私が担当する大阪経済大学の「北浜・実践経営塾」で先日、自動車部品メーカーのミクニ社長の生田久貴氏に講演していただきました

 

ミクニは、創業94年の歴史を持つ独立系の自動車車部品メーカーで、特にエンジンの燃料噴射装置では定評があります。燃料噴射装置は、自動車エンジンの燃焼効率が最も良くなるように燃料を噴射する技術が必要で、その品質が自動車の燃費を左右する、まさに中核的な部品です。同社はその技術力を買われて、日本だけでなく海外も含めて二輪車と四輪車メーカー各社に広く部品を供給しています。中でも、米国の有名なハーレー・ダビッドソンは同社の有力な供給先だそうです。

生田社長は創業者の孫にあたりますが、社長に就任したのがちょうどリーマン・ショック直後で、同社は過去最大の赤字となったタイミングでした。しかしリストラはせず、改善活動の徹底、設備の整理などに全社挙げて取り組んだ結果、業績のV字回復を果たしました。この間、海外の従業員も含めてチームワークを強化したことが業績回復の原動力になったそうです。

実は生田社長は、ラグビーの元日本代表として1987年の第1回ワールドカップに出場した伝説のラガーマンなのです。その2年前の1985年度、生田さんが属する慶応大学ラグビー部は関東大学対抗戦で4位に終わったものの、その後の大学選手権の出場権を得て、明治大学と同点で両校優勝となったあと、抽選で日本選手権に出場、同大会でついに優勝を果たすというミラクルを成し遂げました。生田さんはその立役者の一人で、その実績を買われて日本代表に選ばれたのでした。当時のチームメートには昨年亡くなった平尾誠二氏、メディアでも活躍する大八木淳史氏などがいます。

生田さんによるとラガーマンとしての経験が日頃の経営に大いに役立っていると言います。経営とはチームプレーですし、企業はチーム力が強くなければなりません。「one for all, all for one」というラグビーの合言葉は常に物事の判断基準になっていると語ってくれました。

2015年のロンドンW杯で日本が歴史的な勝利を収めたのは記憶に新しいところですが、生田さんはその試合を現地で観戦していたそうです。そこで感じたのは、日本チームの限りない粘り強さと忍耐力、敏捷性と緻密さで、これが世界に通用したということでした。それはまさに経営にも通ずるものがあると強調されていたのが印象的でした。

同社はハーレーなど米国の二輪車メーカーや米国に進出している日本の自動車メーカーに部品を供給する生産拠点としてメキシコに工場を持っていますが、トランプ大統領がNAFTA(北米自由貿易協定)見直しとメキシコからの輸入品への課税を主張していることで、その影響が懸念されるところです。その点について生田さんに質問したところ、「例えばハーレーのオートバイはミクニの部品がなければ動かない。一喜一憂せずに、自社の技術に自信を持っていく」との答えが返ってきました。

まさに、日本の部品メーカーの心意気を感じました。このような企業が日本のものづくりを支えているのです。日本企業が自らの力に自信を持っていけば、トランプ旋風の吹き荒れる厳しい情勢を乗り切っていくことができると確信を深めることができました。