先日飛び込んできた、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスの経営統合ニュース。新会社の社名が
「ARCHION(アーチオン)」
に決定し、2026年4月に事業開始予定と発表されました。
これを見て、
「日本のトラック・バスの代名詞とも言える日野やふそうは本当に消えるの?」
「愛用しているセレガやエアロエースはどうなるの?」
と、疑問に思った方は多いのではないでしょうか。
さらに、日野はいすゞとも「J-バス」というバス製造の協力関係があります。この「日野・ふそう統合」と「日野・いすゞ協力」が絡み合い、話は非常にややこしいことになっています。
この記事では、この複雑な統合劇の裏側にある3つの謎を解き明かします。
新会社ARCHION(アーチオン)の正体:ブランドは消えない
まず、最も気になる「日野」と「ふそう」の名称についてです。
ARCHIONは「親会社」として誕生
新会社ARCHION(アーチオン)は、トラックやバスを製造・販売する「事業会社」ではありません。
ARCHIONの役割は、日野自動車と三菱ふそうトラック・バスという2つの既存の会社を100%子会社として傘下に収める「持株会社(親会社)」です。
これは、トヨタやダイムラートラック(ふそうの親会社)といった巨大な株主の力を結集し、戦略的な意思決定を迅速に行うための体制です。
「日野」「ふそう」のブランドと車種名は維持へ
現在のところ、ARCHIONの設立後も、「日野」と「三菱ふそう」というブランド名自体はそれぞれ維持される方針です。
そのため、観光バスの「セレガ」や「エアロエース」、路線バスの「ブルーリボン」といった長年親しまれてきた車種名も、すぐには消滅せず、当面は残る可能性が高いと考えられます。
統合の真の目的は「プラットフォームの共有」
ARCHIONが目指すのは、「統合プラットフォーム戦略」です。
統合の最大の理由は、CASE(電動化、自動運転など)という巨額の投資が必要な次世代技術開発に、日野とふそうがスケールメリットを活かして対抗するためです。
外見が違っても「中身は兄弟車」になる未来
ARCHIONのもと、両社の大型・中型・小型トラックの「プラットフォーム(車台の骨格)」が統合・共通化されます。
具体的には、「開発」「生産」「部品調達」といったコストがかかる部分を一本化し、大幅な効率化を図ります。
これは、将来的に日野のトラックと三菱ふそうのトラックが、外観やエンブレムは違っても、主要な部品や基本的な構造を共有する「兄弟車」になることを意味します。これにより、両社のコスト競争力は一気に高まります。
なぜバスはややこしい?「J-バス(いすゞ)」の存在
トラック事業は「日野+ふそう」で分かりやすいのですが、バス事業がこの統合を複雑にしています。そのカギを握るのが、ジェイ・バス(J-バス)です。
バス製造は「日野といすゞ」の合弁事業
ご存知の通り、日野は長年にわたりいすゞ自動車と協力し、J-バスというバス製造の合弁会社を運営しています。
J-バスの工場では、日野のセレガ/ブルーリボンといすゞのガーラ/エルガといったバスが、共通の車台を使って製造されています。
この「日野といすゞの協力体制」は、ARCHION(日野とふそうの統合)後も、現時点では維持される見込みです。
バス事業は三つ巴の複雑な関係に
結果として、日野は以下のような「二重の協力関係」を持つことになります。
| トラック | 三菱ふそう |
ARCHIONグループでのプラットフォーム統合
| バス製造 | いすゞ |
J-バスでの共同開発・生産を継続
三菱ふそうのバス(エアロエースなど)はJ-バスの枠組みには入っていないため、バス事業だけは協力相手が分断されたままです。
今後のバスの行方
最も注目されるのは、日野がARCHION(ふそう)とJ-バス(いすゞ)のどちらの技術戦略を優先するか、ということです。
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「セレガ」は当面、いすゞの「ガーラ」との兄弟車であり続ける。
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しかし、将来的にARCHIONグループ内で、三菱ふそうの「エアロクィーン/エース」と日野のバス**が、新たな共通プラットフォームを採用する可能性も否定できません。
日野は、ARCHIONグループの技術を取り入れつつ、いすゞとのJ-バス事業も維持するという、二つの強力なパートナーシップの間で難しい舵取りを迫られることになります。
日本の物流の未来がARCHIONにかかる
今回の統合は、単に会社名が変わるという話ではなく、日本の商用車メーカーが世界的な競争と技術革新(特に電動化)を生き抜くための「規模の戦略」です。
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ARCHION:日野とふそうの親会社として、戦略を一本化。
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ブランド:「日野」と「ふそう」は今後も残る。
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トラック:統合プラットフォームでコスト競争力を高める。
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バス:当面はいすゞとのJ-バス体制を維持しつつ、将来の動向が注目される。
今後の日本の物流を支える、新しいARCHIONグループがどのような革新的な商用車を世に送り出すのか、引き続き注目していきましょう。
