「茶熊斎」と俺は名乗った。
熊になりたかったし、
他の熊より偉そうにしたかったし。
偉そうな名前をつけたまではよかったが、そこまで。
ニトはニトのままだった。
まあそれもよし、俺は熊として妻である馬子と馬小屋で仲良く暮らしながら、
たまにガオガオと山に向かってほえていれば、それで満足だった。
ところが、年明けから馬子の体調がすぐれない日々が続いた。
俺はそのころから「ほぼ」がとれたニト茶ぐま斎になりつつあったが、
特に気にも留めずに、ほえていた。ガオガオ。
いや、正確には、ほえるために必要な心構えを体得するために、
「5つの精神」とは何かについて指折りながら考えていた。
1つめは・・・愛だな。
2つめは・・・情熱だな。
3つめは・・・決断だ。
4つめは・・・冷静だ。
5つめは・・・自信だろう。
いや、決断の前には冷静が必要だろう。
自信は最初に持ってきたほうがよいのではないか。
そもそも愛って何だろう?。
そんなことを考えて過ごすうちに、
馬子は、新しい馬小屋の賃貸契約を済ませてきた。
それはたしかに、馬小屋だったのだが、
俺こと、茶ぐま斎名義の賃貸契約は、
たしかに俺が契約したものだった(俺は熊だが日本語が書けるんだ!)
そう、それは馬小屋だ。
俺と馬子と子熊の住処。
4月上旬になって馬子がバイトの面接に行くと言い出した。
これまでを振り返ると、
俺には少々、馬子を思いやる気持ちに欠けているところがあったかもしれない。
が、子熊の存在が教えてくれた。
俺の、ニト茶ぐま斎としてのプライド、そんなものは、
豚に喰われてしまえばいいんだということを教えてくれた。
ありがとう、子熊。
子熊? お前は本当に子熊なのか。
馬子から生まれるのに、本当に子熊なのか?
たとえ、子熊じゃくて子馬になったとしても、
お前には、夜空に輝く星のような名前を与えよう。
シャケの缶詰が必要だ。
俺は腕に自信はあったが、
一度も川でシャケを捕ったことがない。
だから、去年まではシャケの缶詰工場で働きながら、
時給換算で10個のシャケ缶をもらっていました。
それを元手に川岸へ向かい、
モノホンのシャケを捕ろうと何度も試みた。
だが、そのたびに失敗して、持っていたシャケの缶詰をきれいさっぱり川に流した。
そんなときほど、俺は上手くほえることができるような気がしたけれど、
シャケもシャケ缶も手に入らなった。
それでは、聴いていただきましょう。
ほぼニト茶ぐま斎さんで「ワナビーブラウン」
♪ワナビーブラウン
「ニト茶ぐま斎の賃貸契約」の原稿です。
いかがでしたか?
ボイスストアららんにてサウンドコンテンツを発売中!