My Favorite Songs(1)うれしいあの娘 | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

昨年8月以来の更新である。今年はフォークソングに関する諸連載を再開させることを固く心に誓いつつ、コロナ禍で営業休止もしくは閉店となったすべてのロックバーとライブハウスに愛を込めて、お気に入りの曲のリクエストを捧げる。


You Didn't Have to Be So Nice/The Lovin' Spoonful(1965)

ジョン・セバスチャンの人懐こい笑顔をそのまま音符に置き換えたら、かくもハートウォーミングなポップミュージックになるのだろうかと思わせてしまう多幸感溢れるナンバー。イントロの弾むような三連のドラムに続けて、シンプルながらも春の街をスキップするかの如く躍動感あるギターのフレーズが心をときめかせる。そして何よりジョンのいつもよりすまして他所行き風でありながら、どこかシャツがはみ出している感じの微笑ましくもフレンドリーな歌声とジョー・バトラーの洗練されたニューヨークスタイルのコーラスが織りなすハッピーなサウンドは、幼き頃の意味も分からず幸せな気持ちが零れ落ちてきた初恋のフィーリングを思い出させる。季節はもう春――。

Captain Saint Lucifer/Laura Nyro(1969)

ローラ・ニーロの音楽は、静と動、陰と陽、正気と狂気のバランスが時に崩れそうになりつつも、ジャズ、ドゥーアップ、ブリル・ビルディング・サウンドといった幼少期から思春期にかけて寄り添い続けた音楽たちが、血となり肉となり、盤石な土台となって、ばらばらに引き裂かれそうな旋律を統合し、豊かでコクのある楽曲に昇華させているように思う。この聖なるルシファー船長に捧げる歌は、そんな彼女の音楽の特徴を散りばめたショーケースのような楽曲で、エキセントリックで不安定な揺らぎを見せる前半部から一気に華が咲いたように明るくなるリフレインへと移行する際のカタルシスは何物にも代えがたく、同時に夜と血に魅せられた残酷な少女の視線にたじろいでしまう。

Mellow My Mind/Neil Young(1975)

拝啓、ニール・ヤング様。あなたの歌声を聴いていると、日曜日の夕方に一人取り残されたような切ない気持ちでいっぱいになり、条件反射的に、飲めないバーボンをストレートで呷りたくなるから困ったものです。今だから正直に告白すると、あなたの歌を初めて聴いた16歳の時、暗い井戸の底で溺れかけているようなうら悲しいヴォーカルに馴染むことができず、CSN&Yのアルバム「デジャブ」は、あなたの「ヘルプレス」と「カントリー・ガール」が、デヴィッド・クロスビーの陰鬱で黒魔術的なナンバーよりもっと苦手だったのです。それがどうしたことか、幾度となく聴いているうちに、あなたの歌声がぼくの中にすぅっと入り込んできて、心が擦り切れた時、疲れ切って立ち上がれない気分の時、「なぁ、わけを話してごらんよ」とか「待ってても、誰も手を差し伸べてはくれないよ」などと、くぐもった声でぼそぼそと話しかけてくるようになったのです。以来40年、あなたの歌はいつもぼくのそばにあり続け、ふと後ろを振り返ると、人生の様々なシーンであなたのメロディーが聴こえてくるのです。「Mellow My Mind」におけるあなたの歌声は一際悲しく、その無防備なむせび泣きは、一方で号泣後の解放感にも似た清々しさすら感じさせるから不思議です。結局、ぼくは、死ぬまであなたの歌を聴き続けるのでしょう。