A子さんは被虐体験者です。
長い間A子さんは孤独でした。
誰にも本当の自分の思いを打ち明けられず、だからこそ誰にも理解してもらえませんでした。
ある日Oさんと出会い、A子さんの事を初めて正しく理解してくれました。
A子さんは大変嬉しく、初めて人の温かい心に触れたことを実感しました。
なぜならば、体の中に「じわり」と何か温かいものがこみ上げてくるのを感じたからです。
また同時にOさんもA子さんの寂しさを知ったからこそ、もっと深くこれからはA子さんと接し、幸せにしてあげたいと考えていました。
ところがその後A子さんは、Oさんに何も告げずOさんの前から姿を消してしまったのです。
Oさんには何がなんだか理由が分りませんでした。


皆さんにはこのA子さんの気持ちが分りますか?


実はA子さんは、生まれて初めて人から正しい愛情をもらったのです。
だからこそ、この思いはA子さんにとってはかけがえのない「幸せな思い出」として心に残しておきたかったのです。
同時にOさんと関係が深くなることで自分の欠点を知られる事を恐れ、Oさんにだけは「嫌われたくない!」と、思ったのです。
A子さんのような被虐体験者のほとんどは、育つ過程で親から誉められたことは一度としてなく、自分がどれ程の「悪人であるか?」と、言うことを親から叩き込まれて育ちます。
その幼少期の洗脳により、結果、自分は悪い人間だと思いこんでいます。
この場合、Oさんと係わる事により、Oさんを悪い人に変えてしまうとも考えたのです。
幼少期からA子さんの親はきっと自分達の都合で、「お前が悪いから、お前の周りの友達も全て悪い子になってしまう」というような、自分勝手な言葉を幾度となくA子さんにぶつけてきたのでしょう。
だからこそ、OさんがA子さんの優しさ、可愛さに触れて本当のA子さんの姿を理解できたことは、A子さんにとっては大きな喜びと共にその何十倍もの不安が生じてしまったのです。
それと、悲しいかな、人はどのような状況下であっても生きるために「慣れる」のです。
A子さんにとっても罵られ、孤独には慣れているものの、優しさには不慣れなために「居心地の悪さ」から逃げ出してしまったのです。

本当におかしな話です。

ですが、このような環境下にある人をいきなり幸せな環境に変えてしまうと、A子さんのような行動を起こします。

虐待を受けている人を助ける場合は、少しづつ悪い環境を残しながら慣らしてゆく事が大切なのです。

この事例は多くのパターンの中のほんの一つに過ぎません。
被虐体験者の思考、行動パターンは一般人の常識には当てはまりません。
むしろ殆どの場合「非常識な人」として見られてしまうので、そのあたりを時間をかけてひとつづつ周りの人に理解していただくことが虐待の防止に繋がってゆくのです。

ちなみに、周りから言わせると、女性としては私もかなり変人のようです。

きっと周りも少しづつ私の変人ぶりに慣れてくださったのでしょうね!(笑)


岡田ユキ