玉川上水遊歩道で見つけた猫ちゃん。すりすりと寄ってきてくれた。
 

読んだ本
原子・原子核・原子力 わたしが講義で伝えたかったこと
山本義隆
岩波書店
2015.03

 

1941年大阪生まれ。64年東京大学理学部卒。同大学大学院博士課程中退。(学)駿台予備学校勤務。科学史家。「磁力と重力の発見」でパピルス賞・毎日出版文化賞・大佛次郎賞受賞。主な著書に「古典力学の形成-ニュートンからラグランジュへ」等。

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元は河合予備学校での特別講演。手直しをして3倍の分量となったのが本書。

 

内容は思っているよりは難解。なぜなならば数式がけっこう出てくるから。

 

世の中には数式があるほうが納得できる人もいるが、残念ながら私は数式の前で足踏みをしてしまう。

 

それはおいておいて、逆に、こうした科学的厳密性を前提とした記述にあっても、一つだけ釈然としない点がある。

 

それは放射線が人体に及ぼす影響についてである。

 

たとえば、肥田舜太郎が説明する患者の症状「ぶらぶら病」をとりあげて、その説明をそのままあたかも放射線はすべて危険であるかのように語っている。

 

これだけ精緻に物理学的核エネルギーの原理について語っておきながら、どうして急に、放射線の影響については、あっけなく情緒的に「危険」と言い始めるのか。

 

こうした語りは「専門家」がしばしば陥る「罠」であるように思われる。

 

事故後の被曝限度の引き上げについても、ICRP勧告をちゃんと読めば、事故後のやや高めの放射線への対応としての措置として20ミリシーベルトに引き上げることは理不尽なものではなく、最初から想定されているものであることが分かるが、山本は「ひどい話」(227ページ)と、感情をあらわにしている。

 

しかも本書の最後の締めの引用は、あの安冨歩である。これでは説得力がないのではないのか…(もちろん安冨の「東大話法」批判はとてもおもしろかったが)。

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原子・原子核について基礎から学び、原子力について理解を深めるために、科学上の発見や研究の発展を歴史的にたどりながら、ていねいに解説する、物理学の入門書。福島原発の事故以来、後の世代にとてつもなく大きな負債をつくってしまった我々に何ができるか、問い続けてきた著者が、2013年に駿台予備学校千葉校で行なった記念講演(開校20周年、ボーア原子模型100周年)に基づくもので、やさしい語り口で記される。

 

目次      
第1章 原子論のはじまり

 化学原子論;歴史的な語りについて;力学のおさらい ほか
第2章 イオンと電子の発見

 重力をめぐって;電磁気学の初歩;電気分解の法則ほか

第3章 X線と放射線の発見

 レントゲンとX線の発見;ベクトルとキュリー夫妻;放射線をめぐって ほか

第4章 アインシュタインと光子仮説

 光電効果をめぐって;放射線のエネルギー;光子の波動性と粒子性 ほか

第5章 原子モデルをめぐって

 有核原子;原子の古典モデルとその問題点;ボーアの原子モデル ほか

第6章 原子核について

 放射性元素の崩壊;核物理学のはじまり;核力と核エネルギー ほか
第7章 原爆と原発

 原子爆弾について;原発の事故について;使用済み核燃料の問題 ほか

 

 

内容      

原発事故以来、後の世代にとてつもなく大きな負債をつくってしまった我々に何ができるか。それを問い続けてきた著者が、「福島の原発事故をめぐって」に続き、原子力への理
解を深めるために著した物理学の入門書。