一旦終わりましたが、再開というか、書き残したことを思いついたので不定期に続けます。

神坂夫人の美奈子さん、自分は果たして夫の一郎に愛されているのだろうかと、ずっと考えていました。
何せ、彼はサヴァン症候群の一種で、人間的な感情がないとまでは言わないものの、希薄なのです。
いや、感情表現が無いと言った方が当たっているのかもしれません。 
しかし彼は、普通の男と違って、女性と遊びたいとか、他の女性とセックスしたいとかいう欲望もないのです。
何故私と結婚したかについても、単純明快と言うか、結婚する運命の相手だとわかったから、の一言で片づけたのです。
彼が誠実だから信用できるものの、普通の男から同じ言葉を聞けたら、そんな遊び人は即バイバイというところです。
そして彼、本当にその言葉通り、初対面から私を結婚相手と認識していましたし、付き合い始めたのは半年後にはなりましたが、その1年後には本当に結婚していましたから、確かに誠実なのです。
そして彼は、女性と遊ぶだけでなく、一体何が楽しゅうて生きているのだろうと思うほど、一般的な快楽には興味がないのです。
酒もタバコも賭け事もしません。
ただ、私自身、男性と遊びたいとは全く思わなかった人間でしたし、彼が女性と遊びたいと全く思わないことも、私の理想の男性の条件の一つでしたから、悪いことではありませんでした。
実際彼は、他の女性と遊ぶことには全くお金を使わず、私に宝石や高価な服飾品をプレゼントしてくれたのです。
私が結婚相手に要求していた条件であった、自分より頭がいい、酒癖が悪くない、堅実、を全て満たしたうえで、私を尊重してくれるのですから、普通の意味の不満はないのです。
では、何が不満かと言うと、不満というよりも不安なのです。
彼の心が全くわからないことが。
彼は、自分が感情が理解できないのは、サヴァン症候群の特徴であり、その分以上に理解力、情報分析力に頭脳を使っていると釈明します。
確かにそのとおりなのです。
彼の言うとおり、彼の理解と情報分析、それによる決断は、超人的としか言いようがありません。
本人の弁によると、それらの能力によって、未来の映像を幻視できるというのです。
つまり、未来を見て来るから、間違ったことはしないのです。
それも、そのとおりなのです。
私と結婚したことだって、未来の映像、しかも結婚10年後ぐらいの映像を幻視できたから、私しかいないと自信を持って決断したと言います。
世間一般の常識では、京大卒のエリートの彼が、田舎の高卒の私を躊躇なく妻に選ぶことはありえないのです。
その理由まで問い詰めると、何と彼、脳内で無限に近いシミュレーションを行った結果、300坪の土地に40坪の家を建て、メルセデスベンツに乗っている現状が最も幸せだったからと答えました。
確かに現状に不満はありません。
しかし、ここに至るまでは、数々の危機がありましたし、特に義母の非常識な言動は、私にとっては、真剣に離婚の危機だったのです。
その時も彼は、「今は嫌な思いをするが、その状態を最短に乗り切るには、このまま母を受け入れる方がよい。」と答えました。
この点でも感覚が違うのです。
私は、嫌な思いをするのは避けたいと思います。
しかし彼は、その先まで見通して、最善の策を選択するのです。
結果論としては、常に彼の選択は正しかったとしか言いようがありません。
でも、そこには私や家族が嫌な思いをすることは全く考慮しないのです。
彼自身の嫌な思いについては、彼は全く無視しました。
彼は、正しいのです。正しすぎるのです。時々付いて行けないと思うほど。
彼の言うとおりにした結果、義母の介護は3年で済みましたし、加速度的に悪化した認知症で、直ぐに特別養護老人ホームにも入所できましたから、金銭的な負担も軽く済んだのです。
彼を含む家族の介護負担は、最小、最短で済んだと言われれば、そのとおりなのです。
私としては、家族に協力を呼びかけず、冷徹な決断をしたことがひっかかるだけなのです。
同様に、私を愛しているかの問題もあります。
彼は、大変正直にこう答えました。
「愛とは何だ。恋とは何だ。愛していると言っても、恋していると言っても、その相手をよくすることができなかったら、その相手との生活を円滑に行うことができなかったら、何の意味もないだろう。」
何だか見て来たように答えたなあと思って確かめると、両親を見て学んだと答えました。
つまり、彼の両親は、それなりに恋をして結婚し、お互いを愛しているとも言ったが、実際は、お互いに傷つけ合い、義父は嘘をつきまくり、義母はまともな家事ができず、息子である夫に対する虐待を続け、一度は彼を転生一歩手前の中間世にまで送ったのです。
ですから、彼にとっては、愛や恋なんてものは、むしろ薄っぺらい誤解に過ぎないのです。
そんな議論よりも、彼は私に対してやるべきことをやり、子供3人も大学卒業まで育て上げ、家族に裕福な生活を提供しました。
それが、彼の示す愛なのです。
問題があったとすると、家族に対する、思いやり、優しさの表現、特にスキンシップが不足していただけなのです。
それでも、他人が羨むぐらいの生活を提供したのですから、不満に思う方が贅沢なのです。
心情的にひっかかるだけなのです。
よくよく考えると、彼が一番貧乏くじを引いているのですが、彼はそれすら理解しません。
幸福と思える現実を提供できること、それが彼の愛なのです。
不満に思えてしまうのは、私も、子供たちも、彼ほど頭が良くないからなのでしょう。
私は、家族は、彼に愛されている、それは、客観的には事実なのです。
人間的な心情とは、サヴァンの彼には不可解なものなのでしょう。
現在の私の望みは、彼が私よりも長生きすること。
そうすれば、面倒な相続等の問題は彼に押し付けられるし、私は死ぬまで今の生活を保つことができるでしょうから。
神様、お願いします。