南スーダン代表、グオル・マリアル選手。
名前を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
この「戦火のランナー」は、運命に翻弄されながらも強く、誇り高く生きる波乱万丈なグオル選手の人生を追った映画です。
映画を観たのは少し前なのですが、今また映画を思い出し、この数行を書いただけで目に涙が溢れてきました。
それくらい、心が感じて動くような、感動をいただいた映画でした。
配給元のユナイテッドピープルさんは「人と人をつないで世界の課題解決をする」をミッションに、映画輸入・配給・宣伝・制作事業を行なっている会社です。
代表の関根さんは私と夫の仲人さんのような方であり、過去にエクマットラ制作の映画「アリ地獄のような街」の日本での配給を引き受けてくださった恩人でもあります。
今回、そのご縁でバングラデシュから映画を鑑賞させていただいたのですが、本当に魂を揺さぶられる、素晴らしい映画でしたので
拙い文章ですがここにその感動を記させていただければと思います。
これから映画をご覧になる方のために
なるべく物語の核心には触れないように書きたいと思います。
ただ、なんと言葉にすればよいのか、もう…
グオル選手の人生が壮絶すぎて、ずっと目に涙が溢れていたのですが
中盤、難民で他国に逃れてきたグオル選手が母国に帰り、ご自身のルーツと向き合うシーンは、涙なしには見られないものでした。
神に選ばれたようなグオル選手の生き様ですが、その根底には
母親への想い、仲間たちや応援してくれる人々との絆、夢を叶えるということ、目標に向かって走るということ…
私たちにも共通する普遍的な人生の悲喜こもごもがあり
そんな中で走ることをやめないグオル選手の姿に本当に本当に勇気をいただきました。
そして、人間が生きていく上でとても大切な「誇り」という気持ち。
生きていればよいのか?生かされていれば幸せか?
そう問いかけ、奴隷だった子ども時代から自由を求め、グオル選手は走り出します。
人生の記憶の中で、走り始めたことの理由が悲しすぎるのです。
その情景が、またオリジナルのアニメーションにより素晴らしく表現されています。
また、映画の中で南スーダンのお母さんが子どもに「誇り」を語るシーンがあるのですが
走り続けるグオル選手の生き方、そして困難や権力にも屈しない不屈の精神は
自身だけではなく、南スーダンという紛争中の自国の人々に、誇りを抱き生きることの尊さを、深く伝えていきます。
個人的には、途上国と言われるバングラデシュにいて、昨年からオリンピックのプロモーション事業をエクマットラが請け負っていたため、
同じように国の代表選手である選手の皆さんが
「お金がない」という理由で夢をあきらめなければならないこと、
スポーツ選手を続けられないこと、
十分な練習が行えていないこと、
クリケットとサッカー以外のスポーツの試合はテレビ放送もされないため選手たちを応援する人がいないこと…など、
選手の方々の苦悩ややるせなさを側で見てきていたので、
後半、お金がない、家族を支えてやれない、ということで葛藤されているグオルさんの苦悩も深く共感し、心に刺さりました。
いつかみんなが、全ての国の選手が
純粋にスポーツを楽しみ、競い、平和の祭典に参加できれる
そんな世の中になれば良いなと思います。
オリンピックに出場する選手は全て自国を背負い代表選手として出場していますが、
貧しい国や途上国の選手は、食事もままならず、生きていくことが難しい中で、練習をする設備もない、ウェアやシューズもない、優秀なコーチやトレーナーもいない、
スポーツを続けるかどうか、生活に常に悩まされながら、それでも自分がやらねばという強い気持ちで、そして世界に自国を発信したいという気持ちで国を背負い試合に臨んでいます。
もう一度言いますが、いつかみんなが、全ての国の選手が、
純粋にスポーツを楽しみ、競い、平和の祭典に参加できれる
そんな世の中にみんなでしていかなければと心から思います。
そんな中で走ることをやめないグオル選手の姿は人間の可能性の象徴のようであり、
なかなか先が見えない未曾有の状況の中、まさに生きる力をいただける、前に進む力をいただける、今の世界に必要な映画だと思いました。
このような素晴らしい映画を制作された監督の情熱や素晴らしいスタッフさんたち、そして日本人の私たちにも届けてくださたユナイテッドピープルさんに心から感謝をお伝えしたいです。
グオルさんは今回のオリンピックにはお怪我で出場されていませんが、元気にされているとのこと。
映画に描かれていた涙の他にも、描かれなかった沢山の悲しい涙があったと思います。
これから先も続くグオルさんの人生に沢山の幸せと笑顔と、嬉しい涙、感動の涙が訪れますようにと、願わずにいられません。
そして、南スーダンの国内外には、今も故郷を追われて不安の中で暮らす人々がいます。
バングラデシュのロヒンギャ難民の方々もそうですが、そして世界には今も約8000万人もの難民の方々がいると言われています。
同じ世界に、私たちが日々平和の祭典をテレビで眺めている今この最中も、紛争や迫害により衣食住がままならない人たちが生きています。
難民、という二文字の言葉では漠然とした想像しかできませんが
この映画を観たら、その人生がどれだけ壮絶で過酷なものか、痛いほど胸に刺さります。
何か自分にできることはないだろうかと、きっと誰もが思うのではないでしょうか。
自分が走り続けることで、そして映画を通じて、世界の人々に南スーダンやそうした難民問題に少しでもいいから関心を持ってほしい。
それがグオルさんの願いであり、人生をかけてグオルさんは私たちにその生き方で訴えてくれているのです。
戦火のランナーはまさに今日本で上映中で
都内では9月まで、地方でも沢山の上映が行われています。
オリンピックが開催され、グオルさんの意志を継ぐ二人の南スーダンの選手が来日している今
是非、ご覧になっていただきたい魂の一本です。