知財アラカルト

医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


テーマ:
平成28年(2016年)3月3日東京地裁46部判決
平成27年(ワ)12416号 特許権侵害差止請求事件

原告:デビオファーム・インターナショナル・エス・アー
被告:日本化薬

 本件は、被告の製剤は原告の保有するオキサリプラチン製剤(白金製剤、抗がん剤)特許の構成要件を充足し、かかる特許も無効でもないから、侵害を構成するとして原告の請求が認められた事件
に関するものです。
最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85728

(1)事件の概要
原告の特許権(特許4430229号)
 本件特許は、発明の名称を「オキサリプラチン溶液組成物ならびにその製造方法及び使用」とするものであって、次のように分説される発明(
訂正後の請求項1)に関するものです。
A オキサリプラチン,
B 有効安定化量の緩衝剤および
C 製薬上許容可能な担体を包含する
D 安定オキサリプラチン溶液組成物であって,
E 製薬上許容可能な担体が水であり,
F 緩衝剤がシュウ酸またはそのアルカリ金属塩であり,
G 1)緩衝剤の量が,以下の:
  (a)5×10
(-5乗)M~1×10(-2乗)M,
  (b)5×10
(-5乗)M~5×10(-3乗)M
  (c)5×10
(-5乗)M~2×10(-3乗)M
  (d)1×10(-4乗)M~2×10(-3乗)M,または
  (e)1×10
(-4乗)M~5×10(-4乗)M
H pHが3~4.5の範囲の組成物,あるいは
I  2)緩衝剤の量が,5×10(-5乗)M~1×10(-4乗)Mの範囲のモル濃度である,組成物。
②被告製品
 被告製品は,いずれもオキサリプラチン及び水を包含し、4×10(-5乗)~5.5×10(-5乗)M,5.5×10(-5乗)M,又は5.4×10(-5乗)Mの範囲のモル濃度であるシュウ酸が検出されているが,これらのシュウ酸はいずれも添加されたものではない。また,被告製品のpHの値は,3~4.5の範囲にある。
③争点
1)構成要件充足性
  ア 「(有効安定化量の)緩衝剤」(構成要件B,F,G)の充足性
  イ 「安定」(構成要件B,D)の充足性
2)無効理由の有無
  新規性欠如、進歩性欠如、サポート要件違反、訂正違反に基づく新規性欠如

(2)裁判所の判断
A.構成要件充足性
 裁判所は、本件特許発明に係る「安定」(構成要件B,D)の充足性も認めつつ、
「(有効安定化量の)緩衝剤」(構成要件B,F,G)の充足性についても、概ね下記のように判断し、被告製品は本件特許の構成要件を充足すると認定しました。
1)被告製品は構成要件Gに規定されているモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含有するところ,このシュウ酸は添加されたものではない。原告は,「緩衝剤」であるシュウ酸はオキサリプラチン水溶液中に存在すれば足り,添加されたシュウ酸に限定されないから,被告製品は構成要件B,F及びGを充足すると主張するのに対し,被告は,「緩衝剤」であるシュウ酸はオキサリプラチン水溶液に添加されたものに限定されるから,被告製品は上記各構成要件を充足しないと主張する。

2)本件発明は,従来からある凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン生成物及びオキサリプラチン水溶液(乙1発明)の欠点を克服し,すぐに使える形態の製薬上安定であるオキサリプラチン溶液組成物を提供することを目的とする発明であって(段落【0010】,【0012】~【0017】),オキサリプラチン,有効安定化量の緩衝剤及び製薬上許容可能な担体を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物に関するものである(同【0018】)。この緩衝剤は本件発明の組成物中に存在することでジアクオDACHプラチン等の不純物の生成を防止し,又は遅延させ得ることができ(同【0022】,【0023】),これによって本件発明はこれら従来既知のオキサリプラチン組成物と比較して優れた効果,すなわち,①凍結乾燥粉末形態のオキサリプラチン生成物と比較すると,低コストであって複雑でない製造方法により製造が可能であること,投与前の再構築を必要としないので再構築に際してのミスが生じることがないこと,②従来既知の水性組成物(乙1)と比較すると,製造工程中に安定であること(ジアクオDACHプラチンやジアクオDACHプラチン二量体といった不純物が少ないこと)といった効果を有するもの(同【0030】,【0031】)と認められる。そうすると,本件明細書の記載からは,本件発明が,従来既知のオキサリプラチン組成物(凍結乾燥粉末形態のものや乙1発明のように水溶液となっているもの)の欠点を克服し,改良することを目的とし,その解決手段としてシュウ酸等を緩衝剤として包含するという構成を採用したと認められるのであり,更にこの緩衝剤を添加したものに限定するという構成を採用したとみることはできない

3)以上によれば,構成要件Gに規定されたモル濃度の範囲内にある量のシュウ酸を含んでいれば構成要件B,F及びGを充足すると解すべきところ,被告製品はこれを含有する。したがって、被告製品は本件発明の技術的範囲に属すると判断するのが相当である。

B.無効理由の有無
 裁判所は、本件特許発明が新規性や進歩性を有するかにつき、概ね下記のように判断し、いずれも有すると認定しました。
B-1.新規性欠如
1)乙1の1公報には,以下の内容の乙1発明が開示されているものと認められる。
「オキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含する安定オキサリプラチン溶液組成物。」
 本件発明と乙1発明を対比すると,緩衝剤の量につき,本件発明が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙1発明がこれを特定していない点で相違する。したがって,本件発明が乙1発明との関係で新規性を欠くとは認められない

2)乙6文献には,以下の内容の乙6発明が開示されていることが認められる。
「オキサリプラチン,水及びシュウ酸を包含するオキサリプラチン溶液組成物。」
イ 本件発明と乙6発明を対比すると,緩衝剤の量につき,本件発明が構成要件Gに規定するモル濃度の範囲としているのに対し,乙6発明がこれを特定していない点で相違する。したがって,本件発明が乙6発明との関係で新規性を欠くとは認められない

B-2.進歩性欠如
 被告は,「緩衝剤」であるシュウ酸は添加したものに限られるとする解釈を前提とすれば,①本件発明と乙1発明は,シュウ酸の添加の有無の点で相違する,②本件訂正発明と乙1発明は,シュウ酸の添加の有無の点及びpHの値の点で相違するが,いずれの相違点についても容易想到であるから進歩性を欠くと主張する。
 「緩衝剤」であるシュウ酸とは,オキサリプラチン水溶液中に含まれるシュウ酸をいい,添加したシュウ酸に限定されるものではないと解すべきであるから,被告の上記主張①及び②はいずれもその前提を欠き採用することができない。

(3)コメント
①本件は、おそらく従来からの製法で製造するものであるにも関わらず、原告特許の構成要件を充足してしまう製品であって、そうであるから外形的には侵害を構成するが、そのような製剤であれば従前に存在した可能性が高く新規性がないと推認されるところ、それを明確に開示する先行文献が見出せないことから十分に無効を立証できないまま、結局、無効と認定されず、侵害と認定されてしまったというケースではないかと思われます。
 ノウハウないしオープンにするほどではない些細な技術内容(例、ある種のパラメーター)については、文献に明記されないことがあり、その部分を特徴として後に特許出願され、
審査官が特許性を否定する根拠を見出せないために特許されてしまうことがあります。
 上記のような場合に特許性を否定するために引き合いに出されるのが、内在性論(inherent theory, inevitableとも)です。内在性論は、いわば文献の行間を読んで、暗に記載(imply)されているから新規性がないと認定してもらう理論です。
 しかし、やはり記載されていないのは事実ですから、これでもって審判官や裁判官らに新規性欠如を認定させるのは、一般には難しいものがあります。特に日本では難しいように感じます。通常、記載が内在していることを少しでも確からしいものにするために、追試実験などが行われますが、客観性のある再現実験もまた難しいところがあります。
 新規性が否定できないとなると、進歩性を否定する根拠(記載事項)も乏しくなりますから、進歩性を否定することもまた難しくなります。

②内在性論に頼らなくてもよいよう事前に手当しておくことが実務的には重要かと思います。具体的には、真のノウハウでない限り、細かいパラメーター等まで明細書に記載したり、進歩性が低い場合でも
別途、防衛的に敢えて出願し公開しておくことが肝要かと思われます(場合によっては特許取得もする)。少なくとも何らかの方法で開示して新規性がない状態にしておくことが好ましいと思います。
 難しい場合もあるかもしれませんが、自社の製品化が進んでから後悔しないためにも検討に値する実務であると思います。

③なお、当業者には些細なことかもしれず進歩性も低いかもしれないような技術内容でも、一般に知られていない事項について積極的に特許取得を図り、実際に特許を取得することはビジネス上有効な場合があるかと思います。そのような技術は通常使いたいところ、他社の特許があれば、無効かもしれないと思っても当該特許を無視して採用することはリスクがあり(火中の栗を拾うのは怖い)、自ら敬遠し撤退してくれる場合もあるからです。


以上、ご参考になれば幸いです。
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