2013 Cell

Leading Edge

Review

Influence of Metabolism on Epigenetics and Disease

Kaelin, W. G., Jr. and S. L. McKnight 

 

ヒストンのメチル化、アセチル化やDNAのメチル化のような化学修飾はエピゲノムによる遺伝子制御の中心的役割をもつ。代謝に関わる酵素であるSDHやFH、IDHの変異によるがんはどのように発生するのか、さらに代謝や栄養状態の変化がどのように疾患に関わっていくのかということを踏まえ、このレビューでは真核細胞における代謝とエピゲノムのつながりについて述べている。

 

1.ヒストンのアセチル化

ヒストンのアセチル化は遺伝子活性化と関連する。アセチルCoAはHAT(ヒストンアセチル化酵素)の基質としてヒストンテールへのアセチル基供与に使われる。

 

2.アセチルCoAの産生について

 

3.アセチルCoAの変動

マウスES細胞が分化する際にはアセチルCoAの大きな変動が起こる。未分化の状態ではアセチルCoAのレベルは高く保たれているが、LIFとレチノイン酸によってEB(エンブリオイドボディ)に分化させるとそのレベルは急激に低下する。また、アセチルCoAはTDH(スレオニン脱水素酵素)とも相関して変動することが知られている。TDHもまた、ES細胞の分化が誘導されると即座に抑制される。

 

4.アセチルCoAによる遺伝子発現の調節

ヒストンのアセチル化のうち、H3K9、K14、K23、K27残基と、H4K5、K8、K12残基のアセチル化は30~45分程度の短時間に示される。細胞内のアセチルCoAによる制御はダイナミックでわずか3分程度で変化するものもある。

 

5.アセチルCoAとヒストンアセチル化酵素

SAGA複合体のGCN5ヒストンアセチル化酵素は、Ox / RB境界での成長遺伝子の一過性のアセチル化に関与する重要な酵素として識別されている。 GCN5は高レベルのアセチルCoAを必要とし、酵素はYMCの他のフェーズでは、アセチル-CoAレベルがピークとなるOx / RBウィンドウと比較して活性が低くなる。 酵母GCN5酵素へのアセチルCoA結合のオフレートは、ヒトp300 / CBP HAT酵素、ヒトGCN5、またはテトラヒメナGCN5のオフレートよりも1桁以上速い (Langer et al., 2002).

 

6.がんとの関連

 

7.NAD+と脱アセチル化

 

8.NAD+とサーチュイン脱アセチル化酵素

脱アセチル酵素のサーチュインファミリーのメンバーには、主に哺乳動物細胞の核にある2つのアイソフォーム(SIRT6およびSIRT7)、ミトコンドリアに局在する3つのアイソフォーム(SIRT3、SIRT4、SIRT5)、および細胞質と核の両方のコンパートメントにある2つ(SIRT1とSIRT2)がある。

 

9.NAD+はヒストン脱アセチル酵素を妨げる

・ケトン体の一つであるβ-ハイドロキシブチル酸は運動継続時や飢餓における代謝産物であるだけでなく、NAD+非依存的にヒストン脱アセチル酵素を抑制し、エピゲノムの状態を安定的に保っていると考えられる。

・H3K9acやH3K14acの上昇によりFOXO3Aに制御される遺伝子が誘導され酸化ストレスに対する抵抗性が高まる。

 

10.DNAメチル化とヒストン:SAMとメチル化による活性化サイクル

SAM : S-アデノシルメチオニン

 

11.SAMとヒストン・DNAメチル化

 

12.スレオニン脱水素酵素とSAM

マウスES細胞ではTDHのレベルが高い。TDHはスレオニンからグリシンとアセチルCoAへの反応を触媒しており、グリシン依存的メチル化によってヌクレオチドが産生される。またTDHによってSAMの濃度が高く保たれている。ESでTDHを抑制すると細胞内のアセチルCoAが急速に低下してスレオニンとAICAR(5-アミノイミダゾール-4-カルボキシアミドオリボヌクレオチド)は上昇し、N5-MTHFは低下する。また、ES細胞においてスレオニンが欠乏すると細胞内のSAMが低下する。スレオニン摂取を制限するとH3K4me2/3が急速に低下するがH3K4me1やH3K9me3/H3K27me3/H3K36me3/H3K79me3はスレオニン欠乏による影響を受けない。ちなみにヒトES細胞にはTDHはない。

 

13.FADとヒストン脱メチル化

H3K4メチル化酵素であるLSD1(KDM1A, AOF2)はミトコンドリア内に存在するFAD依存的酵素である。

 

14.2-オキソグルタル酸依存ジオキシゲナーゼJmjCとTET脱メチル化酵素

 

15.鉄と酸素

JMJD1A(H3K9), JMJD2B(H3K9) JARIDC(H3K4)などいくつものJmjC ヒストン脱メチル化酵素はHIFにより誘導される。また、低酸素下ではH3K4やH3K9のメチル化が促進される。HIFの合成はPI3K-AKT-mTOR経路に影響を受ける。

 

16.2-オキソグルタル酸

 

17.SDH/FH/IDH変異とがん

SDH(ミトコンドリアサクシニル酸脱水素酵素)複合体のサブユニットとFH(フマル酸水酸化酵素)の不活性変異はいくつかの腫瘍で見つかっている。SDH変異やFH変異のある腫瘍ではHIF1α転写因子の蓄積がみられる。HIF1αはこれらの腫瘍形成を促進していると考えられている。

2-オキソグルタル酸依存的酵素であるUTX(またはKDM6A;H3K27脱メチル化酵素)やJARID1C(またはKDM5C;H3K4脱メチル化酵素)、TET2などはがんでは変異による不活性化がみられるがサクシニル酸やフマル酸、R-2HGを阻害することにより改善が見込まれる。

 

18.栄養とエピゲノム、そして疾患