『刑事コロンボ』を観直していることは
前にも書きましたが、
今回、観直した中で、
ミステリとして最も感心したのが
『偶像のレクイエム』でした。

$圏外の日乘-『刑事コロンボ 完全版』Vol.7 & 8
(CIC・ビクタービデオ UDF-3307、2001.10.28)

発売年月日は例によって Amazon 調べです。

アメリカでの放送は1973年1月で
日本では同じ年の8月に
NHKのUHFで放送されました。
(当時、NHKにUHFチャンネルがあったそうで、
 今の感覚だと、地上波に対する衛星放送
 あるいはアナログに対するデジタル放送
 みたいなとこでしょうか)

翌年には総合チャンネルで再放送されていて
自分が観たのはそちらでか
再々放送あたりではないかと思います。
いずれにせよ小学生のころですね。

これも今回、久しぶりに
ちゃんと観直すことになったわけです。

で、最初観た時には
たいして感銘を受けなかったと思うんですが、
というのも感銘を受けていたら
トリッキーさが印象に残っていたはずで、
小学生のころは
たぶん気づかなかったんだと思います。

何がトリッキーかをいうと、
これまたネタバレになってしまうんですが、
よござんすか、書いちゃいますよ?
(観ていない人はご注意!)



前にも書いた通り、
倒叙ミステリというのは
まず犯人側の視点から犯行が描かれて、
その後に探偵役が犯人のミスを追求していく
という形式の作品です。
だから、犯行動機は最初から明かされています。
ところが「偶像のレクイエム」では
それを逆手に取って、
犯人の犯行動機をミスリーディングさせる
という荒技に挑んでいるわけです。

倒叙ミステリであるにも関わらず、
動機探しの面白さというか、
動機の意外性というサプライズを
盛りこんでいるあたりが素晴しい。


最初に、犯人の女優ノーラが
ゴシップ記者のジェリーに
恐喝されるシーンがあり、
視聴者にノーラがジェリーを殺すんだろう
と思わせるようになっています。

でも、実際の犯行ではジェリーではなく
ノーラの秘書ジーンが殺されてしまう。
ジェリーの車を運転していたために
ジェリーと間違って殺されたと
誰もが思うようになっているんですが、
実は秘書殺しこそが本来の目的だったわけです。

では、その秘書を殺す動機は何か。
コロンボがそれに気づくあたりの推理は
かなり飛躍があって、
空想的すぎるような気がしますが、
最後にあらわになる隠された動機には
びっくりさせられること請け合いです。

これは伏せときましょう(藁

真の動機が分からないからこそ
最初の事件が誤認殺人だと
視聴者はすっかり信じきってしまうわけです。


逆にいえば、
最初の事件が誤認殺人だと思わせなければ、
サプライズ・エンディングも決まらないわけで、
そこらへんはノベライズ版だと、
分かっちゃいねえなあ、
というような書き方になってしまっている。

そう、コロンボ・シリーズには全部
ノベライズ本があるんです。
(というか、あったんです。現在絶版)

それがこれ↓

$圏外の日乘-『偶像のレクイエム』
(高澤瑛一訳、二見書房、1974.11.5)

サラブレッド・ブックスという
新書判のシリーズの1冊です。

で、『偶像のレクイエム』の場合、
第1章の書き方には
細心の注意が必要だったはずですが、
犯人の心理描写はあるわ
(秘書殺しが目的だと
 気づきやすい書き方になっています)
映像ではうまく編集されている
犯人のある行為を明示しているわで
(書店にノーラが車で乗り付けるシーン)
どうもいただけない。

第1章の書き方もそうですが、
よく見れば、カバーの惹句も
微妙にネタバレっぽい(藁

『刑事コロンボ』というドラマが
どういう受け取られ方をしていたのか、
少なくとも趣向と技巧に満ちた作品だとは
理解されきれていなかったことが
よく分かる残念な本になってます(苦笑)


四、五年前に
コロンボのノベライズが
竹書房から文庫版で出始めたことがあって、
4冊ほどで中断してしまいましたけど、
もし『偶像のレクイエム』まで出していたら
どうなっていたか、ちょっと興味がありますね。

二見版の出し直しだったようなので
たぶん、上と同じバージョンだったでしょうけど。