「潤か、よく来たね。」

 

「旦那様、ご無沙汰しておりました。」

 

東山さんは翔さんのお父様の代からのおつきあいで、翔さんのことはとても目をかけて可愛がっていたそうだ。ゆくゆくは東山組と櫻井組と合併させて、自分の跡を翔さんに任せるつもりだった、と、翔さんは後で聞かされたらしい。

 

 

組を畳むことに決めた後、僕は翔さんに連れられてこの家を初めて訪れた。東山さんはじっと僕のことを見つめ、

 

「この子だね?」

 

と、翔さんに尋ねた。翔さんは厳しい顔をして「はい。」と返事をした。

 

それはきっと、僕が組を辞める事になった元凶だと言っているんだとわかって、もしかしてここで僕も翔さんも殺されてしまうか、そうでなくてもひどい折檻を受けるのではないかと恐れた。

僕はどうなってもいい、翔さんがお咎めを受けるくらいなら僕は、と、口を開こうとした時、

 

「わかったよ。翔がよく考えて決めたことなら間違いないだろう。」

 

と、東山さんが言った。驚いて顔を上げると、

 

「潤、と言ったね。なるほど美しい顔をしている。翔がこれほどの決心をするというのなら、きっとお前は姿だけでなく、心も美しいのだろう。」

 

そう言って、優しいお顔で僕に言って聞かせた。

 

「潤。これから2人で力を合わせていくんだよ。お前も一生懸命、翔を助けていきなさい。」

 

「......東山さん、お許しいただけるのですか。」

 

固い顔をしたまま、翔さんが言った。

 

「...まあ、これで良いのかもしれないよ。お前はこの世界で生きていくには正しすぎる。いつか自分の良心と板挟みで苦しむことになっただろうな。」

 

東山さんは優しげに微笑み、

 

「堅気になるならうちとは距離をおいたほうがいいのかもしれないが、何かあったら必ず助けるから、困ったことがあったらいつでも言いに来なさい。」

 

と言って下さった。

 

 

 

帰りの車の中で、翔さんは心底ほっとした顔をして、僕の手に指を絡めてキュッと握った。

 

 

「優しそうなお方ですね。」

 

「......そう、優しい人なんだ。東山さんは。あんな大きな組の頭だというのにいつも穏やかで。」

 

「でもその逆鱗に触れたら最後だよ。とても厳しい方でもあるから。」

 

僕の顔を見て、珍しく弱気な顔を見せた。

 

「...わかってもらえるとは思ってなかったから。酷い仕打ちを受けるかもしれないと思ったけれど、どうしても筋を通しに行かなければならなかったのでね。お前にも少し怖い思いをさせて悪かった。」

 

僕は首を振った。

翔さんがそんな決意をしてまで、僕のことをあの方にきちんと言ってくれていたことを知って嬉しかった。

本当にこれでもう、僕は翔さんの側にいてもいいんだと許されたように思えて、僕はその時少しだけ涙ぐんでしまったことを覚えている。