小説 東京テルマエ学園

 

原作:只野温泉 

ストーリー:東京テルマエ学園 共同製作委員会

 

第一章 第1話 『アキと七瀬』

 

2018年3月15日

 

「温水アキ」

 名前が呼ばれた。

 

「はい!」

 アキの返事は一瞬遅れた。

 

 アキはぎくしゃくと椅子から立ち上がった。109人の卒業生一人一人の名が呼ばれ、最後に卒業生代表が全員の卒業証書を受け取った。

 卒業証書と赤いカーネーションを持って、アキは在校生の拍手の中を泣きじゃくりながら校門を出た。そこで肩を叩かれた。

 

「こら、一人で帰る気か?」

「あ……」

 

 クラスメイトの星野七瀬も目を真っ赤に泣きはらしていた。二人はなかば呆然と、口数も少なく信州中野の駅まで歩き電車に乗った。

 

「これから……何するんだっけ?」

 力が抜けたような声でアキが言った。

 

「あとは……来週になったらもう一回学校に来て、調査書出してもらって……願書の提出」

「あ……写真」

「なに?」

「願書に貼るの。撮らないと……」

 アキに言われて七瀬は少し考えた。

 

「えーと確か、湯田中駅近くにあったと思うよ?」

「プリクラじゃだめかな?」

 アキが言うと七瀬が嫌な顔をした。

「たぶん、怒られると思うよー」

 

 アキは家に戻ると制服のまま机に向かい、大きな封筒を取り出した。それを手にしてから毎日毎日何度も出しては見入ることを繰り返しているので、封筒の端はもう擦り切れている。

そして今度こそ、本当にこれを郵便局の窓口に持っていくのだ。アキの胸はいつものように不安と期待で苦しくなる。

 

 アキは返送用の簡易書留封筒を取り出して、ボールペンを握りしめた。印刷された宛名の下についている『行』には、すでに念入りに斜線が引かれている。あとはこの下に『御中』と書けばいいのだが、なかなかそれができない。

 

むろんこれまでの人生において入学願書なんていうもの、生まれてこのかた出したことなどない。

 

アキは目を閉じて大きく深呼吸した。2学期の期末から3学期の期末テストまで、わずかの間にアキは成績を上げた。下から数えた方が早かったのが、真ん中あたりまで上げたのだ。それで奇妙な専門学校へ進むことに、しぶしぶながらも祖母は同意してくれた。

 

「気合い、入れろ……あたし」

 息を吸い込んで止め、アキは思い切ってボールペンを持ち直した。

「やった……」

 数十キロのバーベルでも持ち上げたかのように息を切らせ、アキは畳に仰向けに寝転んだ。やや斜めになっているが、宛先には『東京テルマエ学園入学課 御中』と書き込まれていた。

 

「行くんだ……東京……」

 

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つづく

 

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