります。
加えて、14歳以下の子どもの55%が貧困ラインを下回る生活を強いられている、というデータまで。
これだけ豊富で美味しい農産物に恵まれ、アフリカやアジアの貧困国よりもはるかに経済力を持つにも関わらず、
300万人に及ぶ子供が飢餓に苦しむという、すさまじい現状。
教育制度の崩壊。
アルゼンチンの教育制度は、ずっと危機の真っ只中にあるようです。僕の滞在中にも教員のストライキが起こっていました。日常茶飯事らしく、教員の給料が極端に低いことに原因があるとか。そして、ストの度に授業日数が減っていきます。
学級崩壊は普通の出来事。
いわゆるモンスターペアレントは、以前から問題になっているそうです。
学力低下は深刻で、高校生の約6割が卒業していないとか。卒業しても大学に入る学力を持つ人は少なく、大学を卒業するのは大変で、しかも卒業生の半分がスキルに見合わない職しかに就けないという話です。
弁護士がタクシー運転手をやっていたり、医者が別の仕事をしていたり。優秀な人は当然、海外に永久留学してしまう。
差別。街を歩いていると、乗り物に乗っていると、それはそれはすごい厳しい目で見られているのを、気が付かない人はいないでしょう。アジア系の人が少ない国に行くと、ジロジロ見られるのは普通のことですが、それにしてもこの敵意はなんなんだろう?どうしても最初、そう思います。これは、目立った商売をしている中国人に敵意が集まっていて、勘違いされているということらしいのですが……
日本だって、いわゆるヤマト民族だけの国ではなく(それも色んな民族の混血だと考えられている)、これまで無茶苦茶な差別をしてきました。これからは、高齢化社会の労働力として、これまで以上に外国人労働者、そして移民が増えてくるのは避けられない。差別は、必ず大きい問題になるでしょう。
まだ身近に感じる事件は多くない気がしますが、実はすでに今、起こっている問題です。
多くの問題が、経済の失敗の繰り返しに原因があります(アルゼンチンにも、「失われた10年」がある)。また、麻生政権の閣僚が、アルゼンチンが過去に失敗した経済政策を検討しているのも、気になるところです。
アルゼンチンの政官業の癒着、公務員の不正(しかも全体数がやたら多い)は、それは凄いらしく、そのことが社会構造を不公平にゆがめたまま、問題を解決不能であるかのようにしてしまっています。効果的な政策が打たれ、効率よく実行できれば、大きく改善できる可能性が高いのですが……
こう取り上げてみると、どこかで聞いたような問題が、増幅されたような形で存在しているように見えませんか?
現実に目をつぶることは絶対にしない。でもその上で、いつも前向きに生きていきたい!そう思います。
ということで、いよいよアルゼンチン最後の2日間に話が進みます!
つづく
