おびクリニュース2024年3月号を転載いたします。
Q. 高齢になったので癌になったら人生を終えるつもりです。癌検診も終了していいでしょうか?
A.基本的に検診はご本人の意思で行うものですから、やめたいと思えば終了でよいかと思います。
では、いつやめるのがよいでしょうか。
実は結構、難しい判断を迫られます。
「いずれお迎えが来る身であれば、何もしなくても良いのでは?」と私も若手医師の頃は考えていたのですが、最近、違う考え方になりました。
なぜかといいますと、最近80代、90代の患者さんの進行癌を診断することが増えており、対応に悩むことが多いからです。
もし、治療を何もしなければ、癌は徐々に進行し、ある時点から食欲不振、嘔吐、疼痛、呼吸困難、栄養不良、精神不安、不眠といった衰弱が始まり、床に臥せる日々となります。
命尽きるその日まで、数週間から数か月間、普通の食事はとれず、毎日の排泄にも苦労しますので24時間介護が必要です。
最近は高齢夫婦の二人暮らしや、ご家族が遠方にお住いのため介護できないケースが増えています。
訪問診療や訪問看護を利用したり、緩和ケア病棟やホスピスに入るという選択枝もありますが、いつでも自由に出入りできるわけでもないため、ご家族の物心両面の負担は相当なものがあります
(※費用対効果も考慮せず無駄にデジタル設備に税金を投入し いまこの瞬間に困窮している国民に対する医療福祉サービスを削り続けた自公政権の下では、末期がんで介護が必要になったとき、ご自分も苦しいですが、家族にも多大な苦労をかけてしまう、それが日本の現状です)。
それだけでなく どのような治療をいつ選択すべきかということにも悩まされます。
家族間で意見が一致せず揉めることも稀ではなく、それがもとで亀裂が入り、遺産相続で争いになることもよく耳にします。
穏やかな闘病のあとの安らかな死を家族全員で暖かく見守るという、映画のワンシーンのような最後を迎えることを希望しても、事はそう簡単にいかないという現実を見てきました。
そこで私が辿り着いた答えは
「認知機能が保たれていて、身体機能が自立した高齢者なら検診を受けたほうがよい」
です。
目的は延命ではなく、末期がんの介護で家族に負担をかけないためです。
胃がん、大腸がん、肺がん、乳がん、子宮頸がん、前立腺がんは検診を定期的に受けて、早期発見早期治療すれば、癌を根治できる可能性が十分にあります。
末期がんの苦しみもなく、家族間で諍いが起こることもありません。
何か月も訪問診療、訪問看護を受けたり、入退院を繰り返すより、1回の入院手術で治療が完了すれば精神的にも経済的にも負担は軽く済みます。
令和の時代には介護で家族に負担をかけないために癌検診を受ける、という新しい視点
が生まれているわけです。
ぜひ、自立した高齢者の方は検診を継続なさってください。
もし、発見が遅れ進行癌で見つかってしまった場合、ひとつアドバイスがあります。
それは、治療をご自分が信頼できる主治医に全権委任する事です。
家族には「自分の意志で先生に全部任せたから、その方針に従って欲しい」と宣言します。
目的は自分の死後、家族を揉めさせないためです。
癌の末期ではショッキングな容体急変が起きます。
もし、その都度、家族会議を開いて方針を決めていたらどうなるでしょうか。
治療が遅れるだけでなく、もし悪い結果になったとき、家族は自分たちの選択を後悔して苦しみます。
もし、全権委任していれば、「故人の決めたことだから」と納得できますし、最悪、主治医を責めることで、やり場のない悲しみも少しは救われるでしょう。
医師が恨まれる立場に立つことで、ご遺族の心のケアになる面もあり、それも医師の役割の一つです。
そして、いつの日か「生・老・病・死」は避けられない、人間の「四苦」であり、誰の責任でもないと悟って頂ける日が来ると信じています。
まとめますと、検診を受けて末期がんを回避すれば、悩み、苦しみ、後悔、恨むことを避けられます。
検診を止めない事が、幸せな大往生に繋がるのかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。