知財アラカルト

医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


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平成27年(2015年)6月10日知財高裁3部判決
平成26年(行コ)10004号等 行政処分取消義務付け等請求控訴事件等

控訴人:国
被控訴人:レクサン・ファーマシューティカルズ、コーリア・リサーチ

 本件は、特許庁審査官がした特許査定の取消を出願人ら自らが求めた事件について、その取消を認容した東京地裁の判決(原審)知財高裁が取り消した
事件に関するものです。結局、特許査定の取消しを知財高裁は認めませんでした。
最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85163

(1)事件の概要
被控訴人(出願人)らは、医薬化合物(主な用途:抗癌剤)について特許出願(特願2007-542886号)を行いましたが、拒絶査定の行政処分となったことから、それを不服として拒絶査定不服審判を請求すると共に、手続補正書を提出したところ、拒絶査定は覆り、特許査定の行政処分が下りました。
 しかし、特許査定後、上記手続補正書の内容に誤り(ミス)があることに担当弁理士は気づきました。即ち、担当弁理士は、誤って真意と異なる内容を記載した手続補正書を提出してしまっていました。具体的には、請求項1中の「R1及びR2は各々水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたはハロゲンであり」の部分を「R1はフッ素であり,R2は水素原子,C1-C3アルコキシ,C1-C3アルキルまたは塩素であり」と補正する予定だったところ、誤って
R1はフッ素であり,R2は塩素であり」と補正してしまいました。
②そこで、被控訴人(出願人)らは、本件特許査定を取り消すべく
行政不服審査法(以下「行服法」という。)に基づく異議申立てを特許庁長官に行いました。しかし、特許庁当該異議申立ては不適法と判断し、(門前払い)しました。
 そこで、被控訴人らは、行政事件訴訟法(行訴法)に基づいて、
本件特許査定には、担当審査官が本件補正の内容について審査をせずに査定をしたか、被控訴人らの真意と異なる内容の手続補正書であることを看過し、実質的な審査をしなかった重大な瑕疵があるなどと主張して、①本件特許査定の無効の確認と、これを前提として、②本件特許査定の取消しを求めて被控訴人らがした行服法に基づく異議申立てについて、特許庁長官が、本件特許査定はその対象にならないから不適法であるとしてした却下決定(以下「本件却下決定」という。)の取消し、及び③特許庁審査官に対して本件特許査定を取り消すことの義務付けなどを求めました。
原審・東京地裁では、本件特許査定の担当審査官には、本件補正が被控訴人らの真意に基づくものであるかどうかを確認すべき手続上の義務があったにもかかわらずこれを怠った重大な手続違背があるとし、かかる瑕疵をもって本件特許査定が無効であるとは認められないものの、本件特許査定は違法として取消しを免れないとし、被控訴人らがした上記異議申立ては適法であるから、これを不適法とした本件却下決定は誤りであり、本件特許査定取消しの訴えは出訴期間を遵守しているなどとして、本件特許査定の取消し及びこれを前提とする本件却下決定の取消しを求める限度で、被控訴人らの請求を認容しました。
 要するに、原審・東京地裁は、被控訴人の主張を概ね認め、特許査定の取消しを認容しました。
④争点としては、次のような事項があります。
1)本件特許査定の取消しの訴えの適法性について
 その中に、特195条の4の「査定」特許査定が含まれるか否か、即ち、拒絶査定のみを指すのか否かがあります。
2)本件却下決定についての取消事由の有無について
3)本件特許査定の無効事由の有無について
4)本件特許査定の取消義務付けの訴えの適法性について

(2)知財高裁の判断
 
上記各争点について、知財高裁は、原判決とは異なり、本件特許査定の取消しを求める部分に係る訴えは不適法であり却下を免れず本件却下決定の取消しを求める部分は理由がないと判断し、本件特許査定の無効確認及び本件却下決定の取消しを求める部分は、原判決と同様に、いずれも理由がないと判断しました。また、本件特許査定の取消しの義務付けを求める部分に係る訴えは、いずれも不適法であり却下を免れないと判断しました。
①本案前の争点(本件特許査定の取消しの訴えが、出訴期間を徒過したものか特195条の4の「査定」に特許査定が含まれるか否か)
[前提]
 被控訴人らは、特許査定を取り消すべく、特195条の4の「査定」拒絶査定のみを意味すると解して、行服法に基づく異議申立てを特許庁に行ったところ、特許庁は同規定による「査定」は特許査定も含むと解して、当該異議申立てを却下しました。その却下の決定に対して、被控訴人は行訴法に基づき出訴したわけですが、もし、特195条の4の「査定」に特許査定も含まれるのであれば、行服法の規定に基づく、特許査定に対する異議申立て自体が不適法となり、そうすると、そのような不適法な異議申立ての決定に対して行訴法に基づく出訴もできないことになります。
 特許査定の取消しを求めるのであれば、最初から行訴法に基づき出訴する必要があり、本件では特許査定の謄本送達日からその出訴期間の6月を経過していたことから、本来的に出訴できないことになります。
 したがって、
特195条の4の「査定」に特許査定も含まれるか否かが大きな問題となります。
[裁判所の判断]
 裁判所は、特許法における「査定」の用法、特195条の4の制定経緯等に照らして、特195条の4の「査定」には特許査定も含まれると解し、概ね以下のような理由により、
本件特許査定に対して行服法による不服申立てをすることは認められず、本件異議申立ては不適法なものであって、これを前提として、本件訴訟における本件特許査定の取消しの訴えについて行訴法14条3項の規定を適用することはできない、本件特許査定の取消しの訴えは、行訴法14条1項の定める出訴期間を徒過して提起された不適法な訴えであるといわざるを得ず、却下を免れない、と判示しました。
ア)法(特許法、以下同じ)の用法に照らすと、法195条の4の規定についても、
「第10章 雑則」に置かれているという規定の位置や、前後の条文から、明らかに拒絶査定や特許査定を特定して指すものと解されるものではないから、同条の「査定」には、特許査定、拒絶査定のいずれも含むものと解するのが自然であるということができる。
イ)大正10年特許法の下では、109条の「査定」には特許査定も含まれ、これに対する審判請求が可能であるとの見解も存在していたところ、現行法は、121条において、特許査定に対しては審判請求ができないことを明確にしたものである。しかし、その際、訴願法との関係を定めた旧177条、行服法との関係を定めた旧195条の2(現在の法195条の4)の規定は、「査定」という用語を使用し、
審判請求の対象を拒絶査定に限定したことに合わせて、これを拒絶査定に限定することはなかったのである。
 このような制定の経緯に照らせば、法は、特許査定を含めて、「査定」を、行政上の不服申立ての対象から除外する趣旨であったと解するのが相当というべきである。
ウ)現行法の下では、行服法による不服申立てが認められないとしても、行訴法に基づく抗告訴訟を提起することにより司法的救済を求めることができることはいうまでもないから、特許査定に対する不服申立ての途が閉ざされるものではない。そして、ある処分に対する不服について、司法的救済以外に救済ルートを設けるかについては、立法政策に属する問題であり、立法府の合理的裁量に委ねられたものというべきである。
 特許査定に対する不服申立てとしては、不服申立ての利益の有無が問題とされるような、極めて例外的な事案であって、非定型的な内容を含むものであることが想定されるところであるから、このような類型の紛争については、特許庁としての専門性を前提とした審査より、法的判断に関わる審査を優先し、行服法に基づく行政的救済ではなく、直接、司法的救済のルートに委ねるという選択がされたとしても不合理ということはできない
エ)以上のとおり、法における「査定」の用法、法195条の4の規定の制定経過等に照らして、「査定」の文言は文理に照らして解することが自然であり、このように解しても、特許査定の不服に対する司法的救済の途が閉ざされるものではないこと、特許査定に対し、司法的救済のほかに行政上の不服申立ての途を認めるべきかどうかは立法府の裁量的判断に委ねられており、その判断も不合理とはいえないことからすれば、法195条の4の「査定」が拒絶査定のみに限定され、あるいは、処分に審査官の手続違背があると主張される場合の特許査定はこれに含まれないと解すべき理由があるとは認めることができない
②本件却下決定についての取消事由の有無について
 法195条の4の「査定」には拒絶査定のみならず特許査定も含まれると解される。そうすると、特許査定は、行服法4条1項ただし書の「他の法律に審査請求又は異議申立てをすることができない旨の定めがある処分」に当たる。したがって、本件特許査定に対して行服法に基づく異議申立てをすることは認められないから、本件異議申立ては、同項に違反し不適法であり、却下を免れない。
③本件特許査定の無効事由の有無について
ア)本件補正の錯誤無効に関する被控訴人らの主張について
[被請求人らの主張]被控訴人らの担当弁理士により、被控訴人らが意図していたところとは異なる補正内容を記載した手続補正書が特許庁に提出され、これに基づいて本件特許査定がされたものであるところ、被控訴人らは、本件補正について、いわゆる表示上の錯誤があったとし、このような錯誤に基づく本件補正は無効であり、無効な補正を前提とする本件特許査定も無効であると主張。
 これに対して、裁判所は、概ね次のように判断し、被控訴人らに錯誤があったことを理由に、本件補正が無効であるということはできないと判示しました。
ア-1)法は、書面主義の下で、錯誤による書面の記載内容真意との間の齟齬の是正については厳格な要件の下にのみこれを許容しているものといえるから、ある書面が、作成者の真意とは異なる内容の記載になっていたとしても、その真意を問わず、書面の記載に従って手続が進められるものであって、そのことは、我が国における特許出願、審査のルールとして、手続に関わる者において周知のことといえる。
 そうすると、仮に、真意と異なる記載について、法の規定によらずに、一般的な意思表示の錯誤を理由としてその効果を否定することができる余地があり得るとしても、それは、上記のような法の趣旨に照らしても許容することができる場合に限られるというべきである。そして、上記の法の趣旨を勘案すると、そのような錯誤が認められる場合としては、その齟齬が重大なものであることに加えて、少なくとも、当該書面の記載自体から、錯誤のあることが客観的に明白なものであり、その是正を認めたとしても第三者の利益を害するおそれがないような場合であることが必要であるというべきである。
ア-2)前提事実及び弁論の全趣旨によれば、本件補正書に記載された本件補正の内容は、被控訴人らが真に意図していたところとは異なるものであると認められる。
 しかしながら、本件補正書の記載内容は、補正前の特許請求の範囲を減縮しようとするものであって、同書面の記載上、特段の問題があるとは認められない。また、本件補正書と同時に提出された審判請求書の記載を見ても、同請求書には、「上記補正は、請求項1において、R1をフッ素に限定し、R2を塩素に限定し(特許請求の範囲の限定的減縮にあたります)・・・適法な補正です。」と、R1及びR2の組合せが明確に特定されており、この記載に照らしても、一見して本件補正の内容に疑義を容れる余地があるとは認められない。そうすると、本件
補正書の記載については、上記のとおり、審判請求書の記載内容とも整合し、それ自体整ったものといえるから、その記載自体から、錯誤があることが客観的に明白なものと認めることはできないし、その是正を認めた場合に第三者の利益を害するおそれがないということもできない。
ア-3)書面主義の考え方からすれば、書面の記載内容その提出者の意思を反映しているものとして取り扱われるのであり、特許出願においては、願書や添付書類、補正書に記載されたところの特許出願が審査官による審査の対象となる。そうすると、審査官は、出願人の出願に係る上記書面に記載された発明が、特許要件を満たすかどうかを判断すれば足り、これを超えて、出願人の出願内容がその真意に沿うかどうかを確認すべき義務を負うものではないというべきである。
イ)本件特許査定が無効であるか
 裁判所は、概ね次のように判断して、本件特許査定は無効でないと判示しました。
イ-1)行政処分は、それが国家機関の権限に属する処分としての外観的形式を具有する限り、仮にその処分に関し違法の点があったとしても、その違法が重大かつ明白である場合のほかは、これを法律上当然無効というべきではない(最高裁昭和25年(オ)第206号昭和31年7月18日大法廷判決)
イ-2)(特許出願の審査において、)審査官が、特許出願に対する審査を全くすることがなかったか、あるいは実質的にこれと同視すべき場合には、これによる査定には、法の予定する審査を欠く重大な違法があるというべきである。もっとも、法が特許無効審判の制度を設けていることからすれば、特許要件の判断等について審査官がした審査の内容に誤りがあるとされるにとどまる場合には、同審判における無効理由として、同審判による是正が検討されるべきことになるものと解される。
イ-3)被控訴人らは、担当審査官は、本件補正が審査基準に照らせば新規事項の追加に当たることについては、これを看過したといわざるを得ないと主張。
 しかし、本件補正後の本願発明が特許要件を具備しているかどうかについては、本願発明の進歩性、請求項の明確性、明細書のサポート要件及び実施可能要件について、それぞれ検討を経た上で本件特許査定に至ったと評価することができ、その検討過程や検討結果が、明らかに不合理であるとまでいうことはできない
 このような担当審査官による審査の内容を全体としてみれば、それが、およそ審査の体を成すものではなかったとか、あるいは審査していないに等しいものであったと評価することはできないものというべきである。そして、担当審査官が新規事項の追加の点を看過したことによって、本件特許査定に係る特許が無効理由を含むこととなったとしても、その点は、無効審判請求における判断対象となるにとどまり、これによって直ちに、担当審査官が全く審査をせず、あるいは実質的に審査をしなかったのと同視すべき場合において本件特許査定をしたことが裏付けられるということはできない。

(3)コメント
①特許出願が特許査定になれば、出願人としては目的達成ですから、本来なら特に不服なくそれを受け入れるものと思います。しかし、本件のように、ミスでクレームを減縮し過ぎてしまったような場合、特許査定を一旦取り消してもらい、本来望むクレームに修正し直したくなることがあるかもしれません。
 本件は、正にそのような事例を扱ったものと思います。そして、原審・東京地裁は、
単純なライティングミス(ヒューマンエラー)でクレームを減縮してしまい、それで特許査定に至った場合でも、電話などで担当審査官と事前に議論し、本来希望するクレーム案を知らせていたような場合などでは、その特許査定を取消しうる旨の判決をしていました。しかし、控訴審の知財高裁は、その原審の判断を否定しました。
原審の判決を見たときには、少し驚きました。書面主義・審査主義の下、譬え単純なライティングミスで真意と異なるクレームをファイルしてしまっても、それで特許査定に至ったら、外形的には書面の内容が出願人の最終意思と判断されるはずですから、その特許査定はもはや取り消すことはできないのではないかと思っていたからです。
 今回の知財高裁の判決により、当初の認識とのズレがなくなり、ホッとしました。いくら場外で担当審査官に真意を伝えていたとしても、
単純なライティングミスでクレームを減縮してしまい、それで特許査定に至ってしまった場合には、もはやその修正はきかないと、改めて思いました。また、それが書面主義・審査主義を取る日本の特許制度上の建前であるようにも思われます。
 
尤も、今は特許査定後の分割出願が認められていますので、それによれば何とか単純なライティングミスでも取り繕うことができる可能性はあると思います。
③なお、判決にもある通り、特許査定であっても、その行政処分に重大かつ明白な違法性があれば無効ないし取り消すことができます。仮にそうしたい事案が発生した場合は、特195条の4の規定により、行服法による異議申立てを行うことができず行訴法に基づいて、いきなり裁判所(東京地裁)に訴えを6月以内に提起しなければなりませんので、留意が必要です。
④本事件では、担当弁理士によるクレームの単純なライティングミス
(ヒューマンエラー)が問題となったわけですが、そのようなミスは人間ですから起こしうることだと思います。もし起これば、出願人(クライアント)に多大な損害を与えることになり兼ねません。特に医薬化合物発明の場合には、その損害は甚大なものになる可能性があります。
 そのためにも弁理士として常に何らかの対策が求められるかと思います。少なくとも二者によるダブルチェックや、トリプルチェックなどは怠ってはならないでしょう。
 なお、アメリカでは再発行特許制度というものがあり、一定期間内であれば、特許後にクレームを拡張することができますので、本事件のような場合でも救われる途は日本以上にあるかと思います。その点、アメリカは保護が厚いなと改めて思いました(第三者にとってはウォッチングの負担が増え厄介ですが)。

以上、ご参考になれば幸いです。
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