- 命のビザを繋いだ男―小辻節三とユダヤ難民/NHK出版
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もう七光り俳優とは呼ばせない。山田純大の血と汗で仕上がった本書はすべての日本人が読むべき書である。
力作とはこういう本のことなんだ。
著者の山田純大氏はジャーナリストでも小説家でも学者でもない。著者はあの杉良太郎の子息であり、俳優である。
第二次大戦中、リトアニアの副領事であった杉原千畝が6千人のユダヤ人に対して日本行きのビザを発給して命を救った話は「命のビザ」として有名である。
杉原千畝の話に感動した山田はある疑問がを持った。本国政府の意に反して杉原はビザを発給しまくった。この6千人ものユダヤ人たちはどのようにして日本に受け入れられたのだろうか?
日本政府はなぜユダヤ人たちをヨーロッパに追い返さなかったのだろうか?
山田は、この疑問を解決すべくいろんな文献にあたった。そしてある日本人が英文で書いた自伝をアメリカで発見した。その人物とは小辻節三という一民間学者である。ユダヤ難民の日本滞在期間の延長など小辻の尽力により6千人のユダヤ人たちは無事に日本経由でアメリカやカナダに逃げることができたのだ。
山田は小辻の功績が日本人に知られていないことを残念に思った。そこで英書を自ら翻訳し、出版社へ持ちこんだ。
出版社は山田に対して単なる翻訳本を出版するのではなく、山田自身がどういう経緯でこの本に出会って、どんな思いで翻訳本を出版しようとしたのかを小説風に書いてみてはどうかとアドバイスしたのであった。
そこで山田がさらなる資料を調べ、関係者への取材を経て出来上がったのが本書である。
私はこの本で松岡洋右に対する印象が大きくかわった。
A級戦犯容疑者となる松岡は好戦的な外交官であり、我が国を米国との戦争に引きずり込んだ張本人のひとりであると思っていた。
満州で2年間松岡満鉄総裁の秘書をしていた小辻によると、アメリカとだけは戦争してはならない、日本は絶対に勝てないというのが松岡の口癖であった。
日独伊三国同盟もアメリカとの戦争を回避するという思惑があって締結したのであった。
実は6千人のユダヤ人たちを助けるのに松岡は小辻に協力しているのだ。なんせ当時松岡は外務大臣であった。松岡がいなければユダヤ人たちはどうなっていたかわからない。
松岡以外にも注目すべき人物がいる。ハルビン学院で杉原千畝の二期後輩であったウラジオストック総領事代理の根井三郎だ。
杉原が発給したビザを持ったユダヤ人たちがシベリア鉄道に乗って続々とウラジオストックにやってきた。ウラジオストックから船で福井県敦賀湾へ渡るためだ。
ここでまた本省は根井に対してユダヤ人に渡航許可を与えないよう命令してきた。
しかし杉原の後輩の根井は本省と何度も交渉し、しまいにはビザを持たないユダヤ人にまで渡航許可を与えたのだ。
こうして6千人のユダヤ人たちはウラジオストックから敦賀、そして神戸の町へとやってきた。
しかしユダヤ難民たちは滞在期間3~10日のビザしか持ってない。この期間を過ぎれば彼らは強制送還され、ナチスに虐殺されてしまうだろう。
アメリカやカナダへ渡航するにしても準備が整わない。
ビザの延長しかユダヤ人が助かる手立てはない。
ここから小辻の八面六臂の活躍が始まる。