護衛艦いずもは空母か? 空母保有論議との関連で | Old James Bond 通信

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―― 大学教授・宇賀神大介の熱血講義録!――

 安倍首相がうっかり自衛隊を「わが軍」と呼んで、批判が起こった。

しかし、これは笑い話の類で、そう目くじらを立てて追及するほどの

大問題ではない。日本の自衛隊を英語で、Japan Self-Defense

Forces 略してJSDFという。一体、この取って付けたような英語は、

何なのだろう。Self-Defense は自衛、Force は軍隊という意味で

ある。多分、世界各国は これを見て笑っていることだろう。そもそも、

自らを守らない軍隊などどこにあるのか という話になるからである。

それならばいっそのこと、Self-Defense の前にOnly(もっぱら)を

付ければよい。そうすれば、世界中で爆笑の渦になるだろう。実際、

世界各国では、陸自、海自、空自を、Japan Army、Japan Navy、

Japan Air-Force と呼ぶのが一般的である。つまり、世界各国は

自衛隊を「軍隊」と認めている ということである。世界でただ一ヶ国

そうだと認めていないのが当の日本だけとは、どのように考えれば

よいのだろうか‥‥。


 ところで、日露戦争(1904~1905年)の際には、ロシアを 牽制

したいため、日本の味方に付いた アメリカとイギリスでは あったが、

日本の連合艦隊が ロシアのバルチック艦隊を 叩き潰して しまうと、

今度は逆に アメリカとイギリスは日本を警戒し始め、何とか日本の

海軍力を 封じ込めよう とした。その好例が、1922年のワシントン

海軍軍縮条約であり、さらには1930年のロンドン海軍軍縮条約で

あった。前者のワシントン海軍軍縮条約では、主力艦(当時は主に

戦艦)の合計排水量トンがアメリカ、イギリス、日本で 5 : 5 : 3 と

取り決められた。これは 当時の日本の国力から考えれば、極めて

妥当な線である。しかし、現実にそうなってしまったが、もしアメリカ、

イギリスが手を組めば、この比率は10 : 3 となってしまう。後者の

ロンドン海軍軍縮条約では、巡洋艦などの補助艦艇の合計排水量

トンがアメリカ、イギリス、日本で 10 : 10 : 6~7 (他の諸条件も

ある)と取り決められた。


 このため、日本はいろいろと手を打った。まず、1934年に日本は

ワシントン条約を破棄通告するなり、アメリカ、イギリス のどの戦艦

にも 負けない大和級戦艦(戦艦大和、武蔵)を建造した。同型艦の

信濃は、途中で 空母に改装された。また 小細工として、ことあらば

すぐに 空母に改装できる艦船を多く建造した。大東亜戦争(1941

~1945年。本2015年は、戦後 70周年に当たる。太平洋戦争と

いうのは アメリカ 側の呼称である)中に活躍した中型空母、飛鷹

隼鷹はその典型例である。飛鷹と隼鷹は、もともと 商船として建造

されていた。またこれも小細工だが、巡洋艦についても重巡洋艦

小口径の主砲を積んで 軽巡洋艦だと偽り、その後すぐに大口径の

主砲に積み替えてしまった。日本は 1936年には、ロンドン条約を

脱退している。


 さて、考えてみれば、小細工 という点に ついては、海上自衛隊も

「結果的に」ではあるが、旧海軍と似た ような状況に 置かれている。

「結果的に」というのは、旧海軍と違って軍縮条約などの理由でなく、

全く 別の理由による からである。海上自衛隊の内規 では、大型の

水上戦闘艦は、全て「護衛艦」と呼ぶことになっている。現行憲法と

の絡みからも、軽々に 「空母」とか「巡洋艦」という呼称は 使えない。

この3月25日に 就役した護衛艦いずも(全長248m、満載排水量

26,000トン)も、まさに そうである。いずもの実体は ヘリコプター

空母であるが、あくまで「護衛艦」である。もうすぐに 8隻体制となる

イージス護衛艦も どう見ても 巡洋艦であるが、あくまで「護衛艦」で

ある。ヘリ空母としては、護衛艦ひゅうが、いせ(ともに 全長197m、

満載排水量19,000トン)が すでに就役しているので、今になって

マスメディアが騒ぐのはおかしい。





写真 : 護衛艦いずも(ヘリコプター空母)



 顧みるならば、大東亜戦争(太平洋戦争)は、歴史上 最初に して

最後?となる空母 対 空母の戦いであった。戦争の是非は ともかく、

当時の日本に それだけの力があった ということは、驚くべきである。

それまでの 主力艦であった戦艦は、一挙に 旧式兵器と化し、空母

(航空母艦)にその座を譲って、空母が 艦隊決戦の「花形」となった。

何しろ、1941年12月のハワイ真珠湾奇襲 において、日本海軍が

「航空戦優位」を 大いに実証してしまったのだから 仕方があるまい。

1942年6月に起きたミッドウェイ海戦が、戦争の「転機」になったと

しばしば いわれるが、それは少々ミス・リーディングである。本当の

意味で「転機」となるのは、同年 7、8月以降のソロモン諸島方面で

の消耗戦である。消耗戦ともなれば、日本とアメリカとではどちらが

有利になるかは明らかであろう。ミッドウェイ海戦では、日本海軍は

拙劣極まりない戦略と戦術により、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、4隻の

大~中型空母を失った。同海戦では、日本側もアメリカの大型空母

ヨークタウン 1隻を沈めたが、日本の大~中型空母は、翔鶴、瑞鶴、

飛鷹、隼鷹、4隻のみと、やや劣勢になってしまった。


 ミッドウェイ海戦の1ヶ月前の 珊瑚海海戦の事例でも 分かる通り、

空母同士の戦いは、相討ちとなる公算が大きく、ミッドウェイ作戦が

仮に上手く進行していた場合でも、日本の空母2~3隻が大損害を

被っても何ら不思議はない。ミッドウェイ海戦の4ヶ月後の1942年

10月に起きた南太平洋海戦に、一般より 少し高い評価を与えても

よいように思う。戦略的には再び 日本の失敗であったにせよ、この

海戦の結果、アメリカには 一時的に 太平洋上で稼働できる空母が

1隻も なくなってしまったからである。この時点で、日本側が無理を

押しても大幅な譲歩をしたならば、停戦・和平への1つのチャンスで

あった かも しれない。しかしながら、大東亜戦争では、日露戦争の

際の アメリカ、イギリスのような、頼りとすべき仲介役の国がおらず、

それどころか 敵に回してしまったことが 悔やまれる。いずれにせよ、

大東亜戦争以降、空母は海軍力の シンボルとなり、アメリカを始め

主要国は国家の威信をかけ巨大空母を保有している。海洋進出を

企てる中国も、空母保有に躍起となっている。すでに 就役している

遼寧は、失礼ながらオンボロ空母だが‥‥。


 いずも級ヘリ空母の2番艦(24DDH)は、2017年に就役予定で

あるが、2隻が揃ったところで、ロッキード・マーティン社製戦闘機の

F-35ライトニングⅡの垂直離着陸型F-35Bを 積むか 積まないか

という話が 当然に出てくるとは思う。しかし、これは積んで積めない

ことはなかろう 程度の意味であって、有効にF-35Bを運用しようと

思えば それなりの改修作業が 必要になってくる。そうであるならば、

空母艦載型F-35Cの運用を前提にし、本格的空母を造ったほうが

早い。すでに航空自衛隊が攻撃用戦闘機は持っているのに、海上

自衛隊がそれを持てない という理由は見当たらない。基準排水量

50,000トンほどの本格的空母が 2隻欲しい。空母は点検などの

必要性により、1隻だけでは用をなさない。さらには、空母単艦でも

用をなさず、イージス艦、他の護衛艦など とともに「空母打撃群」を

編成しなければならない。それには、人員、艦艇などが 足りないと

いうのであれば、防衛予算を増やせばよい。(※上記の24DDHは、

旧海軍空母、加賀と同じ「かが」と命名されました。)


 財政赤字に困っている日本で、「おい おい、防衛予算増大 などと

簡単にいってくれるなよ」と、思うかもしれない。しかし、防衛予算は

単に国内事情で決めるのでなく、冷徹で客観的な 国際情勢分析を

踏まえた上で 厳然と決めるべきものである。約5兆円という現在の

防衛予算は、自衛隊の適正規模、また GDPが約500兆円 という

日本の国力から考えても少なすぎる。航空自衛隊の攻撃力増強の

ほうが先決 という見解も 分かるが、海軍力の弱い台湾、フィリピン、

ベトナムなどと連携して、東シナ海、南シナ海 の秩序と安定を保つ

ためにも、そう遠くない将来、海上自衛隊には 空母が必要とされる

時期が訪れるであろう。

 

 しかしながら、そうなると、当然に アメリカがクレームを入れてくる

はず である。アメリカには、「いやいや、空母はあくまで自衛用です。

アメリカ さんの負担軽減にもなります」とでもいえば宜しい。その上

厄介なのは、例によって、攻撃型空母などの保有を認めないという

現行憲法解釈上の「奇々怪々な」問題が、出てくるということである。

現行日本国憲法の原案は、戦後 アメリカが 短期間で作り上げたと

いわれている。安倍首相も、戦後レジーム(体制)からの脱却という

ことをしきりに訴えている。その訴えは、われわれの世代にとっては

非常に重い。自衛隊は「軍隊」か 否か、などという 能天気な議論は、

もう いい加減に やめようではないか。要するに、この記事で強調し

たいことは、戦前も、そして戦後も、日本は アメリカに抑え込まれて

いるという事実なのである



【注 記】


※護衛艦が多くDD(Destroyer)、すなわち駆逐艦と呼ばれるのは、

海上自衛隊発足当初、護衛艦が せいぜい駆逐艦クラスと想定して

いたためと思われます。


※アメリカの ロッキード・マーティン社製の最新鋭 戦闘機F-35の

名がライトニングⅡなのは、大東亜戦争半ばの1943(昭和18)年

4月に山本五十六・連合艦隊司令長官が乗った一式陸上攻撃機を

撃墜したことでも有名な、「双胴の悪魔」と呼ばれた ロッキード社製

戦闘機P-38の名がライトニングだからでしょう。P-38は格闘戦

能力は劣るものの、最高速力は零式艦上戦闘機(ゼロ戦)をしのぐ、

「一撃離脱戦法」に向いた戦闘機でもありました。


※日本が本格的空母を保有するか否かを決断する時期は、いずも

級2番艦(24DDH)が就役する、2017(平成29)年になるでしょう。

つまり、それ以降も いずものような哨戒用大型ヘリ空母を造り続け、

アメリカ空母への哨戒、護衛といった「下請け」任務に甘んじるのか、

それとも、ある程度の自律性を伴った 攻撃力のある 本格的空母を

保有し、「元請け」任務を遂げるようにするのかの決断です。それは、

日本という国家の「威信」と「尊厳」にも関わってきます。


※太平洋全体の防衛は、覇権主義国家 アメリカの空母に任せると

しても、少なくとも日本海、東シナ海、南シナ海 といった日本近海の

防衛は、日本自らの力で、日本自前の空母で行うべきです!



(6月10日付記)


※集団的自衛権の行使容認 などの、安全保障関連(安保)法案が

「違憲(憲法違反)だ、違憲 だ」と、憲法学者たちが 騒いでいるよう

ですが、「違憲」で 当然です。そもそも、現行の日本国憲法 自体が

間違っている次第ですから‥‥。このままでは、どんどんと 矛盾が

拡大するばかりなので、早急に「憲法改正」を国民的議論の俎上に

載せる べきです。現行憲法は、それほどまで 後生大事に守るべき

対象でしょうか。正直なところ、現行憲法は「アメリカ属国憲法」だと

しか思えません。戦後70年、そろそろ日本はアメリカの「属国」から

脱して、真の「独立国家」になろうではありませんか。沖縄県のみが

「属国」の犠牲になってしまった惨状は、是が非でも、変えなければ

ならない、心底からそう思います!!