喪失感の向こう側に | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

どうしてこんなに悲しいのだろう。先週届いたばかりのヴァシュティ・バニアンの新譜「ハートリープ」を聴く度、ぼくの胸はしめつけられ、津波のように押し寄せる制御不能な感情の波に浚われ、体ごと崩れ落ちてしまいそうな気分になる。それは、掛け替えのない誰かがもう此処にはいないような、深い静寂の海の底で味わう完璧な孤独のような――。

ヴァシュティの歌声は、湖に張った薄氷に咲く白い花に似て儚く、美しい。そして、その消え入りそうなウィスパーヴォイスにそっと寄り添うように、アコースティックギターとピアノが素朴で優しい旋律を奏でる。フレーズは静かに反復し、それは、もはやフォークというより、ミニマルやアンビエントと形容した方が相応しい。

ここには、限りなく無垢な音楽がある。透明で、静謐で、まるで、世界の終りに空から降ってくる讃美歌のようだ。そして、ヴァシュティには、それを歌う資格がある。沈みゆくタイタニック号の上で「主よ 御許に近づかん」を演奏し続けたヴァイオリニストのように。喪失感の向こう側に音楽があるとしたら、このようなものかもしれない。

Heartleap / Vashti Bunyan
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