やすらかになった
川越市のおかやす学(岡安学)です。
高齢の男性の通夜でした。
その通夜のお勤めをして、法話をしているときの出来事でした。
長男が喪主で、弟がいました。
弟夫婦の奥さんでした。
その奥さんが、一番前の席から、わたしをにらみつけるように目線をそらさないのです。
そのするどい視線は、まばたきひとつ、しませんでした。
じっと、法話をしているわたしの顔面を、うがつように見ています。
あまりにその様子が異常だったので、一瞬、頭の中が、真っ白になり、法話がしどろもどろになりかけました。
このままではいけない。
そう思って、その女性から、視線をそらして、別の親族に、目をやるのですが、どうにも気になって、また吸い込まれるように目が合ってしまいました。
その日は、家に帰ってから、非常に不快な気持ちになってしまいました。
わたしのお勤めや法話に対して、いろいろな思いを抱いてきた、たくさんのご遺族がいたとしても、その日のように、まるで、あからさまに、わたしの人間性を疑うような目つきをされたのは、初めてでした。
その翌日は、朝早い、同じ故人の葬儀でした。
少し早く式場に到着すると、喪主の長男と、偶然、はちあわせになりました。
ここぞとばかりに、長男に尋ねました。
すみません、あのお、昨夜のご法話で、わたし、なにか失礼なことを、言いませんでしたか?
いえ、なにも、そのようなことはありません。どうしてですか?
このようなことを言ったら失礼かも知れませんが、弟さまの奥さんのまなざしが、わたしをじっとにらむように見えていたものですから・・・。
ああ、あの人は少し変わっている人なので、気にしないでください。
と言いますと?
いやあ、性格の悪い人では、決してないです。ほんとうに気にしないでください。
わたしは、もやもやしたものを抱えていたのですが、喪主の長男がそれ以上を語ろうとしないので、早々に、僧侶控室へ入りました。
葬儀が終わり、斎場の火葬炉前で、短いお勤めをして、帰るときでした。
斎場を出たわたしのあとを、追いかけてくる女性がいました。
あの弟の奥さんでした。
昨夜の通夜の席とは、あきらかに様子が違います。
何度か、頭を下げながら、
おぼうさん、二日間、お通夜とお葬儀と、お世話になりました。ありがとうございました。
いえ、こちらこそ・・・・・・。
実は、わたしは、霊感が強くて、むこうの世界が、見えるのですが、無事に、義父(ちち)が、おぼうさんの強い思いで、やすらかな世界へ行ったことが見えました。
わたしは、しばらく、黙って、女性の目を見ていたのですが、昨夜と、まったく違うまなざしでした。
わたしは、言いました。
わたしは、そういう能力はないのですが、もしそうだとしたら、わたしのちからではなく、阿弥陀さまのはたらきで、そうなったのでしょう。
いえ、ちがいます。おぼうさんの強い思いが通じたのです。
わたしは、直感で、ここで、押し問答をしてはいけない、と感じました。
先を急ぎますので、また、ご縁があったら、お話いたしましょう。
そう言って、その場を後にしました。
そう言えば、あの目つきどこかで見たことがあるなあ、と帰りの車の中で思いました。
それは、昭和から平成のはじめにかけて、テレビによく出演していた、霊能者の宜保愛子(ぎぼあいこ)さんの霊視をするときの目つきでした。