Help Yourself/same | AFTER THE GOLD RUSH

AFTER THE GOLD RUSH

とおくまでゆくんだ ぼくらの好きな音楽よ――

Help Yourself 松平維秋氏は、ヘルプ・ユアセルフを「子供じみたグループ」と酷評し、一時メンバーとして参加したアーニー・グレアムに対しても、「こんなグループを率いたりしないし、本当は参加してさえいけない人」と苦言を呈している。もし、ぼくが70年代初頭の東京にタイムスリップすることができるなら、渋谷百軒店のブラックホークに飛び込んで、レコードを回している松平氏をとっつかまえこう言うだろう。「ヘルプ・ユアセルフは、子供じみているところがいいんじゃないですか」ってね。


ヘルプ・ユアセルフが、妙に大人びて、さらに、スプーンひと匙分くらいの知恵をつけてしまったなら、多分彼らは、ブリンズリー・シュウォーツの出来の悪いクローンみたいになって、まるで骨粗鬆症の老人のようなスカスカした音を出すつまらないバンドになっていただろう。子供じみていたって、いいいじゃないか。リーダーのマルコム・モーリーだって、英国人である自分達が、バッファローにも、CSN&Yにも、そしてクレイジー・ホースにさえなれないことは分かっていたはずだし、それでも、彼らのサウンドを真似ずにはいられなかったのだろうから。そしてその微笑ましいばかりの“初期衝動”が、一方で絶妙なスパイスとなって、ヘルプ・ユアセルフというバンドの魅力を高めている、といったら褒め過ぎだろうか。

 

そう考えざるをえないのである。例えば、モーリー作の「Your Eyes Are Looking Down」。バッファロー、もしくはニールの1stのアウトテイクだと言われたら、危うく信じてしまいそうなくらい、曲調も演奏もそして歌い方まで、ニール・ヤングそのものではないか。また、同じくモーリー作「Old man」の長尺なインプロビゼイションを聴いて、ニール・ヤング&クレイジー・ホースのそれを思い浮かべない人はいないだろう。このモーリーの重度の“ニール・ヤング病”は奇妙な伝染性があるようで、彼らの2nd「Strange Affair」(1972年)では、あのアーニー・グレアムまで、「Down By The River」を露骨に下敷きにした曲(「Movie Star」)を書き、それを嬉々として歌っているのだ。

 

そんな模倣や剽窃と紙一重の表現方法が免罪され、さらには不思議な魅力さえ醸し出しているのは、モーリーのアメリカン・ロックへのピュアな愛情、つまり、“一片の私心なき清明さ”故だろうか。だから、「子供じみて」いることは、必ずしも悪いことではない、いや、むしろ、音楽がピュアであるためには不可欠なものではないかという気さえしてしまうのだ。

 

Help Yourself/same(1971年)
1. I Must See Jesus For Myself
2. To Katherine They Fall
3. Your Eyes Are Looking Down
4. Old Man
5. Look At The View
6. Paper Leaves
7. Running Down Deep
8. Deborah
9. Street Songs