窓際族の社窓から

窓際族の社窓から

記憶が曖昧になっていることに自覚したある夜、
男はその不安に苛まれながらも
文章道への想いが甦る。

忘れぬ前に、稀有なことを書き記せ。
罪、恥じらい、癖、
忘れぬ前に書き記しておく必要がある。
自身の物語が学期始まりの雑巾のようにならぬ為。

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御風呂大臣に任命された父。
御風呂の工程で、どうやっても泣いてしまう我が子を、どうにかあやしつける方法がないものかと模索し続けること数日。
遂にその光明を見た気がする。
ちなみにこれが娘の風呂。




生後1ヶ月と10日程過ぎた我が子は、徐々にではあるが、表情を作れるようになってきた。
ことさら笑顔に関しては日に日にその回数が赤マル上昇中である。
どうにか笑顔を見れぬものか、そこで父が編み出した技が「顔面高速移動」である。
自慢ではないが私の顔面の面積はおおよその人間よりもでかい。つまり赤子にとってはこれ以上のインパクトはない。
その顔面が全力で高速で変動するのだから赤子とて笑わずにはいられない。
そして最も効果的なのが目、鼻、口を全開にし、「ぷぷぷ」「ぱぱぱ」と甲高い声で訴えかけるパワーフェイスである。
最初は不思議そうな顔をするが、次第にパワーに押され笑顔になってしまう。
それを御風呂でも試そうではあるまいか、そう考えたのだ。
するとどうしてなかなか、これがハマった。
今にも泣き出さんばかりの我が子に全力の顔面で応戦。
「ぷぷぷ!」
「ぱぱぱ!」
「ぴぴぴ!」
我が子の表情は少し和らぐ。
これを繰り返すこと数十回、我が子は少しだけ泣き声をあげただけで入浴をクリア。
その代償として、父の表情が無くなったという。


すると我が父から電話が。

父「仕事のお客さんから玉子を貰ったから今から行ってもいいか?」

私「いや、じゃあ俺が家まで取りに行くよ」

父「割れるかもしれんからワシがいく」

私「いや、だからそれやったら車でいくがな?」

父「色々面倒やろ。まぁ行くから待っておれ」

始めから孫に会いたいと言えばよいのだ。
暫くして父が卵を抱えて我が家にやってきた。
卵を私にぶしつけに渡し、妻への挨拶を早々に済ますと、我が子の元へ。
まぁよく考えれば無理もない。
一度実家に連れて行ってから、父は我が子と会うことがなく、未だお爺ちゃんらしいことをしていなかった。
早速娘に向かって「可愛いな」「良い子じゃ」「おぅいおぅい」などと孫へ囁きだした。



この溺愛ぶり。まぁ初めての孫であるからして。

数分後





もうええやろ!
テニスのボールボーイか!
妻と娘が実家から帰ってきた。
周りからあたかも地獄の始まりの如く囃し立てられたが、実際のところはどうだったのだろうか。

全然余裕。
こんなので音を上げているようでは話にならんぜ(冷汗)
…。

なかなかの地獄のである。
とにかく睡眠時間が取れない。
初日は環境の変化もあってか、頻繁に泣き出してはこちらの目が覚めた。そしてあやしてはまた寝付かせる。その繰り返しであった。
しかし初日だけかと思えばそういうわけでもなく、朝昼晩、我が子は授乳を求めて魂の叫びをあげるのであった。

日に日に妻の眼下には深いくまが浮き出てきており、出産が終わろうと、妻の戦いはこれからも続くのだと思い知らされた私は、何か出来ることはないかと志願した。
すると隣の部屋で寝てもいいよと、何故か私は突き放された。
なんと水くさいことか!
夫婦水入らず、苦労は共にしようと誓ったではないか!

どうやらくまの原因はむしろ私のいびきであるらしい。

妻としてはこの二重苦が耐え難いとのことであった。
退席処分を受けた父は肩を落とし、枕と布団、ラジカセを隣の部屋へ持ち込んだ。
その日、私は松本人志と高須光聖の放送室を流しながら、自分の肩を抱いて眠りについた。


いかん、このままでは私の立場がますますなくなってしまう。
という訳で、何かできぬかと考えていると、前に妻の祖母に風呂入れは男の仕事と言われたのを思い出した。
妻もどうやら覚えていたらしく、私がそれを担当することになった。
父、晴れて御風呂大臣に任命である。
父はこれから娘に風呂に入れまくり、御風呂大好きしずかちゃんに育て上げる!
明日、妻が我が子を連れて帰って来る。

「これからが大変や」

「良かったですね」

「寝れない日々がやってきたな」

「子供可愛いですよー」

「最後の夜だね」

「まぁとりあえずがんばれ」

などなど、職場の方々に微妙にネガティブ優勢な激励の御言葉を頂いた。
と共に、身の引き締まる思いである。
そのまま窒息するかもしれん。

父は不安である。

娘が大きくなるにつれ、やがて私の居場所はなくなるのであろう。
パパ、お口が臭い。
お父さん、御風呂は最後に入って。
おじさん、あっちいけよ。
脅威である。
明日から私の居場所が少しずつ消えていくのだと思うと、なんとも悲しいではないか。
安心する言葉が聞きたい。
今、お父さんは安心感が欲しい。

父、情緒がおかしくなる。