ども、人生で一番失くしたのはリップクリームだと思われる岡田達也です。

 

 

 

 

 

家族というのは、お互いに、空気感だけで感じ取れるものがある。

 

悲しいかな、わかってしまうのだ。

 

良くも、悪くも……。

 

 

 *

 

 

一昨日

 

僕が仕事を終え、帰宅したときのこと。

 

ソファに父・隆夫さん(86)が座っていた。

 

 

言葉を交わさずとも、その佇まい、顔の表情で、何かが起こったことはわかった。

 

それは、きっと、僕にとって良くないことだ。

 

 

「……あのなぁ」

 

 

しおらしく口を開いた。

 

もう、良からぬ匂いがプンプンする。

 

 

「なに?」

 

「お父さん、阿呆だけなぁーー」

 

 

普段は自分のことを絶対に「阿呆」などと言わない人が

 

こんなふうにへりくだってくるだけでゾワゾワする。

 

 

「携帯、落としたみたいでなぁ」

 

「……」

 

 

きた

 

きたきた

 

今年に入ってから何回目だろう?

 

少なくとも5回ではきかない

 

 

ま、僕だって「あれ? どこに置いたっけ?」なんてことはちょいちょいあるので、人のことはとやかく言えないが

 

この人は2ヶ月に一度のペースで携帯を無くす。

 

 

「携帯、落としたみたいでなぁ」

 

「……心当たりはあるの?」

 

「セブンイレブンかーー」

 

「うん」

 

「タクシーの中だな」

 

「パチンコ屋は?」

 

「いや、パチンコ屋に着いたときにはもう無かったけなぁ」

 

「……」

 

「タクシー乗って、セブンイレブンに行って、それでパチンコ屋に行ったけぇ。多分タクシーかセブンイレブンのどっちかだろうやぁ」

 

「……」

 

 

だったら気付いた時点でコンビニ行けや

 

何をのん気に打ちパチンコ続けとんねん

 

 

「このマジテ(ポーチの外側に付いている携帯入れ)はちゃんと止めただけどなぁ」

 

「……」

 

「マジテはなぁ」

 

「……」

 

「止めただけどなぁ」

 

「……」

 

「マジテをなぁ」

 

「……」

 

 

わかってる

 

言い訳はもう十分だ

 

「自分はちゃんとしてるにもかかわらず不思議なことに携帯がどこかにいってしまった」と言いたいんですよね?

 

悪いのはどこかに行ってしまった携帯電話ってことですよね???

 

 

「明日なぁ、セブンイレブンには行ってみようと思っとるだ」

 

 

嘘だ

 

確実にウソじゃね~か

 

だってーー

 

セブンイレブンはパチンコ屋から徒歩1分のとこにあるんだぞ?

 

明日いくつもりなら、なぜ帰宅する前に寄らなかったよ?

 

 

「明日なぁ、セブンイレブンには行ってみようと思っとるだ」

 

「……どうぞ」

 

「それとなぁ」

 

「……」

 

「タクシーは○○タクシーに乗ったけなぁ」

 

「……」

 

「明日には電話して確かめようと思っとるだ」

 

「……」

 

「でもなぁ~」

 

「……」

 

「電話したくても電話が無いだがなぁ」

 

「……」

 

 

電話する気ゼロである

 

見え見えである

 

 

だったら

 

たった一言

 

「 携帯電話を落としたから、セブンイレブンとタクシー会社に電話してみてくれ」

 

と言ってくれれば良いだけの話だ。

 

それ以上の言葉はいらない。

 

 

なぜ、言葉を塗りたくる?

 

なぜ、やりもしないことを、さもやりそうな風に言う??

 

 

僕は、大きなため息を1つ吐き出し

 

タクシー会社に電話してみた。

 

 

「あの~、今日の午前に乗車した岡田と申します」

 

「あぁ、携帯電話ですかな?」

 

「はい、そうです!」

 

「緑色のやつですよね?」

 

「はい!」

 

「お預かりしてますよ!」

 

「どうもすみません」

 

「いやいや! いつものことですから!(笑)」

 

「これから取りに伺いますね」

 

「お待ちしています」

 

 

僕は電話を切った。

 

 

「タクシー会社に置いてあるって」

 

「おおっ! やっぱりそうか!」

 

「……」

 

「おかしいなぁ」

 

「……」

 

「マジテはなぁ、ちゃんと止めーー」

 

 

 *

 

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

(いつもより心の叫びを1回多くしてみました)

 

 

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

おおおおおおぉぉぉぉぉいいいいいい!!!!!

 

(試しにリフレインしてみました)

 


やっぱりあんたは殿様か?

 

殿様なのか??

 

 

俺は家来か?

 

都合の良い足軽なのか??

 

 

なんか、お・か・し・い・だ・ろっ!!!

 

さっきまでのしおらしさは何処に行ったんだよっぉぉぉおおお!!!

 

 

 *

 

 

世の中には「有言実行」とう素晴らしい生き方をされる方も多くいる。

 

隆夫さんは「有言不実行」の人生を歩み続けてきた。

 

それはきっと死ぬまで変わらない。

 

いっそのこと「無言不実行」でいてくれたら、

 

僕はどんなに気持ちがお穏やかでいられるだろう。

 

 

言葉は、多ければ良いってものではないようですぜ。

 

 

 

 

 

では、また。

 

 

 

 

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