サポート要件における「課題」の捉え方 | 知財アラカルト

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医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


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平成30年(2018年)5月24日知財高裁3部判決
平成29年(行ケ)第10129号 特許取消決定取消請求事件

 

原告:築野食品工業

被告:特許庁長官


 本件は、特許異議申立事件(異議2016-700420)において、サポート要件違反であるとの理由から当該特許を取り消すという特許庁の異議決定が、知財高裁により取り消された事件に関するものです。サポート要件の判断における課題の捉え方が、特許庁と裁判所とで異なった結果、逆の判断となりました。

最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=87774

 

(1)事件の概要
①本件特許権(特許5813262号)
 本件特許権は、発明の名称を「米糠化物並びに米油及び/又はイノシトールを含有する食品」とする食品関連の発明であって、当該異議事件における本件訂正後の請求項1(本件発明1)は下記の通りです。

【請求項1】 米糖化物,及びγ-オリザノールを1~5質量%含有する米油を含有するライスミルクであって,当該米油を0.5~5質量%含有するライスミルク。

 

②異議決定の理由の要旨

 本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない,すなわち,①本件明細書の記載からは,γ-オリザノールを1~5質量%含有する米油全てについて,それぞれライスミルクへの含有量が0.5~5質量%の全範囲にわたって,本件発明1の課題を解決できることまでは認識できず,②本件発明1の特定事項を全て含み,米油について新たな限定を付加するものでない本件発明2~4についても同様であるから,本件発明は,特許法36条6項1号の要件(サポート要件)を満たしていない

 
(2)裁判所の判断

   裁判所は、概ね次のように判示し、本件特許の異議申立事件において、特許庁がサポート要件違反とした判断は誤っていると認定し、特許庁の特許取消し決定を取り消しました。

①課題の認定について

ア サポート要件の適否を判断する前提としての当該明の課題についても,原則として,技術常識を参酌しつつ発明の詳細な説明の記載に基づいてこれを認定するのが相当である。

 (本件明細書の発明の詳細な説明)の記載からすれば,本件発明は,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」それ自体を課題とするものである
ことが明確に読み取れるといえる。

イ 被告<特許庁>は,発明が解決しようとする課題とは,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,本件発明1の「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」という課題,本件出願時の技術水準を構成する米糖化物含有食品(具体的には,実施例1-1のライスミルク)に比べて,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであり, したがって,異議決定においては,本件発明1の課題について,「具体的には,実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて優位な差を有するものを提供すること」としたものである(したがって,異議決定の課題の認定に誤りはない)と主張する。

 確かに,発明が解決しようとする課題は,一般的には,出願時の技術水準に照らして未解決であった課題であるから,発明の詳細な説明に,課題に関する記載が全くないといった例外的な事情がある場合においては,技術水準から課題を認定するなどしてこれを補うことも全く許されないではないと考えられる。
 しかしながら,記載要件の適否は,特許請求の範囲と発明の詳細な説明の記載に関する問題であるから,その判断は,第一次的にはこれらの記載に基づいてなされるべきであり,課題の認定,抽出に関しても,上記のような例外的な事情がある場合でない限りは同様であるといえる。
 したがって,出願時の技術水準等は,飽くまでその記載内容を理解するために補助的に参酌されるべき事項にすぎず,本来的には,課題を抽出するための事項として扱われるべきものではない(換言すれば,サポート要件の適否に関しては,発明の詳細な説明から当該発明の課題が読み取れる以上は,これに従って判断すれば十分なのであって,出願時の技術水準を考慮するなどという名目で,あえて周知技術や公知技術を取り込み,発明の詳細な説明に記載された課題とは異なる課題を認定することは必要でないし,相当でもない。出願時の技術水準等との比較は,行うとすれば進歩性の問題として行うべきものである。)。
 これを本件発明に関していえば,異議決定も一旦は発明の詳細な説明の記載から,その課題を「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供すること」と認定したように,発明の詳細な説明から課題が明確に把握できるのであるから,あえて,「出願時の技術水準」に基づいて,課題を認定し直す(更に限定する)必要性は全くない(さらにいえば,異議決定が技術水準であるとした実施例1-1は,そもそも公知の組成物ではない。)。
 したがって,異議決定が課題を「実施例1-1のライスミルクに比べてコク(ミルク感),甘味及び美味しさについて有意な差を有するものを提供すること」と認定し直したことは,発明の詳細な説明から発明の課題が明確に読み取れるにもかかわらず,その記載を離れて(解決すべき水準を上げて)課題を再設定するものであり,相当でない
 以上によれば,異議決定における課題の認定は妥当なものとはいえない

 

②課題を解決できると認識できる範囲について

 本件発明の課題は,コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供することであると認められるので,本件発明が,発明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるか否かについて検討する。

 本件発明は,いずれも,発明の詳細な説明の記載から,「コク,甘味,美味しさ等を有する米糖化物含有食品を提供する」という課題を解決することができると認識可能な範囲のものであるといえる。

 

③小括
 異議決定は,サポート要件の判断の前提となる課題の認定自体を誤り,その結果,本件発明が発明の詳細な説明の記載から課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かについての判断をも誤って,サポート要件違反を理由とする特許取消しの判断を導いたものである。

 

(3)コメント

①本事件は、サポート要件について、違反するとの特許庁の判断が、裁判所で否定されたものです。特徴的な点としては、サポート要件の判断における「課題」の捉え方について、特許庁は明細書の記載を少し離れて、「出願時の技術水準に照らして未解決であった課題」と解釈したのに対して、裁判所は、一般的にはそうであるとしながら、記載要件の適否は明細書の記載に関する問題であるから、第一次的には明細書の記載に基づいて判断されるべきとしました。

 サポート要件の判断における「課題」をどのよう考えるか、悩ましいことがありますが、今回の判決はその際の一つの答えを提示しているように思います。故に、実務上、参考となる判決ではないかと思いました。

 なお、判決で述べられている通り、出願時の技術水準等との比較は、サポート要件の問題ではなく、進歩性の問題として行われるべきではないかと思います。

②本事件では、異議事件における特許庁の特許取消し決定が、裁判所によって覆されたわけですが、特許庁が特許を取り消すこと自体、稀であると思います。統計的にも特許取消し率が低いことが示されています。しかも本事件では、特許庁はサポート要件のような記載要件に違反するとして一旦取り消したのですが、個人的感覚では、特許庁が異議事件で記載要件違反を認定することは非常に珍しいと思います。非常に珍しいケースであるにも関わらず、裁判所で追認してもらえなかったことは、特許庁としても非常に残念ではないでしょうか。

 上記しましたように、異議事件における特許取消し率は低いのですが、その低い中で特許権者が知財高裁に特許取消しの異議決定の取消しを求めた事件では、それが認容(異議決定取消し)されることが比較的多いように感じます(自信のあるケースしか高裁に上がらないのかもしれませんが)。それが事実なら、特許庁は、異議における特許取消し決定を行うことにより慎重になり、益々特許を取り消さない方向で審理するかもしれません?。
③本事件では、特許庁の特許取消しの異議決定が裁判所により取り消されましたので、特許庁が最高裁判所に上告しなければ、特許庁で再度審理されることになります。もはやサポート要件違反は認定しがたく、特許維持決定の可能性が事実上高まったとは思いますが、今度は理由を工夫して、判断が未だなら進歩性違反で特許を取り消す可能性はあると思います。
 
以上、ご参考になれば幸いです。

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