【オニオンファイツ】

【オニオンファイツ】

創る!造る!増える!増える!

過去の話し


工場から休みなく排出されるスモッグにより、灰色に濁った空をなるべく見上げないようにしてポーリー少年は育った


炭鉱惑星「モービッド」


ここはかつてレアメタルの採掘と加工の惑星であり、一攫千金を夢見て他惑星からのブルーワーカーの流入が後を立たず、人口密度過多が悪環境に更に拍車をかけていた


資源の全ては親惑星であるバーリトゥード系中央惑星「ニューサン」に占有されてしまうため、植民惑星である「モービッド」が栄える事は未来永劫あり得ない事を意味し、ここで生まれた者達にとっては煉獄の様な労働なのだ


コアラの様な風貌のポーリー少年も炭鉱夫である父を手伝い、物心ついた時から朝から晩まで働いた


この惑星で生まれた以上、それが当たり前の事であり、一片の疑問も持たず50年前後の短い生涯を終えて皆死んでいく


この惑星の空に一つの星も輝いていない様に、この惑星には一つの希望も埋まってはいないのだから


ポーリー少年の唯一の楽しみは、週末だけ惑星間TV中継で配信される、遠い惑星系の宇宙レスラー達が戦う姿を観る事だった


どんな凶暴な相手であろうとも豪快な蹴りとチョップで薙ぎ倒してしまう双頭の絶対王者「B.Bチョップ」はとりわけポーリー少年のお気に入りであったし、


密かに自分もいつかB.Bチョップの様な宇宙レスラーになれたなら・・などという淡い夢も心に抱いていた時期もあった


というのも、ポーリー少年の頭脳は極めて優秀で、一度目にした宇宙レスラーの戦いは、詳細まで全て頭に記憶する事もできたし、技の一つ一つも本能的に原理を理解し、脳内シュミレーションが可能だった


しかし、ポーリー少年の体格、パワー、運動神経は一般より大きく劣っており、脳内でイメージした事をアウトプットする事はとても出来なかったのだった


その事から自分自身が宇宙レスラーになる夢は自然に消え去った


何年かすると惑星「モービッド」の炭鉱資源も底を尽き、一攫千金を夢みた他惑星労働者達はこの惑星に見切りをつけて次々と星を発っていった


残されたのは一面穴だらけとなった地面とモービッド生まれの行き場の無い労働者達、それと相変わらずスモッグで覆われた星の無い空だけだった


その頃には青年になっていたポーリーだが、家族共々途方に暮れる毎日


もはや鉱物は取れず、他に産業や資源も無いモービッドから外宇宙に出稼ぎに行くための資金すらも無い


親惑星から定期的に物資は届くものの、鉱物の搾取がほぼ枯渇した今、それすら打ち切られるのは時間の問題だった


ある時年長者が集まる定期総会に、肺を患い病に伏せっている父に代わりポーリー青年が初めて参加した


澱んだ空と同じ様な雰囲気の中、もっと深く地面を掘れば・・居住区画まで炭鉱を広げてみたらどうか・・どれも試す価値の無い不毛な提案が続く・・時間だけが過ぎていく


そんな中、ポーリー青年がマイクを手に取り立ち上がった


20名程度のベテラン炭鉱夫が一斉に視線を向ける


巨大テントの中に立てられた蝋燭の灯りに照らされた炭鉱夫達の顔は、幽鬼の如く覇気が無い様に見えて少し恐ろしかったらがポーリーは声を振り絞る


ポーリー「もはや鉱物は無い!無いんですよ!無いんだ!」


ポーリー「ならば別の産業を創り出せばいい!」


1人の炭鉱夫が食ってかかった


「こんな穴だらけの地面に草の一本すら育たねえよ!バカが!」


別の炭鉱夫が言う


「俺たちゃ骨の髄まで炭鉱夫だ!農業やら家畜の世話やら今更やんねぇど!」


その言葉をきっかけにしてベテラン炭鉱夫達の罵詈雑言が一斉にポーリーに浴びせられた!


その時だった、ポーリーは被っていた愛用のベースボールキャップを右手に取ると、思いっきり地面に投げつけた!


ポーリー「ヘイ!ヘイ!ヘイ!ヘイ!爺さん共!お前たちが炭鉱夫だと言うのなら一生地面を掘り続ければいいさ!」


ポーリー「だがな!だがな!鉱物も無い地面掘ってりゃそりゃ蟻と同じだ!蟻だ!お前ら蟻だー!!ハッハハー!蟻のじじい共だー!」


頭に血が昇った炭鉱夫達が一斉にポーリーに飛びかかり、殴る蹴るの暴行を加える!


頭からも鼻からも耳からすら血を流したポーリーだがマイクは離さない


ポーリーがまた言葉を発した


ポーリー「やるじゃねえか!ジジイ共!やるんじゃねえかよ!穴掘る以外にも殴る、蹴るやるんじゃねえか!」


手を止めて何故か聞き入ってしまう炭鉱夫達、ポーリーの言葉にはその力が宿っている


ポーリー「リングだよ!リングを作って殴る、蹴るをやるんだよ!親惑星の宇宙レスリングよりももっと荒々しい戦いを俺達でやるんだよ!!」


ポーリー「外惑星からみんな観にくる戦いを産業にするんだよ!!」


炭鉱夫の1人が言う

「俺ら戦いの素人がやれんのか?」


ポーリーが満面の笑みで答えた


ポーリー「あんたらは強い!!俺と違って強い!強い蟻だ!!やれる!やれなくてもやるんだよ!ハッハハッハー!」


その後、惑星「モービッド」にはポーリーの指示で巨大プレハブ会場が建設され「アント・ネスト」と名付けられた、今では週末の定期大会では満員の観客が外宇宙から押し寄せている


統治者を立ててはいけないファーム惑星でポーリーは、誰もが認めるピープルズリーダーとなったのだ


ポーリー「親惑星侵略も近いね。こりゃ」



4面を錆びた金網に囲まれたリングに立ったのは、ビアと名乗る見たことの無い選手だった


革製のマスクにラフなシャツ、いかにも鍛えていないだらし無いビール腹で右手に竹刀、左手には瓶ビールを持っているヤル気の無さそうな風貌だ



聞けば、バーリトゥード系にある「宇宙レスラーアカデミー」を途中退学させられた経歴を持つ無法者で、落ちに落ちてこの「アント・ネスト」所属になったとか


闘志のカケラも無い死んだようなビアの目が、マスクごしに不気味さを醸し出させる


対角に立ったのは我らがポンコツ!ボロ布を被った双頭に筋骨隆々の肉体にはトゲの付いたボディアーマーを纏っていていかにも強そうだ


試合開始のゴングと同時にビアがビールを一口飲んだ


ビア「ツマミはお前の血でいいなデクノボー!」


直立で動かないポンコツを横目で睨みながら、左サイドに周るビア


ビアの足取りは完全に酔っ払たようにフラフラだ


ポンコツは真っ直ぐ前を向いたまま動かない


セコンドのバズソーが金網を外からガンガン叩きながら叫んだ



バズソー「来るよ!来る来る!ポンコツ!相手の方に向いてちゃんと目で捕らえて!」


ポンコツが二つの頭だけジェインを見た瞬間


ビアが右手に持った竹刀をポンコツの左膝裏に叩き込んだ!


倒れないまでも体勢を崩すポンコツ


ビアが間髪入れずにポンコツの背中に竹刀をもう1発!


前のめり倒れたポンコツの二つの頭を背後から殴りつけるビア


ビア「名前の通り本気でポンコツじゃねぇか!!」


一旦間を取ったビアがビールを喉に流し込むと、空の瓶を捨てた


ビア「貴様は素人すぎて盛り上がらない!」


ビア「よって1発殴らせてやるから思いっきりきなよ!」


バズソーがニヤリと笑う


バズソー「いけ!ポンコツ!アンタの殺人パンチを全力でぶちかましてやりなさい!」


ポンコツがゆっくりと右腕を振り上げた!

その巨体を見るに、ものすごい迫力だ


ビアは思わず後ずさる


ズゴンッ!


だがポンコツが拳を振り下ろした先はビアの顔面では無く、何故かリングマットだった


バズソー「なにやってんだ!相手を殴れ!殴るんだよー!!」


ポンコツ「・・誰も殴らない」


なんと突然ポンコツが口を開いた

2つの頭が同じ言葉を同時に発しているため、2重の音声で響く


ポンコツ「誰にも殴られない世界」


呆れた表情のビアがポンコツの顔面を殴りつけた


ビア「甘い考えならリングに立つじゃぁねーよー!パンチの痛みは殴る側にもあるんだからよー」


ビア「それで金貰ってんだろー」


ビア「相手を殴りもしねーで勝ってリングを降りる奴なんて1人もいねーんだ!」


ゴゴンッ


再びビアが竹刀を振り上げたところで会場が大きく揺れた


ゴゴンッ!ゴゴンッ!


単発な大きな振動がくり返され、会場の壁に亀裂が入る


観客の1人が叫ぶ!


「地震だ!デカいのがくるぞ!会場が崩れるぞ!!」


その言葉を放った1秒後に会場が長く縦に大きく揺れると、会場の天井の一部が崩落した!


それでも揺れは止まずリングの金網は倒れ、地面は波打ったようにデコボコに隆起し、観客達を宙高く舞いあげた!


正にアント・ネスト突然の完全崩壊!


原因はポンコツが先程リングに突き立てた1発のパンチだった


天井からの瓦礫で背中を刺されたビアと倒れた金網から這い出したバズソーは、同時にそれを見た


瓦礫の方が避けるように一片も当たらず、また奇跡的確立でそれが立つ地面だけが崩れていない


そうポンコツだけが惨劇の中、1人最初の位置に直立したまま動いていないのだ


2つ頭からボロ布を取り去ったポンコツを見てビアとバズソーが同時に言った


「神(悪魔)だ!」


ポンコツの顔はそれぞれモヒカンと逆モヒカンで厳ついペイントをしている



ポンコツが同時に2つの口で同じ言葉を発した


ポンコツ「戦わずに生きられる世界を創る」


ポンコツ「暴力の無い世界を創る」


バズソーが口を挟んだ


バズソー「どうやって?どうやって創る?」


ポンコツが2重の声を荒げる


ポンコツ「戦いをもってだ!暴力をもってだ!」


ビアとバズソーは思わずポンコツの前に平伏した!


そして2人は神(悪魔)について行く事を決めたが、崩れた会場の通路からそれを観ていたポーリーもまた、ポンコツについて行く事に心が踊っていた


ポーリーの提案により、神(悪魔)はこの日を持って名をポンコツから改めた


戦いと暴力の神(悪魔)「ダブル・インパクト」と

惑星「モービッド」の中央区画に聳える巨大プレハブ倉庫、通称「アント・ネスト(アリの巣)」


バズソーとポンコツの姿を姿を見つけたアリーナのオーナー、ポーリーが駆け寄ってきた



ポーリー「バズソー!おぉバズソー!君から連絡をくれるなんて僕はなんて幸運だ!」


ポーリー「ハッハ!しかも新しいファイターを紹介してくれるってんだから尚更良いね!」


ポーリーがハイテンションで続ける


ポーリー「マイフレンドバズソー!今日の前座で早速新人を使わせてもらうよ!!」


ポーリーが少しだけ真顔になる


ポーリー「今日は査定試合だから給料は・・ゴホッ!ゴホッ!・・」


バズソー「いいよ無給で。明日からの試合で貰えれば・・」


満面の笑みのポーリー


ポーリー「話が早い!話が早いのは尚更良いぜマイフレンド!」


ポーリー「けれど今日の対戦相手は意外と強烈だぞ!」


ポーリー「その新人に明日がある事を祈るよバズソー!」


そう言うとポーリー足早にアリーナに消えていった


バズソー「さぁポンコツ!いよいよアンタのデビュー戦だ!負けてもいいから盛大にかましてもらいますよー」