思いつきで海外に一人旅することにした。

行き先は、安く行けて英語通じて命の危険がないところ。

ってことでよく分かんないけどシンガポールに。

でもシンガポールだけじゃつまんないから、マレーシアにも行こう。

それだけ考えて日本を旅立った。

と言えば聞こえはいいけど、実際はバイトが忙しいのと、海外やっぱ一人で行きたくないわで、

うろたえて準備ができなかった。

とりあえず、往復の航空券、2日間分の宿だけ予約して家を出た。

18時30分、ノースワーストと悪名高いNorth West航空5便で成田を発ち、いざチャンギ国際空港へ。

海外行くと思うんだけど、飛行機の中が一番英語通じない。

前に「ビーフ?チキン?」とアメリカの肝っ玉母さんみたいなフライトアテンダントが聞いてきて

「チキンくれ!!」って意気揚々と言ったのに、

「ごめんお前発音悪くて何言ってるかよくわかんない、もっかい言って」

みたいな悲しい事件があってから、発音の難しいものが頼めなくなっていた。

つかビーフかチキンくらい聞き取れよばーか。

だもんで、飛行機の中でなかなか牛乳と水が頼めない。

milk?LとRが無理。

water?ウォーターじゃだめ?ワラー?そりゃないだろ!

ひたすらウーロン茶を飲んでいた。

肩身の狭い思いをしながら、夜中1時前にチャンギ国際空港に着いた。

こんな時間に着いてどうしろと。

タクシーで市街地行くのは金かかるし。

だから当初の予定通り、空港で寝ることにした。

とりあえず、インフォメーションセンターに行く。

チャイニーズ系のおっさんが2人いた。

寝れそうなところを探して道を聞いてみた。

そしたらおっさん達は、英語とチャイ語混じりの不思議な言語で教えてくれた。

最初英語で始まったと思ったら、「一点半」とかチャイ語で言う。こりゃたまらん。

愛想笑いして、「謝々」とか言ってそこから逃げた。

でもMRT(東京メトロみたいなの)の始発までまだ5時間近くある。

スタバが目に入ったから、ちょっと休憩。

すると、近くにいたインド系の家族の子供がこっちにきて話しかけてきた。

カタコトの英語で、たまに「ハァ?」って言われながらも、何とか話が通じた。

どうやら家族でアメリカ旅行に行ってきたらしい。

いろいろ話してたら、その子の家族が僕を明らかに不審がっていることに気づいた。

仕方なく、バイバイして寝る場所を探した。

いくら海外でも有数の安全な空港と言っても、やっぱり怖い。

カフェテリアみたいな、フードコートを見つけてテーブル席に座る。

客は僕のほかには一人もいない。店員が2、3人いて、口を開けたままテレビを見ている。

僕はここを今日の寝床と決め、バックパックをからだに縛り付けて机に突っ伏した。

しかし、ここは見知らぬ異国の地。しかも数分おきに誰かが背後を通過していく。

寝れない。

仕方ない、寝るのは諦めよう。朝になったら、始発で行動を開始しよう。

とりあえず、早くこの重い荷物をどこかに置いてしまいたい。

体中がヒリヒリするような不安と、これからの一週間へのワクワクが入り混じって、

僕の心は日本にいるときとは違う、不思議な鼓動を刻んでいた。