ども、いろんなものを堪えた岡田達也です。



芝居は後半のクライマックスに差し掛かっていた。

近江谷先輩演じる石神と
僕が演じる湯川が最後に対決するシーン。
自分で演じておいて言うのも何だが
「かなり緊迫したシーン」である。

例えて言うなら
「表面張力により目一杯に水が入ったコップをこぼさないように手に持っている」
もしくは
「線香花火のラストでパンパンに膨らんだ火の玉が落ちないように持っている」
もしくは
「白いシャツを着ているのに担々麺を頼んでしまい跳ねないように食べている」
というような緊張感のあるシーンである。
(最後の例えにやや問題があるかもしれないが)

僕は近江谷さんのセリフを受け
次の自分のセリフをしゃべろうと口を開いた。
その瞬間。

「ブヒヒーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーツツッッッ!!!!!」

何の音か分かるだろうか?

そう。
おそらくは涙を堪えて堪えて我慢していたのだろう。
だが堪えきれなくて、鼻水が垂れてしまったのだろう。
最初のウチは鼻をすすって我慢していたのだろう。
だが、すするだけでは間に合わなくなってしまったのだろう。

会場中に鳴り響く鼻をかむ音。

かれこれ20年ほど芝居をやらせてもらっているが
あれほどの轟音に出会ったことはない。

僕は動揺してしまったのかもしれない。
もちろん平静を装ってはいたが近江谷さんには伝わったようだ。
「達也、踏ん張れ!」
近江谷先輩の目力が一段と強くなった。
対決しているシーンにもかかわらずエールを送られている
という、不思議な現象が起きた。

僕はその期待に応えしっかりと踏ん張ってセリフをしゃべった。
今度はそれを受けて近江谷さんがしゃべる番だ。
その瞬間。

「ブヒヒーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーツツッッッ!!!!!」

1回ではかみきれなかったらしい。
サンシャイン劇場に再び轟音がとどろいた。

僕は目を見開き近江谷さんにエールを送った。
「先輩、踏ん張って!」


お芝居を観て涙を流してもらえるのは有り難い。
それだけ心が動いた、ということだろうから。
だが。
昨日の場合、泣きたかったのは僕の方だったかもしれない。



では、また。