
映画前半では対立する主人公の二人、誠実に布教を行う神父ガブリエル(ジェレミー・アイアンズ)と冷酷に原住民を刈る奴隷商人メンドーサ(ロバート・デ・ニーロ)は、後半になると教会と政府の意向に抗い手を結ぶ。この作品において語り部となるイエズス会本部から派遣されてきた枢機卿(レイ・マカナリー)は、政治的な決定においては本国の事情を優先して原住民の幸福と平安を切る形をとったが、原住民に寄り添おうとする主人公たちを心情的には理解する。
この作品の公開年にあたる86年といえばようやくポスト・コロニアル思想が広く喧伝され始めた頃ゆえに仕方ないとも言えるのだろうが、植民地政治や奴隷制度への義憤は描かれても、イエズス会の布教行為そのものに対してはまるで無批判な点はどうにも不自然に映る。ともあれ改宗し定住した部族により築かれた社会が一時的にとはいえ共産制に行き着いたとして描かれる点や、宣教師の存在が結局は原住民の破滅を防げなかったとするプロットにより、ぎりぎりのラインでPC的な誹りを逃れているとは言えるのかも。デ・ニーロ扮するメンドーサが一度捨てた武器を手にとる決意ののち祝福を請うシーンでの、J・アイアンズ演じる神父ガブリエルによるセリフ「私が祝福を施さずとも、あなたの行ないが正しいなら神が祝福するだろう。また行ないが過ちなら、私が祝福しても無意味である。ただ私はおもう。もし力が正しいなら、この世に愛は要らなくなる」 は印象に深く残る。
出演者では他に、いまやすかっりハリウッド・スターの仲間入りを果たしたリーアム・ニーソンが若い神父役で登場している。監督のローランド・ジョフィは他に“キリング・フィールド”(1984)や“シティ・オブ・ジョイ”(1992)、“スカーレット・レター”(1995)など。近現代史物に強いらしい。脚本のロバート・ボルトは“アラビアのロレンス”でも脚本を担当、確かに原住民の扱いには通底する部分も感じる。エンニオ・モリコーネによる音楽もいい。
念のため付記するが、"mission"の語には「使命,任務」の他に「宣教,伝道」の意味がある。日本を含む非欧米諸国のカトリック教会では "missionaries church" という英語表記をよく目にする。つまり宣教会。
"The Mission" by Roland Joffe / Robert Bolt [scr] / David Puttnam [pro] / Robert De Niro, Jeremy Irons, Ray McAnally, Liam Neeson, Aidan Quinn / Ennio Morricone [music] / 125min / UK / 1986
1986年カンヌ国際映画祭パルムドール ☆☆☆