一気に気温が下がり、冬も本番のような寒さが到来した今日。
横浜・みなとみらいへ、及川浩治さんのピアノリサイタルを聴きに行ってきました🎹
及川さんの演奏はCDを聴いたり、YouTubeでベートーヴェンの運命の演奏を聴いたりしていて、かねて好感を持っていた。
数ヵ月前に今日のコンサートがあることを知り、興行元に連絡をすると、2席だけチケットが残っているという。
見切り席とのことで、ステージが半分程度見えないとのことだったが、ピアノなので問題ないと購入する🎫
はたして実際の席は、手元は見えないけど、お顔はばっちり見える席でした
及川浩治 ピアノ・リサイタル 2023 <及川浩治が贈るピアノ名曲選>
曲目・演目
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ 第14番「月光」
リスト:愛の夢 第3番
リスト:ラ・カンパネラ(ブゾーニ編)
ショパン:ワルツ 第3番
ショパン:ワルツ 第1番「華麗なる大円舞曲」
ショパン:即興曲 第4番「幻想即興曲」
ショパン:ポロネーズ 第6番「英雄」
ドビュッシー:月の光
ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女
クライスラー:愛の悲しみ(ラフマニノフ編)
スクリャービン:エチュード第12番「悲愴」
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第23番「熱情」
これでもか!と名曲を詰め込んだようなプログラム。
最初と最後にベートーヴェンのソナタを配置し、間にさまざまな名曲をサンドイッチしたような構成だ。
名曲の中に、ちょこちょこ玄人好みの曲も入っていて、及川さんのこだわりが感じられる。
演奏を聴くまで気付かなかったが、ベートーヴェン以外は作曲家別に作品がまとめられている。
これが実際に聴いてみたら、作曲家ごとの特色が浮き彫りとなり、大変効果的だった。
客層は、私の隣が同世代の女性のほかは、年配の夫婦の姿がほとんど。
こういう場面でも超高齢化社会を実感する。
定刻を少し過ぎた頃、及川さんがステージに姿を現した。
一礼したあと、ピアノに向かい椅子の高さを直し始める。
すると、何やら「すいません」と客席に謝っているようだ。
YouTubeで観ていた通り、面白い?優しい人だなぁと思う。
椅子の高さが定まったところで、ベートーヴェンの月光を弾き始める。
静かで厳かな月光だ🌛
人によってはアクセントがきつい演奏もあるが、及川さんの場合、まったくそんなことはない。
表情もまるで厳(いわお)のようにピクリとも動かない。
続いて、リストの愛の夢 第3番。
冒頭からしばらくすると、おっとミスタッチ!(すみません、気付いてしまったもので)
及川さん、一昨日も八戸でコンサートがあったようでお疲れなのかしら?
続いて、同じくリストのラ・カンパネラ。
こちらはお馴染みのカンパネラではなくブゾーニ編。
これが可憐でエレガントで素敵でした。
リストの次は、お待ちかねのショパン
ワルツ第3番。
当初、私の発表会の候補曲だった。
なんて味があって素敵なワルツだろう。
名曲コンサートにこの曲を入れてくださったことに感謝、素晴らしかったです
続いてワルツ第1番の華麗なる大円舞曲、からの英雄ポロネーズ。
CDを聴いていても感じたことだが、及川さんのピアノは、1曲の中に大きなフレーズ感があるというか、全体の統一感が感じられるような演奏だ。
英雄ポロネーズは、さまざまな人生経験が滲み出たような、大人のポロネーズでした
その後、なぜか演奏前に「幻想即興曲を弾きます」と断りを入れて弾き始めた(あとから演目を見て判明したのだが、本来は英雄ポロネーズの前に幻想即興曲を弾くはずだったようだ)。
幻想~は何度もピアニストの生演奏を聴いているが、弾き流すような演奏が多々ある中、及川さんの演奏は流麗かつ叙情的で胸に沁みる。
休憩を挟み、第2部はドビュッシーの月の光で幕を開ける。
美しさでは今日一番ともいえる、白眉の演奏だった。
続いて、同じくドビュッシーの亜麻色の髪の乙女。
こちらもこれまで何人もの演奏を聴いたが、美しさに惚れ惚れする。
そして、ラフマニノフ編曲によるクライスラーの愛の悲しみ。絶品でした。
演奏後、ブラボーの声がかかるが、及川さんは間髪入れず、スクリャービンのエチュード悲愴に突入。
この曲、ホロヴィッツの演奏をそれこそ耳タコになるまで聴いていた(特に好きな曲というわけではないが、ホロヴィッツのCDをリピートしていたら、おのずと何度も聴くことになった)。
低音の唸るような響きといい、今日一番の出色の演奏、及川さんの真骨頂が表れたような演奏だった。
最後はベートーヴェンの熱情。
思ったより優しい熱情でしたよ
及川さんのピアノは、喜び、悲しみ、優しさ、激しさなど、人が持つさまざまな感情を湛えているが、中でも私は優しさを最も感じた。
小細工がなく、音楽に対して真摯に向き合う演奏。
さらに、若手とは違った熟年の味わいを醸している。
そして何より、音色が美しく深い。
及川さんは俗に「情熱のピアニスト」と言われているようだが、もちろんそういう側面もあるだろう。
演奏後、取れたタキシードのボタンを探すような仕草を見せたり、段差にずっこけそうになったりのサービス精神にも表れているように、私には「優しさのピアニスト」という方が相応しい気がした。
アンコールは、ショパンのノクターン遺作と革命。
2曲目の革命を弾き始めた時、私、及川さんの心意気に惚れましたね。
普通、これだけ弾いたあと、アンコールの最後を革命で締めます
しかも、おそらく1箇所和音を思い切り間違えたが(私の耳が確かなら)、そんなことはものともせず、怒涛のような演奏を披露する及川さん。
ベートーヴェンの熱情を弾いた後のショパンの革命に、とにかく痺れました
やっぱり及川さんは、情熱のピアニストなのかもしれません。
及川さん、来年は地元にも来てくれるそうで、その時は今日来られなかった母と一緒に聴きに行く予定です🎹