思い出の彼方 -11ページ目

夢の世界

彼女が奏でるまな板の音が
私を心地よい眠りに誘った。

現実と夢の世界を移ろいながら
多恵子への想いを
客観的にみつめようとする自分がいた。

二人の間の距離は
今までになく近いものとなった。
恋愛感情としても
今までになくあついものとなった。
時間と空間を共有することが
とても自然で、うれしかった。

うれしかったが・・・
違和感を感じていたのも確かだった。
その違和感とは?
自問するまでもなく明らかだった。

多恵子は、おおらかな性格だ。
しかし、時としてそれは
許し難いあいまいさを生んだ。
不幸にも、その振り分けは
私の感性に委ねられていた。

恋愛感が数年前のままならば
きっと別の答えを出していただろう。
しかし、私は既に
純白だった恋愛のキャンバスに
鮮やかな彩りを求めて走り出していた。
そして、
確信犯的に目を閉じて
多恵子が誘う心地よい夢の世界で
キャンバスに筆を入れることを選んだ。


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ビビアンさんの
「本当にその人でいいの?」
にトラバさせていただきました。
http://vivienne.ameblo.jp/entry-66a2ddbf5d0ae88219788f12a3cc2b28.html

追記
ビビアンさんの
『時として感じてしまう「違和感」というやっかいなもの』
にトラバさせていただきました。
http://vivienne.ameblo.jp/entry-8d8d468b574e67069576116cc043ac47.html

はじめての儀式

そして二人にも
あつい季節が訪れようとしていた。

その日のキッチンには
帰省した母親の代りに
多恵子が立っていた。

彼女が私のインビテーションを受け入れたのは
今回が初めてではなかった。
ちょうど梅花が桜のつぼみにバトンを渡す頃
一度私の部屋を訪れたことがあった。
そのときは
初めて二人の唇が重なりあった。
GW中の今日も
何かが起きることを
お互いに期待し、理解していた。

私は
食事の準備をしていた彼女の肩を
そっと、そして力強く抱き寄せた。
互いに慣れはじめていたくちづけは
いつもより激しく、深く絡み合った。

「きみが欲しい」
「うん」
素直な気持ちが
自然と言葉になった。

彼女を自分の部屋へ導き
ブラウスのボタンを
ゆっくりと、確実に解いていった。
確かめていたはずの豊かなふくらみは
想像以上の曲線をあらわにした。
本能の支配に身を任せた私に
彼女は
次第に大きくなる吐息で、こたえた。

彼女の上でのぎこちない振る舞いと
私自身についた赤い証が
お互いの脱皮を確かめる術となっていた。
少し熱気を帯びた
メロウな空気のなかで
二人の儀式はゆっくりと
フェードアウトしていった。

キッチンに戻った、
彼女が奏でるまな板の音が
私を心地よい眠りに誘った。

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今回は、
ピャーコさんの「主人のキスに対する情熱大陸?」に、
トラバさせていただきました。
http://5383-pya-ko.ameblo.jp/entry-4a4bb9334ddf935c4e5b6999ce38ec45.html

恋のドライブ

二人が恋に落ちるのに、
時間はかからなかった。

惹かれあう若人の間に
行く手を阻むものは、何もなかった。
私は、はやる気持ちを抑えつつ
しかし、確実にアクセルを踏んでいった。

好んで走ったのは
秩父や日光、九十九里・・・
北関東の道はほとんど走破した。

一人で聞いていたカーステレオは
小田和正を奏でることが多かったが、
二人で走るようになってから
門松敏生のバラッドがこころを揺らしていた。

私は多恵子の肩を寄せ
やさしく そのくちびるをかさね
その豊かな胸のふくらみを確かめた。
そして、
いつもその先でブレーキを踏んだ。

季節は冬から春へ移り
大地は忘れていた夏の空気を
徐々に取り戻し始めていた。
そして二人にも
あつい季節が訪れようとしていた。

つらい別れが訪れたとき・・・

この命題を扱うことは
とても難しく勇気のいることですが
敢えてチャレンジしてみます。

つらい別れが訪れたとき・・・

高いプライドと
恋愛の免疫を有する人は
自身で感情の乱れを消化しようと努力するので
後の人生に大きなしこりを残すことが
少ないように思います。

純粋無垢な、あるいは 
それに近い状態の愛を
注ぐことができる人は
相当永い期間にわたり
深く辛い思いをすることが
多いように思います。

幾度の恋愛を経験した人でも
プライドを捨てて恋に落ち
持っていた免疫が効かなくなったり・・・
はじめての恋で
本能的に
免疫力を発揮出来る人がいたり・・・
そのステージは
相手とタイミングによって
変わっていくような気がします。

一度は好きになった人
人生の一部を共有した人に
嫌われたいと思う人はいないでしょう?
難しいことですが
できることなら永遠に
いい人でいたい。。。

ただ
恋愛の免疫が効いていない
そんな大切な人との別れには
敢えて
悪い人を演じるやさしさが
あってもいいような気がします。

好きになった人に
「あんな奴と別れてよかった」
そう思わせることが
決して消えることのないこころの痛みを
少しでも和らげることになるのなら・・・

恋愛の形と同様に
別れの形も無限だと思います。
わがままな言い訳でしかないのですが
そんな切ない気持ちと思い出を
誰にも知られないように
こころの奥にしまっている人が
あなたの身近にいたのかも知れません。

もしそうだとしたら、
幸せを掴んだあとでいいので
いつかその人を
もう一度思い返してみませんか?
好きになった人を否定することは
人生を重ねた自分自身を
否定することに他ならないのです。

少なくとも私自身は
いつか きっといつか
そういう人間になりたい
と、思っています。

今回はビビアンさんの
「今も忘れない、別れの言葉」
にトラバさせていただきました。
http://vivienne.ameblo.jp/entry-0a2938b6b0a6d50339553497a266096b.html

トラバを追加させていただきました。
pretendさん『「別れ」から生まれるもの』
http://pretend.ameblo.jp/entry-6409df348791e8e41d108c8e029cdd5d.html
apricotさん「セフレだった彼のこと vol.4」
http://apricot.ameblo.jp/entry-f71fd66e40c6fd1e72caab925bf4fe5e.html
ruhenheimさん「のち、お別れ (4)」
http://ruhenheim.ameblo.jp/entry-e888a0847687897aac1489bce3af272e.html

chiさんS-7 返事にもTBを追加させていただきました。

恋愛感の変化

大学生活にも慣れてきた頃、
私の恋愛感は、大きく変化していった。

それには、いくつかの伏線があった。

ひとつは、成就しなかった恋の反動。
熱い思いが、たった一瞬で壊れたこと・・・
恋愛に無防備だった自分が、
人生で初めて、
現実を受け入れた。
そして、無意識に、
防御する手段を求めていた。

もうひとつは、母親の不可解な行動。
経済的に不安定だった私の家庭では、
夫婦喧嘩が絶えなかった。
そんな環境の中で母親は
常に、無条件で、絶対的に、
正しい存在だった。
そう信じて、疑わなかった。
パートに出ていた母親は、
あるときを堺に、
早朝、父が出勤したあと
電話でこそこそと、話をするようになった。
夜の帰りも、遅くなった。
息子の視線が気になったのか、
公衆電話で人知れず長話をしていた。
母親の女性としての側面が、
こんな形で認識されるとは、
夢にも思っていなかった。

そして、
私の純白な恋愛のキャンバスは、
何のためらいもなく、
鮮やかな彩りを求めて、
自由に走りはじめた。

アカルイプログ

今まで綴ったプログを読み返して、
展開が少し重たくなっているなぁ・・・
と、感じています。

一方、ランキング上位の方のプログを読んでいると、

臨場感とリアリティのある話題を
現在と過去の出来事を絶妙のバランスで折込み
語りかけられるようなやわらかい表現で

明るく、書き込まれています。

まぁ、ランキング上位になることが目的ではないのですが、
意見交換をしていただくためには、
皆様に読んでいただくことが第一歩となるわけで・・・。

かといって現実は、
三十路後半のおやじがコンパに参加できるはずもなく、
仮に部下の女性と酒場に繰り出して「ナウい(=死語?)」話をしようとしても、
ぼろが出るだけだし。。。(「まいうーっ」って言って笑われるのが精一杯)
プログのねたにはなりません。

所詮・・・

連ドラといえば、「金八先生(仙八先生も含む)」と「ふぞろいの林檎たち」
(ちょっと背伸びして「金妻」)

アイドルといえば、「伊藤つかさ」(←決してロリコンではありません)
(「小田かおる」や「菊地えり」にもお世話になった)

通学でマディソンスクエアガーデンのバックを持って通っていた世代ですから。
(バックの名称、あっているかな?マジソン?)

結局、垢抜けることは難しそうです。

多恵子

若人達の笑い声は、
冬の筑波山を駆け抜ける車窓を、微かに曇らせていた。

多恵子は、女性的な魅力に満ちていた。

少女のあどけなさが残る大きな瞳は、
接する者を不愉快にすることはなかった。

栗色の髪は、
やわらかな曲線を描いている彼女の両肩で、
ゆれていた。

からだの輪郭を惑わすために羽織られたセーターでも、
その豊かな胸のふくらみは、
決して隠すことができなかった。

不自然なくらい対照的な細い足が
彼女を支えていた。

性格は、
温厚でおおらかだった。

そして、何よりも、
いつも笑顔で迎えてくれた。

そんな二人が恋に落ちるのに、
時間はかからなかった。

新しい出会い

高校生の恵理の幻影から、もはや逃れられなくなった。

一方で、追われるように、新しい出会いを求め始めた。
しかし、時代はバブル、世の中全体が浮ついていた。
扇子を揺らす、華麗な女たち、
映画のワンシーン、スキー場を駆ける四輪駆動、
その車を颯爽と学校に乗り付ける、スマートな男たち、
どれも自分の属する世界ではなかった。
いや、その仲間に入ることが出来なかった。
その世界に背を向けるように、自ら同級生の中に線を引いた。
合コンなるものは、結局、
学生時代に参加することはなかった。
新しい出会いは、追う程に逃げていくような気がした。

バイトを選ぶセンスは、自己防衛手段として、
しっかりと身に付けていた。
家庭教師と塾講師で稼いだ。
大手企業の新入社員の年収を、はるかに超える所得があった。
教育が身を助けることを、初めて実感した。

バイトとサークル活動をしても、
授業の出席率は8割を超えていた。
学内で一番競争率の高いゼミに、入ることができた。
成績は、良かった。奨学金も、とった。
それらが学内でできる、唯一の自己主張だった。

新しい出会いをもたらしたのは、W大に入学した高校時代の親友だった。
彼は、恵理と付き合うきっかけを作ってくれた恩人だ。
「おれの彼女の、友達に会わないか?」
彼は、忘れられない出会いに、再び登場した。
そして将来、結果的に、私はその恩をあだでかえすことになる。

約束したWデートは、みぞれ混じりのドライブとなった。
親友の車を運転したのは、私だった。
後部座席には、親友とその彼女が、仲良く座っていた。
私の隣には、すこしはにかんだ多恵子が、座っていた。

若人達の笑い声は、
冬の筑波山を駆け抜ける車窓を、微かに曇らせていた。

恵理の幻影 

まるで、釣人が逃した魚を想うように、
私の心は、成就しなかった恋の幻影を追い求めた。

私の周りには、新歓コンパで無邪気にはしゃぐ、
華のある女性がたくさんいた。
きっと恵理も、
華やいだ学生生活を送っているに違いない。

ただ、私の心の中では、
恵理は、いつもの制服姿で笑っていた。
右手には、2年間休まず交換した日記帳を持ち、
ショートヘアーの左側を、
ピンクのゴムで結わえていた。
時は流れ、高校時代の出来事が曖昧になってゆくのに
恵理は・・・恵理だけはその姿を変えず、
こころの中で鮮明な像となって焼きついていた。
いや、むしろ輝きを増していた。

何度か、電話のダイヤルに手を掛けた。
悲しいことに、
まわす順番は、指が覚えていた。
その都度、
華やいだ学生生活を送っているに違いない恵理の姿を想い、
途中で受話器を置いた。
そして、
私は、自分を口説いた。
「おまえの恋した恵理は高校生の恵理・・・。」
「いまの恵理はおまえの恋した恵理ではない。」
「恵理は、おまえの手の届かない華やかな世界にいる。」
「振り返るな、新しい時代を開いてゆけ!」

この口説き文句で、私自身を救ったつもりでいた。
実際は、
この口説き文句が、私自身を強く縛ることとなった。

高校生の恵理の幻影から、もはや逃れられなくなった。

新入生の想い

チャペルの鐘が新入生を祝福をしたが、私のこころは複雑だった。

恵理と別れて約1年、
ようやく大学生になれた。
それも、恵理の通う大学とは電車で一駅の距離・・・。
忘れたはずの彼女の存在が、
再び心によみがえってきた。
いや、
決して忘れることは出来なかったが、
大学受験という大きな目標で
彼女への思いに蓋をしてきただけだ。

まるで、釣人が逃した魚を想うように、
私の心は、成就しなかった恋の幻影を追い求めた。