来るべき時代の人間には、全生涯に亙って、若いときのことをますます思い出すことが、必要になってくるでしょう。喜んで思い出したくなるような、幸せな気持ちにしてくれる思い出が、ますます必要になるでしょう。教育は、このことを組織的に行わなければなりません。


これからの教育にとって、何が害毒なのでしょうか。あとになって、学校時代にどんなひどい仕打ちを受けたかを思い出さなければならないとしたら、まさにそのことが教育にとっての害毒なのです。


学校時代のことをあまり思い出したくないとしたら、学校時代、教育時代がひとつの源泉、いつも新たに学び、そして学んでいけるようになるための源泉ではないとしたら、そのことこそがこれからの、未来の教育にとっての害毒なのです。


とはいえ、もしも子どものときに教材から学べるすべてを学んでしまったとしたら、おとなになったとき、一体何を学んだらいいのでしょうか。


このことをよく考えて下されば、未来の生き方において、もっとも重要な根本命題が、こんにち正しいと思われていることに較べて、どんなに変わっていかざるをえないか、分かる筈です。


今私たちにとって大切なのは、現在の戦時下の悲しい諸経験が私たちを眠りから目覚めさせ、現在のこの悲しい諸経験を有意義なものにするために、「多くのことが変わらなければならない」、という思いを心に刻み込むことなのです。今までの私たちは、あまりに自己満足にふけっていたので、この思いを十分なだけ深く、そして十分なだけ真剣に受けとめることができずに来てしまったのです。


ルドルフ シュタイナー『悪について』Ⅳミカエルと龍の戦い