記憶は風化します。

通常は。

嫌なことも、時がたてば次第に薄れていきます。

 

ところがトラウマと呼ばれる記憶は、妙な動きをします。

 

一つは解離と呼ばれる現象です。なかったことになるのです。記憶はカプセルのようなものに閉じ込められ、奥底にしまわれます。しかし、しまわれた記憶は本当になかったことになるわけではなく、予期せぬ悪さをします。記憶をもつ当人は、なぜ、自分がそんな行動をするのか分からずにいます。

 

もう一つはフラッシュバックと呼ばれる現象です。記憶は、通常は頭の中にある棚に整理されてしまわれており、必要な時に取り出されてきます。しかしフラッシュバックは違います。主が必要としないときに、勝手に飛び出してくるのです。コントロール不能です。これではたまったものではありません。

 

解離にしてもフラッシュバックにしても、とても苦しくつらいものです。

 

こういう記憶をもつのは、大きな被害を受けた人たちです。災害、虐待、いじめ、パワハラ、DVなどです。あまりに苦しいので、被害を受けた人は加害者に苦しみを訴えて、なんとかしてもらおうとします。

 

そうすると、加害者からよく出てくる言葉が

「そんな昔のこと」

 

「いつまでそんなこと、言っているんだ」というわけです。

 

でも被害者にとっては、それは昔のことではないのです。今も、毎日のように今、起きているかのようによみがえってくる記憶なのです。

 

「そんな昔のこと」と言う人にとっては、記憶は風化し過去になっています。

しかし被害者にとっては、記憶は過去にならず、日々、嵐のように予測不能に襲ってくるのものなのです。

 

そしてこのギャップが、また被害者を苦しめます。