ども、就寝中に突き指した岡田達也です。
我が父・隆夫さん(88)は
現在、介護病院にて入院療養中。
*
昨日、突然アルバイトが休みになったので、父の洗濯物を引き取りがてら、見舞いに行くことにした。
休みが決まった瞬間に「今日、行きますね。何か欲しい物はありますか?」と、メールで確認しておいた。
我ながらよくできた息子だと思う。
(……たぶん、おまえだけがやってるわけじゃないぞ)
返信があった。
「差し入れは大丈夫です。髪の毛が伸びてるので散髪よろしく」
よくできた理髪師(もちろん私のことです)は、カット用のハサミとコームを車に積んだ。
*
病室に入った。
隆夫さんが陽気に言った。
「おぉ、ごくろうさん」
「洗濯物、引き取るね」
「あぁ」
「洗っておいたパジャマと下着はココの棚に入れておくから、看護師さんに説明してね」
「わかった、わかった」
「じゃ散髪しようか」
「頼むわ!」
隆夫さんは嬉しそうだった。
僕は、介護ベッドの上半身を起こした。
隆夫さんは気にしていた。
「髪の毛が落ちんようにな! 落ちんようにせんとな! どうすればええかいな?」
よくできたAD(もちろん私のことです)は「これを手に持ってて」と、持ってきていた読まないチラシを手渡した。
隆夫さんはそのチラシを首元にあてて言った。
「こうか? こうか? これでええか?」
僕はそのセリフを聴いて
「ええか?ええか?ええのんか?」
という鶴光師匠の名台詞を思い出した。
サイドからハサミを入れた。
「バッサリ行ってええで! バッサリ! あと、もみあげはスッキリな! 前髪は少しな! 後ろはどうしようかいな?」
このお客は注文が多い。
「わかったから、任せておいて」
この『注文の多いお客さま』を満足させるべく慎重にカットした。
「髪の毛が伸びるとなぁーー」
「?」
「病人みたいでなぁーー」
「うん」
「いやだ!」
「……おとうさん、病人だよね?」
「病人じゃないわよ~!」
「じゃ、なに?」
「う~ん……」
「……」
「とにかく病人みたいでいけん!」
「わかった、わかった」
「ここでも散髪してもらえるらしいけどなぁ」
「あぁ、聞いたよ。でも、2千円かかるんだよね?」
「さ~いな。たっちゃんので十分だ」
「ありがとうございます。今日も頑張らさせていただきます」
*
8月に隆夫さんが入院してから、3度目の散髪だ。
父親の髪の毛を、自分がカットする日が来るなんて想像もしていなかったが、いざそのときがきてみても悪い気はしない。
むしろ楽しい。
だって、床屋さんは子供のころになりたかった職業の一つだったし。
僕はいっぱしの気分で切らせてもらった。
我ながら上出来だった。
隆夫さんに鏡を見せた。
「うん! ええなぁ、ええなぁ!」
隆夫さんは、自分の頭髪を撫でながら、何度も何度もそう言った。
「でしょ? 俺、うまんいんだよ」
「そういうことにしておこう(笑)」
「(笑)」
*
帰宅後
隆夫さんからメールがあった。
「只今2回め
リハビリおわり
看護師さん皆さんが散髪上手だと褒めてました
父」
*
父上
リアップでも、サクセスでも、何でもいいから使って、さっさと髪の毛を伸ばしてください。
すでに切りたくなっている自分がいます。
では、また。