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どうしたの❓

カゼインホスホペプチド❓ カゼインホスホペプチドは毒物じゃ無いよ。もしかして、カゼインと同じ物だと思ってる❓

いやいや、カゼインと名前が付いていても、カゼインホスホペプチドはその分子構造も働きも全く別物だよ。だから、避ける必要は全くないんだ。
カゼインフリーの実践では、牛乳や乳製品などに含まれるカゼインの摂取を避けていきます。
この時、栄養学的に非常に有益な成分まで「カゼイン」という名前がついているだけで、誤って避けてしまっているケースが見受けられます。
その代表格が「カゼインホスホペプチド(CPP)」です。
カゼインホスホペプチドには「カゼイン」と名前が付いていますが、アレルゲンとなるカゼインとは別物です。そのため、カゼインホスホペプチドまで避ける必要はありません。
では、なぜアレルゲンであるカゼインとカゼインホスホペプチドは全く別物と言えるのか、カゼインホスホペプチドを避ける必要が無いのかについて、分かりやすく解説します。
まず、「カゼイン」と一言で言われることが多いですが、実はカゼインにも様々なカゼインが存在しています。この カゼインとは、牛乳に含まれるタンパク質の約80%を占める「タンパク質の家族」のようなもので、この家族の中には、次のようなメンバーがいます。
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αS1-カゼイン(アルファS1カゼイン)
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αS2-カゼイン
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β-カゼイン(ベータカゼイン)
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κ-カゼイン(カッパカゼイン)
カゼインフリーで問題視されるのは、この中でも最も大きな割合を占める「αS1-カゼイン」です。
αS1-カゼイン(アレルゲン)
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特徴:牛乳アレルギーの主な原因(アレルゲン)となるタンパク質です。
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性質:胃酸で硬く、大きく固まりやすいため、消化されにくい性質を持ちます。
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問題点:消化能力が落ちている人や腸に炎症がある人(リーキーガット)の場合、この大きなタンパク質が未消化のまま腸壁を刺激し、免疫系が「異物!」と判断して炎症(アレルギー反応)を引き起こす原因となります。
このαS1-カゼインが十分に消化出来ないと、未消化で分子の大きなカゼインが小腸や大腸に流れ、これが悪玉菌のエサとなって腸内環境を悪化させてしまいます。
悪玉菌は未消化のタンパク質をエサに毒素を出し、この毒素が腸粘膜を傷つけてバリア機能を破壊していきます。
それにより、腸粘膜同士に隙間が生じる「リーキーガット症候群」を引き起こし、この隙間から分子の大きなカゼインや毒素が侵入することで、アレルギーや炎症など様々な不調を引き起こしてしまう原因になります。
また、カゼインフリーの実践が推奨されるもう一つの理由として、「カソモルフィン」の悪影響説があります。
カソモルフィンとは、カゼイン(主にβ-カゼイン)が「不完全に」消化されたときに生じる、小さな断片(ペプチド)です。
カソモルフィンは、モルヒネに似た構造(オピオイド様)を持つとされ、腸のバリアを通過して体内に入ると、脳機能や炎症に悪影響を及ぼすのではないか、という仮説があります。
これについては、現時点で確かな根拠がありません。
「カゼインホスホペプチド」ってなに?
では、本題の「カゼインホスホペプチド(CPP)」とは何でしょうか?
名前に「カゼイン」と付いていますが、これは上記2つとは全くの別物です。カゼインホスホペプチドは主にβ-カゼインやαS2-カゼインが、胃酸などの酵素によって「正常に」消化・分解されたときにできる物質で、鉄やカルシウムなどのミネラルを助けてくれる働きがあります。
このペプチドは消化・分解されているため、未消化のカゼインのようなアレルゲンも無ければ、カソモルフィンとしての働きもありません。
カゼインホスホペプチド(CPP)
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特徴:カゼイン(主にβ-カゼインやαS2-カゼイン)が、酵素によって「正常に」消化・分解されたときにできる、特定の機能を持つ有益な断片(ペプチド)のことです。
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性質:タンパク質そのものではなく、アミノ酸が数個〜数十個つながった「小さな部品」です。
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最大の働き:ミネラルの吸収を助けることです。
私たちの体は、カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラルを吸収するのが苦手です。特に腸内がアルカリ性に傾くと、ミ鉄やカルシウムなどのミネラルは水に溶けにくい形(不溶性)になってしまい、吸収されずに排出されてしまいます。
CPPは、このミネラルが不溶性になるのを防ぎ、ミネラルと結合して「水に溶けた状態」をキープしてくれます。そして、そのまま腸の吸収場所まで安全に届けて、吸収を助けてくれる働きがあるのです。
なぜ、カゼインホスホペプチドを避ける必要が無いのか?
では、なぜカゼインホスホペプチドを避ける必要が無いのでしょうか?
カゼインホスホペプチドは、名前に「カゼイン」と付いていますが、アレルゲン性(アレルギーを引き起こす性質)をほとんど持っていません。
なぜなら、カゼインホスホペプチドはすでに消化・分解されて出来た物質で、免疫系が「異物」と認識するような「大きなタンパク質の立体構造」を、もはや保持していないからです。
このカゼインホスホペプチドには、「カルシウムや鉄、亜鉛などのミネラルを、高濃度で安全に運ぶ」という役割があります。
牛乳にはカルシウムが豊富に含まれていますが、カルシウムは本来、中性〜アルカリ性の環境(腸内など)ではリン酸と結合して「リン酸カルシウム」という水に溶けない個体(沈殿物)になってしまいます。
もし牛乳の中でカルシウムが沈殿してしまうと、私達の腸では効率よくカルシウムを吸収できません。
そこで「カゼイン」が活躍します。 カゼインは、タンパク質内に「ホスホセリン」というリン酸を含む部分を多数持っており、ここで大量のカルシウム(リン酸カルシウム)をナノ粒子として安定的に結合させ、水に溶けた状態(コロイド状)で保持しています。
このカゼインとミネラルが結合した複合体を「カゼインミセル」と呼びます。 牛乳が白いのは、このカゼインミセルが光を乱反射するためです。
では、口から入った「カゼイン(カゼインミセル)」が、どのようにして有益な「カゼインホスホペプチド」へと変化していくのでしょうか? その過程を順に見てみましょう。
【ステップ1:胃での消化】
まず、私達がカゼイン(カゼインミセル。タンパク質+カルシウム等のミネラルが結合した巨大な複合体。アレルギーの原因となる) を摂取すると、カゼインは胃酸によって一度固まります。
その後、胃酸に含まれるペプシンなどの消化酵素によって、その巨大なタンパク質構造が切断され始めます。 この段階で、アレルゲンとなり得る「大きなタンパク質の立体構造」は失われ始めます。
【ステップ2:小腸での消化】
次に、この消化途中のカゼインが小腸に送られると、膵臓から分泌されるトリプシンなどの強力な消化酵素によって、さらに細かく分解されます。
この分解の過程で、カゼインの中でも特にリン酸とカルシウムが集中して結合していた「ホスホセリン」領域が、有益な機能を持った小さな部品(ペプチド)として切り出されます。 これが「カゼインホスホペプチド(CPP)」です。
※カゼインホスホペプチドのホスホ(phospho)」とは、アミノ酸のセリンがリン酸化されたセリン基を持ち、「リン酸が結合しているペプチド」という意味です。
【ステップ3:小腸での吸収】
小腸内は胆汁などの影響によって胃酸が中和され、中性〜アルカリ性に傾いていきます。このとき、もし鉄やカルシウムなどのミネラルが単独で存在すれば、すぐにリン酸と結合して不溶性(沈殿)になって吸収出来なくなってしまいます。
しかし、この時に「カゼインホスホペプチド」が存在すると、カゼインホスホペプチドがミネラル(カルシウム、鉄、亜鉛など)と固く結合し続けることで、ミネラルが水に溶けた状態(可溶性)にしてくれます。
このミネラルと結合したカゼインホスホペプチドは、小腸の吸収細胞のすぐそばまで安全に運んでくれます。 これにより、ミネラルは効率よく体内へ吸収出来るようになるわけです。
このカゼインホスホペプチドには、アレルギーの原因となる分子の大きな「カゼインミセル」から消化・分解して出来た物質のため、もはやアレルギーの原因物質ではありません。
また、有害と言われているカソモルフィンとも全く異なる分子構造のため、人体に悪影響も及ぼしません。
そのため、カゼインホスホペプチドは「カゼイン」と名前が付いていても避ける必要が全くない物質です。
カゼインを避けた方が良いと言われている理由は、胃酸不足や消化能力の低下により、「消化」がうまくいかなくなると、身体に悪影響を及ぼすリスクが高いと考えられているためです。
カゼインホスホペプチドは、アレルゲン性(アレルギーを引き起こす性質)をほとんど持っていません。
なぜなら、免疫系が「異物」と認識するような「大きなタンパク質の立体構造」を、もはや保持していないからです。
それどころか、CPPはミネラルの吸収率を劇的に高めるため、日本では「トクホ(特定保健用食品)」の関与成分として、カルシウムや鉄を補給する食品(飲料、サプリメント、お菓子など)に、わざわざ「添加」されているほど有益な成分です。
結論
カゼインフリーを実践する際、原材料表示を見て「カゼインホスホペプチド」や「CPP」という文字に怯える必要は全くありません。
「カゼイン」と「カゼインホスホペプチド」は、全くの別物です。
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カゼイン(タンパク質):消化しきれないと「アレルゲン」になり得る。
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CPP(ペプチド):カゼインが正常に消化されてできる「有益な栄養部品」。
カゼインフリーで食事制限をしている時こそ、カルシウムや鉄などのミネラルは不足しがちになります。
カゼインホスホペプチドは、その不足しがちなミネラルの吸収を助けてくれる、分子栄養学的にも非常に重要な「味方」です。
「名前が似ている」という理由だけで有益な成分まで排除してしまうのは、非常にもったいないことです。ぜひ、この違いを正しく理解して、正しい分子栄養学の実践を行っていって下さい。



