ある脳外科医のぼやき

脳や脳外科にまつわる話や、内側から見た日本の医療の現状をぼやきます。独断と偏見に満ちているかもしれませんが、病院に通っている人、これから医療の世界に入る人、ここに書いてある知識が多少なりと参考になればと思います。
*旧題「ある脳外科医のダークなぼやき」


テーマ:

長らく書き続けてきた動脈瘤治療の話ですが、

最後は巨大脳動脈瘤の治療の話です。

 

実は、以前にもこのようなテーマの記事を書いたことがあります。

その際には主にバイパス併用の開頭クリッピング術について書いたように思います。

 

これらの手術がいまだに、動脈瘤治療における、開頭術の中で最も高度な技術や豊富な経験を要する高難易度手術であることは、

変わりありません。

 

その記事を書いた当時は、

たとえば10mmを大きく超える大型の脳動脈瘤や、

25mmを超える巨大脳動脈瘤に関して、カテーテルによる血管内治療、コイル塞栓術の成績は芳しくない印象でした。

 

というのも、治療自体はできるのですが、

根治性が低かったのです。

 

詰めても、詰めたコイルが押しつぶされてしまうコンパクションと呼ばれる現象や、

動脈瘤そのものが拡大してしまったり、

動脈瘤を治しきることがなかなかできなかったのです。

 

特に、血栓化動脈瘤といって、動脈瘤内の一部が最初から血栓化しているような動脈瘤では、

コイル塞栓術の根治率はさらに下がります。

巨大脳動脈瘤はコイル塞栓術では治らないことが多い、そういう状況でした。

 

そうすると、根治的な治療法は結局は開頭術となっていたのです。

 

ただ、もちろん、動脈瘤が大きければ大きいほど、開頭手術のリスクは高くなります。

動脈瘤のネックが広くなる、母血管との分離が難しくなる、

全体を視認することが難しくなる、動脈瘤と周囲の正常血管などの構造物との癒着が増える、

など、様々です。

 

実際、巨大な脳動脈瘤の開頭手術を十分な安全性で治療できる脳外科医は限られます

脳外科医ならだれでも治療できるというような物ではないのです。

 

開頭手術による大型の動脈瘤の治療に関しては、こういった状況はこれまでも、

そしてこれからも変わることはないだろうと思います。

 

近年、変化がみられてきたのは、

この、大型の脳動脈瘤に対する、血管内治療の進歩です。

 

その大きな原動力となっているのは、

ステント、と呼ばれる、血管内に留置する筒状かつ網目状の金属デバイスの進歩です。

 

1.ステントを用いることで、動脈瘤内により密にコイルを詰めることができる。

2.ステントを用いることで、整流効果といって、瘤内への血流を減らすことができる。

 

の2つが主な効用です。

 

1については正常の母血管の内側に金属の筒を置くことで、動脈瘤のネックの部分に金属の網目の壁を作ることによってなされます。

これによって、動脈瘤内に詰めたコイルが母血管側に出てきにくくなるので、

ネックの広い、従来コイルを詰めることが難しい動脈瘤でも瘤内をしっかりコイルでパックすることが出来るようになるのです。

 

2については、金属の網目が壁のような役割をなすことで、血流が瘤内に入りにくくなることと、

あとはステントを血管内に留置することで、血管が直線化され、瘤内に血流が入りにくくなることの二つの作用から、

瘤内の血流が停滞しやすくなると言われています。

 

ステント併用コイル塞栓術ではこの2つの効果に期待するわけです。

それによって、大型の動脈瘤の根治性が高まってきたのです。

実際、10mm、15mmを超えるような動脈瘤も、この治療法で結構詰まりきって治ることも少なくありません。

 

そして、この手技は同じ動脈瘤を開頭で治すよりは難易度も危険性も低いものと思います。

 

さらに、近年では上記の、2の効果を最大限に高めた、

フローダイバーターと呼ばれる治療デバイスが大型の動脈瘤の治療の主役として、台頭しつつあります。

 

フローダイバーターとは、フロー、つまり、血流を、ダイバート、つまり、逸らすものです。

血流を逸らす、何から?というと、もちろん、動脈瘤からです。

 

フローダイバーターは本質的にはステントとかわりません。

違うのは、金属量が多く、要は網目が細かいのです。

 

コイル塞栓術のアシストで使うステントは、

LVISという、網が最も細かいものでも、金属被覆率が20%ちょっとです。

一方でフローダイバーターは4割を超えますので、それだけ血流がステントの筒の外型に流れるのを防ぐことになります。

 

つまり、このフローダイバーターと呼ばれる種類のステントを動脈瘤のある母血管に留置すると、

瘤内に血流が入りにくくなるのです。

正に、血流を瘤から逸らすんですね。

 

血流の停滞した瘤は自然とそのうち、血栓化して、血が入り込まなくなる。

そういったメカニズムで動脈瘤を治療するのがフローダイバーターです。

 

このフローダイバーター、日本で当初行われた治験では、21人中2人が動脈瘤が破裂して死亡するという、

高い合併症率でした。死亡率が9%もあったのです。

国外では5%程度と言われていたので、国内でやや高かったのです。

 

そのため、使用が非常に限定されるようになりました。

つまり、脳血管内治療学会の、動脈瘤治療における重鎮しか使用が許されないような方針になったのです。

 

それは現在も続いていて、国内でも限られた施設でしかこの治療は行えません。

 

フローダイバーター留置が危険と考えられているのは、

大型動脈瘤の中でも、瘤の間口、つまりネックが狭くて、

もともと瘤内に血流のジェットのような所見がアンギオで見られているようなもの、とされています。

 

イメージとしては、瘤内に血流がびゅんびゅん流れ込むような動脈瘤では、フローダイバーターを置くだけで治療を完結するのは、

危険と考えられています。

 

しかし、近年ではフローダイバーター留置に、瘤内をある程度コイル塞栓することを加えることで、

そういった術後破裂を予防できるようになっているとのことです。

 

日本では現在、パイプラインと言う名前のフローダイバーターが最も使用されていますが、

市販後の重篤な合併症は1-2%程度に抑えられていたと聞きます。

 

このくらいのリスクの数字であれば、

これはおそらく、開頭手術での治療よりもリスクは低いでしょう。

当代一の開頭手術の名手でも、巨大脳動脈瘤の手術においてこの数字よりリスクを下げるのは難しそうです。

 

そうなってくると、自然と今後は巨大な脳動脈瘤は開頭手術よりも、

血管内治療、フローダイバーターによる治療、となっていくのだろうと思います。

 

どんどんと血管内治療が台頭してきていて、少しずつ開頭で治療される動脈瘤が減ってきているのが時代の流れですが、

逆に、むしろ小さな動脈瘤というのは今のところ血管内治療は難しいので、

破裂した小型脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術は今後も残り続けるかもしれません。

 

さて、動脈瘤の話は一旦これくらいで終わりにしようと思います。

次回から何を書こうか悩みますがリクエストのなかから書く題材を選んでいきたいと思います。

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