知財アラカルト

医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


テーマ:
平成27年(2015年)4月28日知財高裁4部判決
平成25年(行ケ)10250号 審決取消請求事件

原告:宇部興産
被告:東レ・デュポン

 本件は、実施可能要件サポート要件とを認めた審決を裁判所が取り消した
事件です。裁判所は、まず、クレーム中の一部態様について実施可能要件を充足しないと判示し、一部態様について実施できないからサポート要件も充足しないと判示しました。
最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85069

(1)事件の概要
本件特許(特許4777471号)は、発明の名称を「ポリイミドフィルムおよびそれを基材とした銅張積層体」とするものであり、その請求項1(本件発明1)と請求項9(本件発明9)は、次の通りです。
1)請求項1(本件発明1)
「パラフェニレンジアミン(PPD),4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(併せてODA)からなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムであって,該ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07~2.0μmである微細シリカを含み,島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50~200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMDが10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTDが3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり,前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルムを基材としこの上に厚みが1~10μmの銅を形成させた銅張積層体を有することを特徴とするCOF用基板。」
2)請求項9(本件発明9)
「パラフェニレンジアミン
(PPD),4,4’-ジアミノジフェニルエーテルおよび3,4’-ジアミノジフェニルエーテル(併せてODA)からなる群から選ばれる1以上の芳香族ジアミン成分と,ピロメリット酸二無水物(PMDA)および3,3’-4,4’-ジフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)からなる群から選ばれる1以上の酸無水物成分とを使用して製造されるポリイミドフィルムであって,該ポリイミドフィルムが,粒子径が0.07~2.0μmである微細シリカを含み,島津製作所製TMA-50を使用し,測定温度範囲:50~200℃,昇温速度:10℃/minの条件で測定したフィルムの機械搬送方向(MD)の熱膨張係数αMDが10ppm/℃以上20ppm/℃以下の範囲にあり,前記条件で測定した幅方向(TD)の熱膨張係数αTDが3ppm/℃以上7ppm/℃以下の範囲にあり,前記微細シリカがフィルムに均一に分散されているポリイミドフィルム。」
②本件発明9は、本件発明1に係る
COF用基板の基材であるポリイミドフィルムに関するものです。また当該ポリイミドフィルムは、特定の3つの芳香族ジアミン成分のいずれかと特定の2つの酸無水物成分のいずれかとを併用して製造され(4成分系や2成分系がある)、一定の物性(熱膨張係数)を有するものと規定されています。
特許庁は、本件特許について、明細書の記載や技術常識に基づき、実施可能要件もサポート要件も充足すると判断しました。
 この特許庁の判断に対して、裁判所は、まず、本件発明9に係る一部の特定の2成分系ポリイミドフィルムについて実施可能要件を充足しないと判断し、そのフィルムを本件発明1は含んでいるから本件発明1も実施可能要件を充足しないと判断しました。その上で、当該2成分系ポリイミドフィルムは実施できないから、本件発明9の課題を解決できるといえず、サポート要件も充足せずそのフィルムを本件発明1は含んでいるから本件発明1のサポート要件も充足しないと判断しました。

(2)裁判所の判断
 請求項1(COF用基板)、請求項7(銅張積層体)及び請求項9(ポリイミドフィルム)が独立請求項であるところ、請求項1及び7いずれも請求項9に規定されたポリイミドフィルムの構成をそのまま含み、その余の請求項もいずれも請求項9に規定された発明特定事項を含むことになるので、裁判所は、事案に鑑み、本件発明に共通して含まれる発明特定事項である本件発明9について検討し、そのポリイミドフィルム成分の特定の組み合わせ(ODA/BPDA)について、次のように判示しました。
実施可能要件(特36条4項1号)
1)ODA/BPDAの2成分系について、本件明細書は、具体的に溶媒含量、温度条件、延伸速度等をどのように制御すれば熱膨張係数が本件発明9の程度まで小さくできるのかについて具体的な指針を何ら示していない。本来、実施可能要件の主張立証責任は出願人である被告にあるにもかかわらず、被告は、本件発明9の熱膨張係数の範囲を充足するODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの製造が可能であることについて何ら具体的な主張立証をしない。
 したがって、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識を考慮しても、4,4’-ODA/BPDAの2成分系フィルムについては、本件発明9の熱膨張係数の範囲とすることは、当業者が実施可能であったということはできない。
2)2成分系ポリイミドフィルムのうち、少なくとも4,4’-ODA/BPDAについては、当業者が、本件明細書及び本件優先日当時の技術常識に基づいて製造することができるということはできないから、本件発明9のポリイミドフィルムは、実施が可能ではないものを含むことになる。そうすると、本件発明1~8,10,11についても、実施が可能ではないものを含むこととなるから、本件発明について、当業者が実施可能な程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明が記載されているということはできない。
②サポート要件(特36条6項1号)
 PPD/ODAとBPDA/PMDAの4成分系ポリイミドフィルム、及びPPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては、当業者が、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき、これを実施することができる。そうすると、PPD/ODAとBPDA/PMDAの4成分系ポリイミドフィルム及びPPD/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識により、当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということができ、サポート要件を充足するというべきである。
 しかし、少なくともODA/BPDAの2成分系ポリイミドフィルムについては、当業者が、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識に基づき、これを実施することができない。そうすると、上記2成分系のポリイミドフィルムの構成に係る本件発明9は、本件明細書の記載及び本件優先日当時の技術常識によっては、当業者が本件発明9の上記課題を解決できると認識できる範囲のものということはできず、サポート要件を充足しないというべきである。

(3)コメント
①本件判決について、2つの点に注目しました。一つ目は、クレーム中の一部の特定の組み合わせについて実施できないと認定され、クレーム全体が実施可能要件違反と判断された点と、二つ目は、実施できないからサポート要件にも違反すると判断された点です。
②一つ目の点について、マーカッシュ択一記載において、一部の特定の組み合わせについて実施できないと認定されれば、クレーム全体が実施可能要件違反と判断されたことは妥当か思います。原告は、そのような態様は当該発明の実施品でないから、それが存在しても実施可能要件違反にはならないと主張しましたが、ダメでした。
 尤も、そのような組み合わせ態様は、権利者にとって実施できなければ基本的に無くても実害がないように思われ、訂正で削除して当該問題を解消することができるようにも思われました。
 なお、上位概念の一部が実施できない場合、それを含む上位概念全体が否定され、クレーム全体が実施可能要件違反となるかは別問題かと思います。ある態様について効果があり、その態様を含む上位概念で発明を表現することは通常のことであり、上位概念の端から端まで実際に効果があるか否かは、特に化学では実験しなければ分からない部分もあるらからです。
③二つ目の点については、実施可能要件違反であればサポート要件違反にもなることを示唆しているように思います。確かに実施可能要件違反であるのにサポート要件違反でない場合はないのかもしれません。
 逆に実施可能要件を充足していてもサポート要件違反の場合はあると思います。実施できても、クレーム範囲全体に渡って当該課題を解決できると認識できないこともあると思うからです。これらのことからすると、サポート要件の方が上位のようにも見えます。
 両要件は、詳細な説明の記載要件かクレームの記載要件かの違いはあるものの、相互に補完し合っていると思います。しかし、一部重複しているようなところもあり、その線引きは難しいところがあります。発明の適切な保護と利用の観点からは、敢えて線引きする必要もないのかもしれませんが。
④その他、判決でも指摘されていますように、実施可能要件の立証責任は出願人にあることも留意を要します。
 また、実施可能要件等が否定された当該2成分系については、後願発明の新規性を否定する根拠にはなりがたいと思います。進歩性を否定する根拠にはなり得るとは思います。

以上、ご参考になれば幸いです。
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