第1章 ネット時代の「正義」-他人をつるし上げる悦び
第2章 日本社会の特殊性と「正義」の関係
第3章 なぜ、人は人を許せなくなってしまうのか
第4章 「正義中毒」から自分を解放する
テレビ番組のコメンテーターとしてよくお見掛けする脳科学者、中野信子さんの著書です。
なぜ人は、他人を許せないのか?
なぜ他人を批判してしまうのか?
について、脳科学者の見地から考察している一冊です。
「人の脳は、裏切り者や、社会のルールから外れた人といった、わかりやすい攻撃対象を
見つけ、罰することに快感を覚えるようにできています。他人に『正義の制裁』を加えると、脳の
快楽中枢が刺激され、快楽物質であるドーパミンが放出されます。この快楽にはまってしまうと
簡単には抜け出せなくなってしまい、罰する対象を常に探し求め、決して他人を許せないように
なるのです。」 ( P.5 )
という、人間の脳にその原因があると説いています。
他人を批判することにより、快楽物質が放出されるので、人は他人への批判を止められないのです。
しかし、批判中毒がまん延する社会は、結局多様性もなく、生きずらい世の中になってしまいます。
その為、この本では、著者なりの『批判中毒』から脱出する方法を幾つか説いています。
「相手は対・人でなくてもかまいません。『このテレビ番組は馬鹿ばかしい』『〇〇党は許せない』『〇〇教は好きになれない』(中略)などといった怒りの感情が湧いたときは、その感情を増幅
させてしまう前にひと呼吸置いて『自分は今、中毒症状が強くなっているな』と判断するように
します。」 ( P.164 )
「正義中毒から解放される最終的な方法は、あらゆる対立軸から抜け出し、何事も並列で処理することではないかと思います。(中略)そのポイントを言葉にするとすれば、ああでもなく、こう
でもなくという感覚を受け止め、できるだけ多くの人との間で共有し、互いを包みこんでいくこと
ではないかと思います。」 ( P.212 )
この本の本題からは少々外れるトピックなもしれませんが、意外な『学び』となったのが、
・江戸時代中期から明治時代まで、日本の人口が3,000万人で頭打ちになっている。
・江戸時代に日本にやってきた外国人の見聞録に、耕作できるところは全て人の手が入っている、
非効率的な段々畑もたくさんあるという記述から、
「鎖国によって交易(特に食料の輸入)を行っていなかった江戸時代、国土をギリギリまで食糧
生産のために使っても、最大維持できる人口が3000万人超のレベルであり、ひとたび自然災害が起きてそのバランスが崩れると、あっという間に100万人単位の生命が失われるような限界
寸前の状況だっただろうということです。お米の一粒すら貴重な国土では、集団で食料生産を
維持していくより他なく、裏を返せば一人で生きていくことはできないということでもあります。
こうした状況では、良し悪しにかかわらず協働して困難を乗り切る集団主義的戦略が最適で
あって、集団の考え方に背くことが社会全体の深刻なピンチを招きかねないという思考を、誰もが無意識に採用していたということなのでしょう。」 ( P.58 )
という考察をしており、日本人が議論を好まない、空気を読むことに長けている理由を理解ができ、
妙に納得しました。この江戸時代の背景を理由とする説に触れたのは初めてで、これだけでもこの本を読んだ甲斐があったというものです!!
この本全体の感想としては、中野さんは著作を量産されている様で、そのせいなのか、この本の中では、同じ内容を別の章で繰り返し、問題提起をしても解決策が示されず、別の箇所に解決策が書かれていたりしています...。
構成に時間をかける余裕がないのか、敢えてかけていないのかわかりませんが、まとまりがなく、散漫な感じがしました。編集者がもっと気を遣って構成をきっちとすればいいのに...。
評価 : ★★★★☆