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医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


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平成28年(2016年)3月30日東京地裁29部判決
平成27年(ワ)12414号 特許権侵害差止請求事件

原告:デビオファーム
被告:東和薬品

 本件は、特許権(医薬品関連)
の延長後の効力について、裁判所において初めて判断された事件ではないかと思われます。そして、被告製品は、本件特許の延長後の効力は及ばないとして非侵害と認定されました。
最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85838

(1)事件の概要
原告の特許権(特許3547755号)
 本件特許(請求項1)は、発明の名称を「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」とする医薬製剤発明
に関するものであって、分説すると下記のような構成を有するものです。
A 濃度が1ないし5mg/mlで
B pHが4.5ないし6の
C オキサリプラティヌムの水溶液からなり,
D 医薬的に許容される期間の貯蔵後,製剤中のオキサリプラティヌム含量が当初含量の少なくとも95%であり,
E 該水溶液が澄明,無色,沈殿不含有のままである,
F 腸管外経路投与用
G オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤
②原告製品
 原告の日本における専用実施権者はヤクルト本社であり、該ヤクルト本社が当該特許発明に係る先発品エルプラット(登録商標)、白金製剤の抗癌剤」を製造販売しています。
③被告製品
 被告製品は、先発品「エルプラット」のいわゆる後発品であり、効能・効果及び用法・用量は,エルプラットのものと同一です。但し、組成については、エルプラットと異なり、添加物として濃グリセリン安定剤として含んでいます。
④争点
 争点はいくつかありますが、本裁判所において判断され、非侵害に導かれた争点は下記になります。
被告各製品本件各処分の対象となった物又はその均等物ないし実質的に同一と評価される物か(争点2)

(2)裁判所の判断
 裁判所は、事案に鑑み、争点2から判断し、概ね下記の通り、被告各製品本件各処分の対象となった物でも、その均等物ないし実質的に同一と評価される物でもないと判断しました。
①本件各処分の対象となった物について
ア 特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨
 特許法は,同法67条1項において,特許権の存続期間を特許出願の日から20年と定めるが,同時に,同条2項において,その特許発明の実施について政令処分を受けることが必要であるために,その特許発明の実施をすることができない期間があったときは,5年を限度として,その存続期間の延長をすることができると定めて,特許権の存続期間の延長登録制度を設けた。「その特許発明の実施」について,政令処分を受けることが必要な場合には,特許権者は,たとえ,特許権を有していても,特許発明を実施することができず,実質的に特許期間が侵食される結果を招く(もっとも,このような期間においても,特許権者が「業として特許発明の実施をする権利」を専有していることに変わりはなく,特許権者の許諾を受けずに特許発明を実施する第三者の行為について,当該第三者に対して,差止めや損害賠償を請求することが妨げられるものではない。したがって,特許権者の被る不利益の内容として,特許権の全ての効力のうち,特許発明を実施できなかったという点にのみ着目したものであるといえる。)。そして,このような結果は,特許権者に対して,研究開発に要した費用を回収することができなくなる等の不利益をもたらし,また,開発者,研究者に対しても,研究開発のためのインセンティブを失わせることから,そのような不都合を解消させ,研究開発のためのインセンティブを高める目的で,特許発明を実施することができなかった期間について,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することができるようにしたものである。
イ 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力
 特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,原則として,政令処分を受けることによって禁止が解除されることとなった特許発明の実施行為,すなわち,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「(当該用途に使用される)物」についての実施行為にのみ及び,特許発明のその余の実施行為には及ばないと解するのが相当である。
 もっとも,・・・当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。
ウ 政令処分が医薬品医療機器等法所定の医薬品に係る承認である場合について
 医薬品医療機器等法の規定に基づく医薬品の製造販売承認を受けることによって可能となる(禁止が解除される)のは,その審査事項である医薬品の「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」の全てについて承認ごとに特定される医薬品の製造販売であると解されるとしても,特許権の存続期間の延長登録の制度目的からすると,上記審査事項の全てではなく,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項(医薬品の成分の発明の場合は,「成分,分量,用法,用量,効能,効果」である〔平成27年最判参照〕。)の範囲で,当該政令処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」(「物」及び「用途」)を特定することが相当というべきである。
 したがって、医薬品の成分を対象とする特許発明の場合,特許法68条の2によって存続期間が延長された特許権は,「物」に係るものとして,「成分(有効成分に限らない。)及び分量」によって特定され,かつ,「用途」に係るものとして,「効能,効果」及び「用法,用量」によって特定された当該特許発明の実施の範囲で,効力が及ぶものと解するのが相当である。ただし,延長登録制度の立法趣旨に照らして,「当該用途に使用される物」の均等物や「当該用途に使用される物」の実質同一物が含まれることは,前示のとおりである。
エ 本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」について
 (本件各処分の対象となった医薬品)いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないものとされている)ものと認められる。
 そうすると,・・・本件各処分を受けることが必要であったために実施することができなかった「当該用途に使用される物」とは,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まない製剤(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であると認められる。

②被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」といえるかについて
 本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「注射用水」のみ(ただし,保存中にオキサリプラチンが自然分解し,シュウ酸を含有するに至ることがある。)であるのに対し,被告各製品の「成分」は,いずれも「オキサリプラチン」と「水」以外に,添加物として「濃グリセリン」を含むものであり,その使用目的は,「安定剤」であることが認められる。
 そうすると,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」と被告各製品とは,その「成分」において異なるものというほかはない。したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえない

③被告各製品は本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するといえるかについて
ア 考え方
 被告各製品が本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」とはいえないとしても,被告各製品と本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」との相違が,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明の種類や対象に照らして周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではない場合には,その「当該用途に使用される物」の均等物,あるいはその「当該用途に使用される物」の実質同一物と認めるのが相当である。
 医薬品の有効成分(薬効を発揮する成分)のみを特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分のみが異なるだけで,生物学的同等性が認められる物については,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たり,新たな効果を奏しないことが多いから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たるとみるべきときが少なくないと考えられる。他方,当該特許発明が製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明である場合には,延長登録の理由となった処分の対象となった「物」及び「用途」との関係で,有効成分以外の成分が異なっていれば,生物学的同等性が認められる物であっても,当該成分の相違は,当該特許発明との関係で,単なる周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等に当たるといえず,新たな効果を奏することがあるから,「当該用途に使用される物」の均等物や実質同一物に当たらないとみるべきときが一定程度存在するものと考えられる。
イ 本件発明の種類及び対象
 本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関するものであって,医薬品の成分全体に関する発明であるところ,オキサリプラティヌム(オキサリプラチン)は,本件特許の優先日前の公知物質であって,これを有効成分として制癌剤に用いることも,同優先日前に公知であったことが認められるから,本件発明は,新規化合物に関する発明や特定の化合物を特定の医薬用途に用いることに関する発明など,医薬品の有効成分のみを特徴的部分とする発明ではなく,製剤に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であると認められる。
ウ 検討
 本件発明は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であり,医薬品の成分全体を特徴的部分とする発明であって,原告は,その実施として,「オキサリプラチン」と「注射用水」のみを含み,それ以外の成分を含まないとするエルプラット点滴静注液(製剤)について本件各処分を受けたものである。これに対し,被告各製品は,「オキサリプラチン」と「水」又は「注射用水」のほか,有効成分以外の成分として,「オキサリプラチン」と等量の「濃グリセリン」を含有するもので,オキサリプラチンを水に溶解したものにグリセリンを加えたのは,オキサリプラチン水溶液の保存中に,オキサリプラチンの分解が徐々に進行し,類縁物質であるジアクオDACHプラチンやその二量体であるジアクオDACHプラチン二量体を主とした種々の不純物が生成するため,オキサリプラチンの自然分解自体を抑制するということを目的としたものであることが認められる。これを,本件発明との関係でみると,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,オキサリプラチン水溶液にオキサリプラチンと等量の濃グリセリンを加えることが,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たると認めるに足りる証拠はなく,むしろ,オキサリプラチン水溶液に添加したグリセリンによりオキサリプラチンの自然分解を抑制するという点で新たな効果を奏しているとみることができる。
 そうすると,被告各製品は,「オキサリプラティヌムの医薬的に安定な製剤」に関する発明であって,医薬品の成分全体を特徴的部分とする本件発明との関係では,本件各処分の対象となった物とは有効成分以外の成分が異なる物であり,当該成分の相違は,被告各製品について政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点において,本件発明との関係では,単なる周知技術・慣用技術の付加等に当たるとはいえず,新たな効果を奏するものというべきである。
 したがって,「分量,用法,用量,効能,効果」について検討するまでもなく,被告各製品は,本件各処分の対象となった「当該用途に使用される物」の均等物ないし実質同一物に該当するということはできない

(3)コメント
①本判決は、
医薬品に関する特許権の延長後の効力について判断が示されたものです。特許権の延長に関しては、これまで特許庁による行政処分の是非について多数争われ、最高裁判決まで2件出されていることは周知の通りであると思います。そして、その最高裁判決を受け、特許庁における審査基準が改訂され、最新のものはこの4月から適用されています。
 一方、特許権の延長後の効力について、侵害民事訴訟で争われ判決まで到ったのは、本件が初めてではないかと思われます。そのため地裁レベルとは言え、非常に意義深いものがあります。

②本判決は、昨今の裁判所の考え(流れ)からすると、妥当な結論ではないかと思いました。延長後の効力についても、延長登録の適否と同様、医薬品の承認審査事項中の「成分、分量、効能、効果、用法、用量」を基礎として検討されています。そして、当該「成分」は有効成分とは限らないと判断しています。
 興味深いところとしては、被告製品が本件処分製品の均等物ないし実質同一物か否かの判断において、当該特許のカテゴリー(医薬品の有効成分の発明か、製剤発明かなど)によって考え方が異なるとした点であると思います。当該特許が有効成分の発明の場合、他の成分が違っても新たな効果を奏しないことが多いから、均等物等に当たるとみるべきときが少なくないと述べられています。一方、製剤発明の場合には、他の
成分が違うと新たな効果を奏することがあるから、均等物等に当たらないとみるべきときが一定程度存在すると述べられています。ただ、感覚的ですが、それで全てが納まるのか、何とも言えないところがあるように思われます。また、均等物等の判断における基準時に関して、被告製品について政令処分を受けるのに必要な試験開始時点(治験届出日?)と判示している点が挙げられます。

③一般的に、後発品が先発品と全ての成分に渡って一致することは、少ないのではと思われますので、多くの事案において均等物ないし実質同一物か否かの争いに現実的にはなるように思われます。その際、本判決を踏まえると、当該特許がどのような発明であるかを十分に見極め、それによって均等物ないし実質同一物の範囲が変わるものと思われます。
 いずれにしましても、延長後の効力ないし侵害性について、均等物等か否かが主とした争点になるように思われる今の特許法68条の2は、
現実に則していないのではないかと思われ、法改正の必要性が迫っているような気がします。
 なお、本件は、一審の地裁レベルであり、知財高裁に控訴される可能性が少なからずあり?、もし控訴された場合、そこでの判断が待たれます。ひょっとすると、高裁では、「成分」は「有効成分」と判断され、効果は「生物学的同等性」と判断されるかもしれません。

以上、ご参考になれば幸いです。
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