10/1(木)

ボストンバッグに必要なものを詰め込み部屋を出る。

エントランスのポストを見る。

高額医療費限度額認定証の申請をしていた。入院までに間に合えばと思ったが

まだ到着していない。仕方ない。あれよあれよという間に生検手術になってしまったから。

恋人からはタクシーで行ってと言われたがバスで行くことにする。

10時に病院に到着して入退院受付で受付を済ませて入院中は前開きの寝巻と言われたので

タオル等すべてレンタルにした。

隣室で身長体重を測り、薬剤師から説明を受ける。

看護士に案内されて入院病棟へ向かう。

ストラクチャーに乗せられて運ばれていく人や可動式の点滴ホルダーを移動させながら歩行訓練している人とすれ違う。看護士さんはせわしなく行きかう。

テレビドラマを見ているようだった。

私は二人部屋だ。大部屋はちょっと無理、個室は費用が高いしちょっと怖い....

私は窓際のベッドだった。12階なので見晴らしはいい。

隣のベッドの住人は留守だった。

12時から女医さんの説明があるという。そのあと交差試験とレントゲン撮影と口腔内の再確認ということだった。

女医さんの診察室を訪れる。

「これから各検査を受けてもらって、明日ね11時ごろから手術になると思います。」

「はい、わかりました。」

「それで、病状と手術に関する説明を別室、面談室があるのね、そちらに行き

お話しします。」

私達は診察室を出て面談室に入る。

ん、若い女性看護士がいっしょに入ってきた。

「彼女は同席します。」

あーそういうことねここで私がしっかり納得しているか第三者が確認するということね。

そういえば診察室でも看護士が女医さんと私のやり取りをPCに打ち込んでいた。

女医さんが淡々と説明を始める。

要約すると胸膜というのは鶏の胸肉を想像していただければわかりやすいが

肺全体を包んでいる膜でそこにこの悪性皮腫というのは無数に発生するという。

うわー気持ち悪~、何かの本で奇病だと言っていたのはこのことかー

鳥肌が立っていた。

外科治療は2つの方向性、この膜をはぎ取るか、肺を全摘出するかということだった。

前者は患部が残る可能性があり、後者は全て患部を取れるという。

だから、私の場合早期であること、年齢が若く全摘出手術という非常に患者に負担の高い手術も耐えられるだろうということだった。

ひととおり病状の説明が終わり沈黙があった。

「あのやはり全摘出というと元のような生活は厳しいですよね。」

「リハビリで戻すしかないわね。どういうダンスなのかわからないけど激しいのはちょっとね。」

こういう時はこちらを見ないで話すからピンと来てしまう。

これは不自由になっちゃうなと心の中でつぶやいた。

明日の手術の説明を話し始める。

「胸壁にもガンらしき突起物が見えるのね、胸膜と両方ね病理を削り取りだすのと、内視鏡で右胸郭内をくまなく見ることになります。右肺は器官を封鎖して一時止めます。

3時間くらいの手術になります。」

自分の体の中をいじられること想像するとドキドキした。

もう自分の意志ではどうにもならない真っ暗なトンネルを歩いて行くような気分だった。

検査をひととおり終えて病室に戻る。

窓から建設工事を見ながら、主治医の先生は話しないんだな-

手術はしてくれると聞いているけどなんだかなーと思った。

手術する患者の顔見ないでいいのかなーとかいろいろ考える。

ドラマの手術シーンが頭に浮かぶ。ぞくぞくする。

痛いわけでない苦しいわけではないし検査のための手術と説明されていたので

まだこの時は死ぬとか生きるとかの思いはなかった。