…side壱馬



前にNAOTOさんに教えてもらった
とっておきのお店



お肉が大好きな
ミサさんなら
絶対喜んでくれるよな



この店を知った時から
絶対連れて行きたいと
思っていた



俺は二人で居れることが
ただただ嬉しくてさ…

  

一人でテンションぶち上がって
空回りして

ミサさんの気持ち
全然気がついてやれなかった



帰り際、扉を開けた先に
まさか臣さんと
会うことになるなんて



何でだよ…



それはまさに運命の
イタズラだった



ミサさんの顔色が変わったことは
一瞬で分かった



そりゃそうだよな



今でも忘れる事が
出来ない人…



そんな人が目の前で

他の女性と
楽しそうにしているところなんて…

見たいはずがない



明らかにショックを受けた
彼女を目の当たりにして

俺は…



大きな賭けに出たんだ




ずっと臣さんに
憧れていた



アーティストとしても

人としても

男としても…



臣さんの背中を追っかけて
ここまで来た…



そんな大好きな
大先輩に向かって

自分がまさか
こんな事言うなんて…



自分自身が一番驚いた



でも横で傷つく
彼女を放ってはおけなかった



2人して
同じような顔して



ったく、、、

ふざけんなよ



本当はさ…
どんなに時間かかってでも

俺の事好きになって
もらいたかった



あなたを笑顔にしたかった



でもさ、半年経とうが
何年経とうがきっと…



俺の入る隙間なんて
どこにもないんだ…



悔しいけど…



めちゃくちゃ悔しいけど、、、







それなら俺に出来る事は
一つしかない



オレは賭けに出た



そぅ、、、



臣さんを試したんだ



敢えて臣さんを挑発するような
言い方をした



目の前で
ミサさんの手を握り
もう、関係ないですよね?

だなんて…



まだ気持ちがあるなら
絶対に耐えられないでしょ?



こんな形で後輩なんかに
彼女を奪われて

俺の知ってる臣さんなら



このままで居られるはずが
ないんだよ…



本当に
後悔してるなら

今すぐ彼女を
迎えに来てあげてよ?






帰りの車内



最初は俺に気使って
無理に笑顔を作ってたけど
そんな必要はないよ?



そんな顔、見たくない



オレには笑顔にさせてあげる事は
出来ないかもしれないけど

せめて弱音を吐ける
場所でありたかった



強がる彼女をそっと
抱きしめると 

目からは大粒の
涙がこぼれ落ちた



そう



これでいい



これでいいんだ…






涙もろい事は
知っていたけど

ここまで泣いた姿を見たのは
別れた直後と

これで二回目…



そぅ、、、



二回とも

臣さんを想って
流した涙だった…