「よかった!優衣ちゃん、写ってる!」

尚子の顔が無邪気にほころんだ、そして涙ぐんだ。

「他のは全部ピンボケだったぞ?」

「そう、どうしたらいいの?」

「また行くのか?」

「そうよ!当たり前じない!」

「まぁ、いいや、優衣ちゃんの制服は、テレビに出てる時と同じだな?」

「うん、彼女が通ってる学校の制服なんだって!」

「第二部は私服って事か?可愛いじゃないか」

「うん、あたしも初めて観たわ、私服…」

「何を歌ってくれたんだ?」

「あのねぇ、えーと…」

尚子はカウンターの下から愛用の黒革の手帳を出した。

「優衣ちゃんのファンクラブね?」

「うん」

「ピンクの服を着てる人が写ってるでしょ?」

「前の方に座ってる人?」

「そう、他にもいたんだけど…あれ、教わってメモったのに…」

「手帳を忘れたから、レシートの裏に書き込んだ…」

「あ!そうそう!物覚えいいわね?」

「なんでお前の事まで覚えてるんだかね」

「あった、あった、これこれ…えーと…」

 

 

第1部

さよならのオーシャン(堀優衣ヴァージョン)

NAO

九月の雨

瑠璃色の地球

This love

母ゆずり(堀優衣オリジナル曲)

 

 

第2部

思秋期

明日への扉

津軽のふるさと

さよならのオーシャン(堀優衣ヴァージョン)

母ゆずり(堀優衣オリジナル曲)

 

 

尚子のレシートの裏に、几帳面な活字のような文字が書かれていた。

 

「これ全部お前が聴き取ったのか?」

「ううん、ファンクラブ…YHFC、って言うんだけど…」

「なんだ、カッコいいじゃないか」

「うん、ファンクラブの優しい女性の方が教えて下さったの」

「ふーん、親切だな」

「親切な人が多いみたい、あたし一応客商売でしょ?」

「まぁな…よく続いてるな」

「だから、顔とか話し方で、大体分かるのよ」

「55を過ぎれば、誰でも分かるようになるだろ、フツーに生きてればな」

「そうよね?」

「その女性、優衣ちゃんのブログをなさってるって言ってたわ…」

「名前は?」

「知らないわよ!名乗らないわよ、フツー…あ!Kさんて言ってたわ!Kさん、間違いないわ!」

俺はPCで検索した。

さすがに北戸田のブログはなかったが、過去の記録が出て来る、出て来る…

「優秀な方らしいな?」

「うん」

「キミもやってみたらいかがかな?」

「へ?」

「ブログ…」

「無理無理無理無理…」

「オバサンは無理は二回までにしておけ…」

「あーなんだか、歌いたくなっちゃったわ!」

「カラオケ?」

「うん」

「行くか、シダックス!」

「うん」

「おい、涼も叩き起こせ!自宅警備してる場合じゃねぇ!」

「待ってて!」

少女のような小走りで、尚子は居室に駆け込んだ。

久しぶりのカラオケ。

尚子のおごりで歌うかな。

マイクは離さないぞ!

もちろん、明け方まで、尚子のおごりでな。

牛島プロデューサー風の笑みを浮かべ、俺はラップトップを閉じた。