強者共、現る! | 風流道楽堂

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私、佐藤伸之の日々の徒然を気まぐれに綴ってゆきます!


これもまた、十年近く前の出来事である。

或る日、久しぶりに素振り用の木刀等を購入しに行った。
其のお店は、私が子供の頃にお世話になっていた武具屋さん。
最後に訪れたのは高校三年の頃で、既に二十年は経っていた。
店は昔と変わらず、年季の入った渋い佇まい。
中に入ると、それなりに老けたご主人が、昔と変わらぬ大声で
お客様と世間話をしていた。
静かに木刀を吟味し、コレと思った物に目星を付けると、
会話を続ける老人二人に気を使いつつ声をかけた。

私    「すみません、素振り用の木刀を頂きたいんですが?」

老人2  「ほれ、お客さんだぞ。」
老人1  「はいはい」

私    「素振り用の木刀なんですが、」
老人1  「あ、素振り用ね。今、あんたが持っているのはね、素振り用。」

と言って、他の木刀を探し始めるご主人。

私    「え、はい。だからこれ頂きたいんですが。」

老人1  「あんたの体格だったら、その白樫より奥の赤樫が良いと思うな。
      向こうの方が重いからね。」
老人2  「(ご主人を指し)こいつの目利きは確かだからね!」

私    「成る程。で、重さはどれくらいなんですか?」
老人1  「1.2キロ。」

私    「この白樫は?」
老人2  「まあ、1.2キロだね。」

私    「え、同じじゃぁ・・・」

老人1  「白も良いけどね。」
私    「白樫にします。」

老人1  「(友人に)な、俺の見立て通りで、間違い無し!」
老人2  「流石は店を構えて半世紀以上だね!やっぱり 違うわ!」
老人1  「当たり前だのクラッカー!」

~~二人、大爆笑~~

私    (奨めたのは赤樫の筈では?と思い乍ら笑ってみる)

~~此処からしばらく、お二人の昔話を聞かされる。
         ただ相槌を打つだけで精一杯の私~~

老人1  「じゃあ、これ6,500円ね。袋も奮発して買ってよ。 500円だから。」

私    「はい。じゃあ、奮発します。」

老人1  「よし、じゃあ6,500円と500円ね。」

私    「では、一万円札しかないんで。」

老人1  「はいよ。」

と言って、お釣りを取りに奥へ行く 。

老人2  「あいつはね、昔から優秀でね。俺たちライバル だったんだよ。」
老人1  「馬鹿、お前なんかライバルじゃねえ!」

と言って戻って来る。

老人1  「はい、お釣り。4,500円ね。悪いね、買い物させて」

私    「え?6,500円と500円ですよね?」

老人1  「うん、そう。だからお釣り、4,500円ぴったり!」
老人2  「さすが!八十二才になっても、釣り銭一つ間違わない もんな。」
老人1  「馬鹿、此処が違うわ!」

と言って、電卓片手に頭を指差し、まるで僕が居ない様に、 再び昔話を始める。

私    (木刀6,500円と袋500円だと、10,000円渡したから、
     お釣りは3,000円です。1,500円多いんです。 間違えていますよ。
     しかも、4,500円をぴったり とは言わないのでは?)

と言える雰囲気等すでに無く、私は挨拶をして店を出た。
後ろからは大きく聞こえる御陽気な会話。

貰い過ぎのお釣りを返さず出て来た私は悪人?
二人に釣り銭の間違いを伝えるべきだったのか?
と言うか、二十年振りとはいえ常連であった私の事を完全に忘れていた。
深く思い悩むとともに、余りの御陽気なお二人に 苦笑いしつつ、
私は深々とお辞儀をして立ち去った。

何故かこう・・・癒された一日だった。