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今日のぬくまちくん

2009-04-07 Theme: 今日のぬくまちくん


黄色くて、まるいヒヨコが、赤い鞄を持っている。



「はい、あげる。」

ぬくまちくんが、突然手渡してきたもの。
ふかふかした、手のひらに収まるぬいぐるみ。
どうしたの?って聞いたら、拾ったの。って。
もう一度、どうしたの?って聞いたら、なんだか似てるから。って。



ぬくまちくんは、道に落ちてるものをほいほい拾う。
それは犬とか猫とかの話じゃなくて、
今回みたいな小さなぬいぐるみとか、ストラップとか、
変なチラシとか、はぐれた手袋とか。
普通なら、汚くて触らないような落し物をほいほい拾っては、
使えそうなら自分のものにしてしまう。


幸いというかなんというか、
わたしは、落し物に対する嫌悪感も、正義感も無かったので、
素直に黄色いふかふかを手に収めた。


「あたしに似てるかなあ?」
黒くて小さい点々の瞳に、ぽってりした柿色の唇(というかクチバシ)。
自覚するのも悲しいけれど、こんな愛らしさが自分にあるとは思えない。
けど、巡らせた考えが、“ぬくまちくんにはこう見えているのかも”という点に到ると、
疑問はすぐに動揺に変わった。

一応は恋人同士という枠に収められてるわたしたちだけれど、
いわゆる、あまい時間、なんて体験したことが無かったから、
独りよがりとはいえ、本人無意識のあまい言葉、にしばらく顔や足がふわふわして、
自分のまわりにだけ、薄桃色の空気が見えた、気がした。



――のだが。



「この赤い鞄を持ってるあたり、すごく君っぽいよね。」


そこはさすがのぬくまちくん。
そういえば以前、唐突に「君は食べ物で喩えるとカルボナーラっぽい」と言われたことを思い出して、
何度問うても、「理由は特に無くて」とか「なんだかしっくりくる」とか
その真意が一切読めない返答だったことも同時に思い出した。
そうそう、その時、なんとかぬくまちくんに対抗してやろうとして、
ぬくまちくんも食べ物に喩えてやったんだった。
真っ先に思い浮かんだのは、ゆでたまご。
ゆでたまご切りで、スライスされたゆでたまご。
「どうして?」って聞かれても、ぷりぷりの白味と、ぱさぱさの黄味のコントラストがなんだか似合う、なんて答えてやった。

ほんとは、いじわるしてやろうと思ったんだけれど、
ぬくまちくんは「ふーん、そうか」しか言わなくて、
わたし自身も本当に、白と黄色の関係がなんだか彼にとてもよく似合うと思ったのだ、そのとき。
理由は、特に無くて。



「大事にしてください。」


わたしは、頭の中でカルボナーラとゆでたまごと黄色いヒヨコを並べてみた。
うん、なんだか似合ってる。

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今日のぬくまちくん

2009-04-06 Theme: 今日のぬくまちくん


「あっ、犬だ」


ぬくまちくんがそう言って飛び出した。
電柱に繋がれた茶色くて大きな犬は飛び掛ったぬくまちくんに尻尾を振っている。
ぬくまちくんは動物がすきだ。
動物も、ぬくまちくんがすきだ。
ぬくまちくんの少し細い指に撫でられると、
動物達は気持ち良さそうに毛を揺らす。
傍で見ていると、まるでその指先から命の源が生み出されているように感じるのだ。
それくらい、穏やかで、優しい手つきをしている。

ただ、一つだけ、言うと。

ぬくまちくんは、動物からの愛され方を間違えてた。




「あいたーーー!」


案の定、叫ぶぬくまちくん。
がぶり、と嬉しそうに、ぬくまちくんの足に食らいつく犬。
昔、うちで飼っていた犬が、くまのぬいぐるみでこんな風に遊んでいたことを思い出した。
尻尾を振りながら噛み付く犬、
痛がりながらも、けして怒ったりしないぬくまちくん。
この愛の形を、なんていう言葉に喩えようか悩んだ。
けどやめた。
わたしとぬくまちくんだって、そうだからだ。
ぬくまちくんの周りは、いつだって言葉を持たない。
ぬくまちくんが持てる様な言葉が、まだこの世に存在していない。
だからやめた。


「ふー。ふー。」
ようやく開放された足に息を吹きかけては、自分の手でそれを撫でている。
また、命の源を生み出している。
「ありゃりゃ。ぬくまちくん、また穴が開いちゃったね」
いつもこうだから、ぬくまちくんのズボンはすそがボロボロだ。
「穴が開いたんじゃないよ」
でも、ぬくまちくんは穴の開いてボロボロのズボンを履き続けるのだ。
「歴史が増えたんだ」
穴の開いたズボンだけじゃない。
泥だらけの靴、絵の具だらけのTシャツ(絵の具で何をしているかは私は知らない)
掃ったら、繕ったら、洗ったら落ちる汚れを、ぬくまちくんは拭わない。
それが服で、それこそが靴だからだと彼は言う。
「僕は自分の歴史を愛したいだけだよ」
ああ、この愛の形をなんて言おう。



その日、家に帰ったら、私は真っ先にモカシンについた犬の毛をガムテープでとった。
「お前の思う通りにはいかないぜ、ぬくまちくん」
なんて笑いながら。

ああ、この愛の形をなんて言おう。


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今日のぬくまちくん

2009-04-03 Theme: 今日のぬくまちくん

夕方色の電車に乗った。
吊革に手をかけるぬくまちくんの袖から、少しだけ覗いたのは
なんだかおいしそうな色。


「可愛い腕時計だね」

おもちゃみたいな時計で、ぬくまちくんの外見年齢からすると、少しおかしいのに、
なんだかぬくまちくんにはよく似合っていて、ちょっとおかしい。


紺色が朱色を食べてしまう空を切る電車には、
スーツ姿の7並べ。紺色の袖口から覗く銀色、金色、銅色。
振ればカチャリと鳴りそうな、スーツに似合う高そうな時計。
不思議。ぬくまちくんにはどちらも似合いそうにない。




「あ、それはそうと、今何時?」
そういえばもうすぐ、あの番組がはじまる時間。それまでには帰りたくて。
「さあ、わかんないや」
右腕に時間を持つ人が何をいう。
「…?時計見れば?」
「見てもわかんないよ」
吊革からぬくまちくんをひったくる。
おいしそうな色、アメリカのお菓子みたいな色。針が指すのはお菓子の時間。
「動いてないの?」
うん、とだけぬくまちくんは頷いて、そこからあたしは言及はしなかった。


なんでって、
おもちゃ色の時計が似合うぬくまちくん、
紺色のスーツより、薄桃のポロシャツが似合うぬくまちくん、
彼に3時で止まった針の時間は似合いすぎてて、
なんにも聞かなくても、なんにも言わなくても、
なんだか全部わかったような気がしたのだ。





「あ、一番星」


そろそろ紺色が朱色を食べ切ってしまう空。
疲れたサラリーマンは腕に6時3分をみんな持っている。
(なんで時間知ってるかって、結局携帯で確認したもの)
一秒に一目盛り、一分に六十目盛り、
針は兵隊が歩くみたいに進んでく。
みんなの時間をそう喩えるなら、そうね
ぬくまちくんのは鳥みたい。うそ、ウサギみたい。
うそ、魚みたい。



「じゃあ今は、朱色ごちそうさま時間、一番星分ね」
と、格好つけて言ってみたら(ほんとは凄く恥ずかしい)
「君は本当に変なひとだね」
と、ぬくまちくんが笑ってた。





ぬくまちくんにだけは、言われたくない。

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今日のぬくまちくん

2009-03-30 Theme: 今日のぬくまちくん

いつだって不思議なことをして、いっぱい、喰わされているぬくまちくんに、
今日はちょっとしたフクシュウをすることにしたのだ。

お互いの本名も、年齢も、何をやっているのかも知り合わないあたしたち。
だから、あたしはぬくまちくんに、こういう嘘をつくことにした。

“今日はあたしの誕生日なの”

実験だろうが、なんだろーが、付き合っている彼女の誕生日。
彼が一体、何を奉仕してくれるのかが気になった。
彼のことだから、図書券とか(僕が貰ったらうれしいから、とかいう理由で)
彼とお揃いの変なTシャツとかだったりするかもしれない。
どんな形でもいい。
彼があたしに注いでいるはずの愛情を、形として見てみたかった。


「ねえ、ぬくまちくん。今日はあたしの誕生日なの」

彼の返答はきっと、どんな推理小説家でも思いつかなかったことだろう。
金田一耕介だって、自分が目星をつけた犯人が「殺人ってなんですか?」と聞いてきたら、
きっとあたしと同じ顔をしたと思う。



「誕生日ってなに?」




彼は誕生日というものの存在をしらなかったのだ。
あたしは最早、ぬくまちくんという皮を被ったこの正体不明の男に、からかわれているとしか思えなかったのだが、
彼の素直な表情を、その少し寝癖のついた髪を、皺のとれていないTシャツを、
裏切ることは出来なかった。

「人間が、生まれた日のことよ」
一年は365日で巡るから、何年か前の同じ日に誕生した人を祝う、なんて
きっともう二度としないような希少な説明をした。
今この地球上で、誕生日について解説しているのは私か広辞苑しかいないと、いらぬ経験をしてしまった。
この調子だと、ぬくまちくんはクリスマスもバレンタインも知らないのかもしれない。
「わかった?」
そう言うと、彼は顎に指を添えて、少しだけ眉間に皺を寄せて黙っていた。
あたしは、表面では“信じられない”といったような顔をしながらも、本当は心の中でほっと息をついていた。少し、喜んでいた。
彼の反応があまりにも予想外だったから。
彼にはあたしが想像できるような範囲内での行動をとって欲しくないと、いつだってあたしの想像とは遠くかけ離れた世界で生きていて欲しいと
なんだか、到底恋人に対しては思わない不思議な思想をあたしは抱き始めていた。




「でもさ、大事なのは君がいったい、何年前のいつ生まれたか、ってことよりも
 今こうして生きていることなんじゃないのかな?
 誕生する、ってことよりも、生きていく、ってことの方がきっとずっと難しいよ。
 それなら僕たちは毎日誕生パーティをしなくちゃいけないよ。」 
だから、今日も生きていてくれてありがとう。
そう最後に付け加えて、あたしの手をひいて歩き出した。



彼が手をひいて歩く、とは言っても、けして無理矢理歩かされるスピードではない。
それでも、先程の彼の言葉にあたしの足は覚束無いのだ。
ぬくまちくんはきっと、自分の言葉がどんなにあたしをどきどきさせているか知らない。
(本音をいうと、知らないでいて欲しい。そんなことともかけはなれた存在であって欲しい)
だから少し気難しくなったあたしの心は、声に出して言わせてはくれないだろうけど、
きっと心の中でこう言う事になる。

ぬくまちくん、今日も生きていてくれてありがとう。


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今日のぬくまちくん

2009-02-10 Theme: 今日のぬくまちくん

ぬくまちくんは、
毎日のように、好んでダサいTシャツを身につけた。

今日着ていたのだって、白地に赤い毛糸で真ん中にどでかく苺が縫い付けられている変なTシャツだ。
「なんで?」
って聞いたら、
「人間は着ているものなんかに左右されない、ってことを身をもって証明してやるんだ」
なんて言ってた。

ぬくまちくんは、証明好きだ。
でも、ほんとにそれだけなんだろうか。



今日は苺のTシャツ、
このあいだは平仮名の「ぬ」がプリントされたTシャツ、
その前はごりらの絵(しかもぬくまちくんが書いたやつ)だったなあ。
次は、どんなTシャツなんだろう。
あ、そうか。

あたし、ぬくまちくんに会うのが楽しみだ。


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