おにぎり誕生前夜② 5枚のCD。 | おにぎり伝説

おにぎり誕生前夜② 5枚のCD。

武蔵境にある
松本浩一の家に行くと
彼は何の説明もせず、
5枚のCDを差し出しました。

「これ、次までに聴いてきて。」

あの。
まずあの、ラップ?
ラップを僕らでやるんでしょうか?

「これ聴けば大体のことはわかると思うから。」

$おにぎり伝説
高木完、
ビブラストーン、
いとうせいこう、
スチャダラパー、
ランキンタクシー。

「まる(三島のことね)前にさ、
 中央線の駅名を連呼するネタやってたでしょ?」

お。俺が盟友=桒田慎也と、
高校生のころに作ったネタ!
ただ高尾から東京まで順番に言うだけなんだけど。

「あんな感じで、なんか連呼すればラップになるから。」

本当か?
本当なのか?
なんか連呼すればラップなの?
うそーん。
それであの、
シーケンサーって???

「あ。それは大丈夫。
 とりあえず、CD聴いて何曲か詩、書いてきて。
 次の合宿までに。」

え?
あの。
今の一言、すっげえ突っ込みたいとこ
たくさんあるんだけど。
まずあの、
あっさり何曲か書けって言ったよね。

「大丈夫大丈夫。(笑)」
いや、大丈夫じゃないだろう。
それから合宿? 合宿って?

「来週、ここで合宿やります。」
い、いきなり?
この家で、合宿???

「あ。柿原と桒田も呼んだから。」

柿原君はゼロックスのギターで
桒田は当時僕と同じ劇団にいた、
高校以来の三島の親友だ。

松本くんは真顔で無茶なことを言う。
「じゃ。来週。」

松本くんの家を出た僕は
5枚のCDを抱えて立ち尽くしていた。

$おにぎり伝説
高木完、
ビブラストーン、
いとうせいこう、
スチャダラパー、
ランキンタクシー。

まだヒップホップなんて言葉もない時代。
あとで知ったのだがその当時、
CDショップで手に入れられる日本語のラップは
この五枚しかなかったのだ。
(ランキンタクシーはレゲエミュージシャンだが
 このCDはラガマフィンで構成されたものだった)


1993年のゴールデンウィーク。
よくわからないまま、
合宿までやることになっていました。
よくわからないままに、
何かが動き始めていました。

CDを抱えて電車に揺られている僕の頭にはたくさんのクエスチョンと、
大きな不安。

すでにこの場所から
このあと20年も続く劇団が生まれつつあることなど
いまだ知る由もありませんでした。