イメージ 1

イメージ 2

今日は東京代々木の白寿ホールで行われた絃楽器のイグチ20周年記念コンサートに行ってきました。出演者は著名なマンドリンのプロ達ばかり9人とマリオネット、若手の√Savaket、ギター田口秀一氏
(最後の方では絃楽器のイグチの腕達者なスタッフも演奏)

よくこんな優れたマンドリン演奏家を何人も集められたと感心せざるを得ない。恐らく後にも先にもない貴重な機会だ。こんな事を実現できたのは同志社マンドリンOBという人脈のお蔭もあるだろうが、井口氏の人望、人柄によるものだろう

さて、演奏会のチケットが発売された段階では出演者は決まっていたが、曲目は未発表だった。
なので、どんな曲が演奏されるか非常に楽しみにしていた。当日渡されたプログラムを見ると独奏と言えるのは竹間久枝氏のスペイン奇想曲だけで、後は全て重奏、特にマンドリン二重奏が多かった。まあ時間的にも演奏家一人づつ独奏曲を弾く時間的余裕はないので、仕方ないだろう。むしろ、普段あまり聴けない二重奏を聴く機会が出来、逆にマンドリン愛好家には嬉しい事だと思う。特にマンドリン二重奏は力量の差があると聴くに堪えないものだ。力量が優れた者同士でやる事で1プラス1が2でなく相続効果で素晴らしい音楽になるし、そう感じさせる力演だった。

さて、開場と同時にホール内に入る。座席は300.マンドリンにはちょうどいい広さだ。ギターの演奏会にはよく利用されているらしい。開演前には座席は全て埋め尽くされていた。こんな事マンドリンの演奏会では珍しいが、9人ものプロが演奏するなら当然だろう。

第一部

最初は若手の√Savaket、マンドリンとギターのシンプルな演奏形態だ。
二人共20代くらいだろうか、随分若い。けれど自作自演の内容は独創的で演奏水準も高いと思った。

演奏された曲は3曲
miminy-piminy 'CROWN'
Trip to Cityscape
プロペラトレイン

ポップ調で、石橋敬三でもマリオネットでもない作風だ。マリオネットが麦焼酎だとしたらサワーといっていいだろう。テンポは早めだが、くどい感じなく軽めでイージ-リスニングとして聴いてもいい感じだ。アメリカンフラットマンドリンで演奏されたが、トレモロもムラなく綺麗に聴こえたし、重音のピックさばきも見事だ。恐らく若い世代には受けるだろう。古い年代のマンドリン愛好家では評価の分かれるところだろう。癒しとか叙情とかロマンとかは感じられる曲想ではないから。まあ、年を積み重ねていくうちに確固たる個性が出来上がってくるだろう。せっかく出た芽なのだから応援してあげたいし、後述するイグチ20周年記念のCDも彼らを後押ししたいという井口社長の思いがあるのだろう。

お次は竹間 久枝さん、ギター田口氏でムニエルのスペイン奇想曲
出だしからサウンドホールのヘッド側で鋭く弾くので驚いた。児島絢子氏も好んでこの辺りでよく弾く。
女性はこの辺の柔らかい音がお好きなようだ。そんな事を思いながら、聴いていると、どんどん曲に弾きこまれていく、小気味よいリズムで情熱的に盛り上げていきフィニッシュ。結局最後まで右手は同じ場所だった。使用楽器はF.Vinaccia前期のもののようだ。確かにこの時期のVinacciaは音が硬めなのでこういう弾き方もありかなとも思う。

次は柴田高明氏(クノール)と桝川千明氏のマンドリン二重奏
1曲目は窓つたう雨(石橋敬三作曲)、あの石橋氏がこんな叙情的な美しい曲も作曲するかと思い、まずビックリ。桝川氏のリッピ作のEmbergherモデルと思われる楽器の美音にも感動。二本のマンドリンが同じフレーズを休符をはさんで同時に弾く箇所があったが、顔を合わせながら注意深く弾いているのが印象的だった。
2曲目はマンドリン0.024ppm(吉田剛士作曲)、これは二つの楽器の対比が面白い作品だが、音量のせいか桝川氏が柴田氏を挑発してリードしていくように聴こえたし、そうかもしれない。

次はマンドリン井上泰信氏(カラーチェクラシコ)、マンドラ石村隆行氏(大野?)
曲はパッサカリア(J.Halvorsen作曲)、バッハ風の対位法的な曲で、テンポが速めだが、さすが同志社コンビ明快な音で楽譜に食らいつく。特にマンドラはこの早いテンポでしかも大きなポジションの移動もあるのに、音が潰れず重厚な音で弾き進む。フレット幅も間隔も広いのによくここまで弾けると思って関心してしまった。

次は第一マンドリン中野薫氏、第二マンドリン児島絢子氏マンドラ片岡道子氏ギター田口氏で
ムニエルの四重奏ニ長調、片岡氏のマンドラも含め全てVinaccia作の楽器のようなので、とても音が同質化されていて気持ちがいい。とても美しいハーモニーでムニエルの世界を創り上げていました。

第二部

柴田高明氏(クノール)と堀雅貴氏(カラーチェクラシコ)のマンドリン二重奏で
まず堀氏作曲のAcquadanza、対比でも対位でもなく、対話をしながら進めていくような感じに聴こえたし、そういう作りの曲なのだろう。柴田氏が要所要所を固めて、堀氏にバトンを渡していたようにも聴こえた。二曲目はモーツアルトのフィガロの結婚序曲、すごく速いテンポで、小気味良く展開していく。強弱の変化も見事、後半部分の盛り上がりも最高で会場を沸かせた。

次は片岡道子氏(Vinaccia)と桝川千明氏(嶋田 茂)で越智敬の古い日本の旋律による3つの二重奏、まるで和琴を弾いているかのような典雅な演奏だ。琴に似ているが、琴にはないマンドリンの音の美しさを日本的に表現したとてもいい曲だと思った。まるで美しい絹織物が織られていくような緻密で繊細なお二人の演奏も素敵でした。

次は児島絢子氏(Vinaccia)と井上泰信氏(カラーチェクラシコ)でE.Barbella作曲の二重奏曲第5番、18世紀の優雅で華麗な雰囲気が出ていました。

次は第一マンドリン竹間久枝(Vinaccia)、第二マンドリン中野薫(Vinaccia)、マンドラ石村隆行氏(大野?)、マンドセロ堀雅貴(大野?)で寺嶋陸也作曲のカルテット アンティナフォート、同じ音の長いトレモロが続く箇所が多いが、各パート共うまく音が溶け込み気持ちよく聴けました。

第三部

おなじみマリオネット、冒頭南蛮渡来から始まり、二階堂の放映中のCM曲、次にポルトガルマンドリンで日曜はダメよを弾いたがその曲間に井口社長が舞台に踊り出て小さなマンドリンのような楽器(ギリシア楽器でバクダメ)を吉田氏に渡し、楽器をそれに替えて演奏。井口社長の踊りがあまりに面白かったので、全員爆笑。吉田氏はマリオネットのバックダンサーにしたいとまで話した。次に南蛮マンドリーノ、最後に楽器をGelasに替えて花の葬列を弾きましたが、やはり本物、素人には真似ができない味わいのある花の葬列。真似して弾いても吉田氏のようにはいかないのだよね。

マリオネットの次はこの演奏会の為に作曲された「星々の帰港」(委嘱初演)作曲壷井一歩
プログラムにある壷井氏自身による解説をあえて載せておこう。そうすると後述する演出が理解しやすいだろうから。

「(前略)開港20年というここでは、洋梨の化け物を半分に切ったような形をした、音を鳴らす道具が主な取り扱い品だ。(中略)集う人々はなぜか右手を小刻みに震わせながら会話をする。彼らの会話はトレモロと呼ばれており、繊細にも大胆にも表情を変え、意外なほど遠くに飛んでゆく。そして、20年目の夏のある日、星々が帰港した。一夜限りの、厳かな宴である。彼らは、緩やかな連帯を確認するように、美しく瞬くのであった」

マリオネットの演奏が終わって、舞台上の椅子や譜面台の配置をイグチのスタッフとイグチに出入りしている製作家の笹川慶太氏が作り直していた。終わった状態を見るとプロ9人なのにその倍の椅子がある。何故だろうと思った。そうこうするうちに時間になり、舞台袖からイグチのスタッフとイグチに出入りしている製作家小林功氏笹川慶太氏それに√Savaketのメンバーが楽器を持ち、前列に座った。その後作曲家の壷井氏が登場し指揮をし、演奏が始まる。あれ後列の席は何と思いながら、聴いていた。しばらく演奏が続いた後、壷井氏はいきなり後ろ向いて指揮し始める。そうすると後ろや両脇から音が聴こえる。そう客席の両脇の通路にプロ9名が楽器を抱え弾いているのである。帰ってきたよと挨拶するような音を出す。しばらくすると、ゆっくりとプロ9名は舞台に上がり、他のメンバーと共に星が輝くような凛とした趣きの曲を奏でて終了する。

星はそうスター、スター級の演奏家がスタッフがいるイグチに集まり、連帯を確認する夜の情景なのだ。
そう「緩やかな連帯」、吉田氏を入れたら、10名の著名な現役プロだ。お互いライバル心もあるだろうが、10名も一同に集まり、一緒に演奏するなんて、他の楽器ではありえない。バイオリンやピアノ、ギターといったメジャーな楽器でもないのではないか。流派や派閥もあり、そんなことありえない。マイナーだからこそ、マンドリンを広めたいもっと愛して欲しい。そういう思いが他の楽器より強く、連帯できているのだと思うし、これからもそう望みたいし、イグチ社長もだからこそ後押ししているのだろう。そういう意味で、この曲がこの場で弾かれる事はとても意義ある事なのだと思う。

この曲が終了後万雷の拍手が続き、いよいよアンコール。何をアンコールで弾くのかと考えていたら、井口社長よりマンドリン酒場の夜を吉田氏の指揮で演奏するという。これ最高だね。
普段難しい曲を弾いている先生方が弾くマンドリン酒場の夜。先生方が入ると断然音の張りも力強さもあるマンドリン酒場の夜になるのですね。生真面目ぽく、酒場の雰囲気にはちょっと足りないけど、めったに聴けない名演でした。またまた万雷の拍手の後、舞台袖に一度入った出演メンバーが舞台上に出てきます。今一度盛大な拍手をという事で一人づつ井口社長が呼び拍手を受ける。次に井口社長は記念のCDを作り明日から販売すると言う。そして特別に今日来たお客さんに無料で差し上げるとの事。期待してなかったので、嬉しい悲鳴が聞こえた。それが前述した√SavaketのCDである。この説明後無事終了。

閉演後、ホールから出る女性の一人は「こんな楽しい演奏会なら10年後と言わず毎年開いて欲しいわ」と言っていたのを聞いた。同感である。まあ、毎年は大変だろうが、何かのきっかけで、数年後にはまたこのような催し物があれば、マンドリン愛好家としては嬉しい限りである。

ところで、第三部の最後の委嘱曲演奏とアンコールに絃楽器イグチのスタッフをメンバーに入れた事も評価できる。人数も足りなかったのだろうが、舞台上に参加させる事で、お客さんの感謝の拍手を受けられる。二十年やってこられたのは井口社長一人だけの力ではないのは井口氏自身わかっているのだろう。従業員への感謝の気持ちと受け取れた。先生方、お客様、従業員への気配りが出来たからこそ20年やってこれたのだろう。首都圏にはマンドリンの店は2軒しかない。これからも続いて欲しい。

ホールの出口で写真の封筒に入ったCDを受け取り、本当に気持ちよくホールを後にした。

※当日の個々の演奏写真は井口祐一社長のFacebookのタイムラインで見られます。写真もみると一層当日の様子が理解できるかと思います。