知財アラカルト

医薬、バイオ、食品、化粧品、一般化学、高分子などの化学系分野に関する知財判決(主として特許と商標)や知財報道を取り上げ、その要点をコンパクトにまとめると共に、その要点についてコメントを付し、皆様方のお役に立つような情報として提供していきたいと思います。


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平成27年(2015年)3月25日知財高裁1部判決
平成26年(行ケ)10145号 審決取消請求事件

原告:X1,X2
被告:ペガサス・キャンドル

 本件は、無効審判請求における訂正請求が認められると共に、出願過程における手続補正新規事項の追加に当たらないなどとして、請求棄却(特許維持)とされた審決が、裁判所によって取り消された事件に関するものです。
取消のポイントは、誤記訂正の適否の判断にあります。
最高裁HP:http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail7?id=85011

(1)事件の概要
①本件特許(特許4968605号)は、発明の名称を「ローソク」とするものであって、出願過程において2回の手続補正がなされ成立したものです。原告は当該特許に対して、無効審判を請求したところ、被告特許権者は、特許請求の範囲について1つ、明細書について6つの計7つの事項を訂正する訂正請求を訂正申立書により行いました。
 この中、審決が取り消される原因となった訂正事項5と6は、次の通りです。
[訂正事項5]
 段落【0025】に「実施例2と同一方法でスチール製のつめ状具でこそぎ落した」とあるのを、「刺抜きでこそぎ落した」に訂正する。
[訂正事項6]
 段落【0025】に「先端部のワックスがそぎ落とされた燃焼芯の重量から先端部に残ったワックスの被覆量を算出したところ、6本とも先端部のワックス被覆量は、燃焼芯の先端部以外の部分に被覆されたワックスの被覆量の24%であった。」とあるのを削除する。

②上記2つの訂正事項は、審決の予告において、新規事項の追加(特17条の2第3項違反)に当たるとの審判合議体の判断が示されたことから、補正前の記載に戻すために、誤記の訂正として行われたものです。

 問題は、結局のところ、出願過程における補正が新規事項の追加に当たりそうな場合に、補正前の記載に戻すことが、誤記の訂正ということで可能か否かということになります。

(2)裁判所の判断
①裁判所は、まず、出願過程で行われた多くの手続補正について、先の大合議判決(知財高判平成20年5月30日特別部判決・平成18年(行ケ)第10563号)で示された、特許法17条の2第3項に係る下記法理に基づき新規事項の追加に当たらないと判断しました。
『(特許法17条の2第3項)でいう「当初明細書等に記載した事項」とは、当業者によって、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項と解するのが相当であり、補正が、このようにして導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであるときは、当該補正は、「当初明細書等に記載した事項」の範囲内においてするものということができると解される。』
②続いて、裁判所は、前記訂正事項5と6について、誤記の訂正として認めた審決を、概ね次のような理由により誤記の訂正に当たられないとして否定しました。また、不明瞭な記載を明瞭にする訂正でもないとも判断されました。
ア) 誤記の訂正が認められるためには、まず、特許明細書又は特許請求の範囲に「誤記」、すなわち、誤った記載が存在することが必要である。しかし、[訂正事項5に係る]補正F1は、本件当初明細書に、段落【0025】の各実験例の燃焼芯の作製方法について「(ワックスを)刺抜きでこそぎ取った」と記載していたのを、「(ワックスを)スチール製のつめ状具でこそぎ落した」と言い換え、実施例2とこそぎ落としの方法が同一であることを明瞭にしたものであり、[訂正事項6に係る]補正F3は、本件当初明細書には、段落【0025】の各実験例の燃焼芯からワックスをこそぎ取った割合(ワックスの残存率)が明らかにされていなかったのを、ワックス残存率が24%であること明らかにしたものであり、これらの補正内容自体が誤ったものであるとも、補正後の記載事項が、補正前に記載されていた事項と技術的に相容れない事項であるとも認められないから、そもそも、補正F1又は補正F3に係る補正後の記載内容(本件訂正前の記載内容)自体に、誤りがあるとは認められない。
イ) 訂正の経過をみても、被告は、本件訴訟に先立つ無効審判請求において、原告らから、補正F1及びF3が新規事項の追加に当たるとの無効理由が主張されたのに対し、当初これを争い、補正F1及びF3は新たな技術的事項を導入するものではない旨主張していたものの、審決の予告において、これらの補正が特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとの審判合議体の判断が示されたため、初めて、本件補正後の記載を補正前の記載に戻すために、訂正事項5及び6の訂正を請求するに至ったものであり、被告自身も、本件補正後の記載内容自体が誤っている、との主張をしているものではない。
ウ) 「誤記又は誤訳の訂正」とは、その文言上、記載内容自体が誤っているときに、その記載を正しい記載内容に訂正することを意味することが明らかであるから、記載内容自体が誤っていない記載の訂正を、同号に含めることはできない。
訂正事項5及び6は、いずれも本件特許明細書中の実験に関する部分(段落【0025】)であって、特許請求の範囲の文言の解釈に影響を与えるような部分についての訂正ではないから、特許法134条の2第1項ただし書1号の特許請求の範囲の減縮や同4号の請求項間の引用関係の解消を目的とするものではないことは明らかである。
エ) 本件特許明細書の訂正事項5及び6に係る部分(補正F1及びF3により補正された部分)は、補正前の当該部分の記載内容自体又はその他の記載との関係を明瞭にするために、補正されたものであり、それ自体が意味の不明瞭な記載となっていることや、その他の記載との関係で不合理を生じて不明瞭になっている記載を見出すことはできないし、そうである以上、本件特許明細書に存在した訂正事項5,6に係る部分の記載を訂正又は削除することによって、何らかの事項が明瞭になるとも認められないから、訂正事項5,6は特許法134条の2第1項ただし書3号の明瞭でない記載の釈明を目的とするものともいえない
 したがって、訂正事項5,6は、特許法134条の2第1項ただし書の各号に掲げられたいずれの事項を目的とするものとも認められない。

(3)コメント
特許後の誤記の訂正に関する基準ないし意義を示した珍しい判決ではないかと思います。判示事項は、当たり前のような気もしますし、杓子定規に過ぎるような気もします。権利者側にとっては幾分厳しいように思われます。
 本判決によれば、出願過程で行った補正が新規事項の追加に該当し、それを抱えたまま特許になってしまうと、それを削除したり元に戻したりすることが非常に難しい、殆ど不可能ではないかと思いました。特に明細書の補正が新規事項の追加に該当した場合、それを誤記や不明瞭との名目で削除や戻しの訂正を行うことは、当該補正事項が真にそうでない限り、通常は無理のような気がします。尤も、クレーム
の文言解釈に影響を与えるような部分についての訂正であれば、クレームの減縮として可能性はありますが、非常に稀ではないかと思います。
 クレーム内の補正であれば、新規事項の追加であっても、誤記か不明瞭かに拘りなくクレームそのものを削除する手立てがありますので、治癒の可能性はあると思います。クレームそのものを削除せず、クレーム内の補正事項を単に削除するのみでは、構成要件の減少によるクレームの拡張になる危険性がありますので、注意が必要です。
 そうしますと出願過程で行った補正が新規事項の追加であると特許後に判明した場合、もはやそれを克服できず特許無効を回避することが基本的にできない場合が多いように思われます。特許無効を回避するためには、真っ向から新規事項の追加でないことを立証する必要があります。
 なお、本件特許の場合は、当該訂正が認められなくても、そもそも出願過程の補正は新規事項の追加でないと認定されていますので、適正な補正として特許性が検討され直ちに特許無効となることはないと思われます。
②出願過程における諸々の手続補正が新規事項か否かに関しては(特17条の2第3項違反か否か)、裁判所は、前記大合議判決で示された法理を基準に判断しました。即ち、「新たな技術的事項を導入するものであるか否か」という基準から新規事項の追加でないと判断されました。
一見するだけでは、新規事項の追加に思えたのですが、当初明細書の記載を総合して判断すると、新規事項の追加ではないと判断できるとのことでした。
 上記基準は、特許庁における以前の基準である「直接的かつ一義的な補正か否か」という基準に比べれば、結構広く補正を許容するものであり、出願人としては有り難いものかと思います。
 しかし、
「新たな技術的事項を導入するものであるか否か」という比較的緩やかな基準で判断されるとしても、安易に補正することは、当然ながら慎むべきと思います。万一、当該基準でも新規事項の追加に該当し、それを抱えたまま特許になってしまうと、前記の通り、それを治癒することが大変困難となるからです。仮に補正するとしても、やはり以前のような「直接的かつ一義的な補正か否か」という厳しい目の基準で行う方が安全かと思います。補正をしないで済ませられれば、それに越したことはありません。

 以上、ご参考になれば幸いです。
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