出ていく理由は、
「実家に戻る」という形で伝えた。

正直に、
逃げたいとは言えなかった。

言えば、
何が起きるかわからなかったから。


最初は、
大きな反応はなかった。

怒鳴られることも、
その場で何かされることもなかった。


でも、
数日が経った頃、
普通の会話の流れで、
彼はこう言った。


「俺も、お前の実家の県で働こうかな」


その言葉を聞いたとき、
正直、
怖さよりも、
別の感情のほうが先に来た。


「そこまで、してくれるんだ」


そう思った。


嬉しかった。

殴られているのに、
それでも、
好きだという気持ちは、
消えていなかった。


一緒に来る未来を、
信じたかった。

というより、
信じようとしていたんだと思う。


前に書いたかどうか忘れたけれど、
彼は、ずっと無職だった。

付き合ってすぐ、
仕事のことで相当悩んで、
頭に円形脱毛ができるくらいで、
辞めてしまった。


今思えば、
うつ病だったのかもしれない、と思う。

でも、当時の私は、
病気かどうかなんて、
考える余裕はなかった。

私の中にあったのは、
「ある日を境に、殴り始めた」
という事実だけだった。


そのまま、
引っ越し当日を迎える前の日になった。

私はまだ、
本当に出られるのかどうか、
わからないままだった。